第37話

 ――クイーンとシュウの戦い、シュウは次々生まれるバグを前に苦戦を強いられていた。


(ちっ!これじゃ近づけねぇ・・)

(あの女、こんだけの量バグ作って平然としてやがる、一体どんな体の構造してやがんだ)


 狼たちの攻撃を紙一重で躱し、切り裂いていくシュウだった。


 しかしクイーンは絶えずバグを生み出しシュウに向かわせる。


「随分頑張るのね、見直しちゃったわ」

「もっと早く出会って勧誘しておくべきだったわね」

「あなたならゼン様の役にたてたかもしれないのに、もったいないわ」


「うるせぇよ!」


 バグを切り裂きシュウが一気にクイーンに近づき攻撃をしかける。


 だがあと一歩の所で横で待機していたバグがシュウに飛び掛かり脇腹に噛みつく。


「・・ぐっ!くそ!」


 噛みついたバグを斬り消し去るが、噛みつかれた箇所から血が流れる。


(ハァ・・パワーも攻撃力も普通のバグとはけた違いだ・・)

(なんとかしねぇと、このままじゃじり貧だぞ・・)


「ほら、そんな事じゃ私は倒せないわよ?」


 鞭を振り、さらにバグを繰り出すクイーン。


 シュウは必死にその攻撃を凌ぎ、バグを切り裂いていく。


「ハァ・・ハァ・・」


「そんなになってまで、なぜこの世界を守りたいのかしら?不思議だわ」

「こんな世界壊してしまうほかないじゃないの、それが救いよ」


「何言ってんだテメェ・・」


 息を切らしながらシュウはクイーンを睨みつける。


「だってそうでしょう?人が生きる意味なんてなにもない」

「全ては虚しく機械に飲まれていく、人の価値なんて存在しないわ」

「ゼン様は全てを支配してくださる、人々はゼン様の元で幸せになれる」

「くだらない世界で、こんな私にも目的と力を与えてくださった」


「だったらなんだ、犯罪に手ぇ染めてなにやってもいいってか?」


「少なくとも、あなたがこんな所で痛い目に合う必要は無くなるじゃないの」

「私たちに手を貸しなさい、そうすればきっとあなたも新しい世界を見れるわよ?」


 クイーンは左手を前に出し手招きした。


「ハッ!ふざけんじゃねぇよ」

「てめぇは逃げてるだけだろうが」


「どういう意味かしら?」


 言葉を吐き捨てたシュウに不満げな顔で視線を送るクイーン。


「辛くても、痛くても、虚しくても」

「人は生きていかなきゃいけない、前に進まなきゃならない」

「どんなに世界が進化しても、人の在り方は変わらねぇんだよ」


 シュウは姿勢を直し、武器を再び構える。


「てめぇは自分の嫌な事から逃げて、他人にすがってるだけだ!」


「フンッ!威勢の良い事を言って!貴方に何が出来るっていうの!?」


「やるしか、ねぇんだよ!」


 声を上げ、シュウはクイーンの元に一気に走り込む。


「甘いわね!勢いだけで勝てるはずないわ!」


 クイーンは鞭を思い切り地面に叩きつける。


 周りにいた狼と、新たにクイーンの体から生まれた狼達が一斉にシュウに噛みつく。


 体中に噛みつかれ、シュウはクイーンの一歩手前で動きが止まる、しかし・・


「止まらねぇ、負けるわけにはいかねぇんだ!!」

「オラァァ!!」


 シュウは気合を入れると、なんとバグ達を全身にぶら下げたまま歩みを進めた。


「!!!」

「噓でしょ!?」


 その気迫と、体から血を吹き出しながらこちらに進むシュウを見て、一瞬だがクイーンは怯んで後ずさりした。


「ハァァァ!!」


 シュウは最後の力を振り絞り、武器を思い切り前に突き出す。


 その一撃が、クイーンの左肩を貫いた。


「ぐっ!?くぅぅ・・」


 クイーンは必死に抵抗しようと右手で武器に手をやろうとするがその前にシュウが武器のボタンを押し、傷から全身に電流が流れる。


「あぁぁぁぁぁ!?」


 電流によりクイーンが気を失うとバグは消え、彼女はその場に横たわった。


 その時、フロアの電気が全て消え、少しの沈黙の後電気が再び灯る。


「バロウはうまくやったみたいだな」

「ハァ・・思ったよりも怪我しちまった、チクショウ・・」


 シュウはその場に座り込んだ。


 ――「シュウ!シュウ!無事か!?」


 しばらくして、バロウがリンと共にシュウがいるフロアに入ってきた。


「あぁ、何とかな・・いってて・・」


「今手当する、ちょっと横になれ」


 バロウはシュウに応急処置を始めた。


「そっちも片付いたんだな、無事じゃなさそうだけど」


「うん、終わったよ」


 リンは左肩の傷を抑えながら少しほほ笑んだ。


「電力を落としてヒューマノイド達の動きは相当鈍った」

「後は警官隊の方で問題なく制圧できるだろう」


 手当てをしながらバロウは状況を報告する。


「よし、取り敢えず止血は出来た、動けるか?」


「まぁ何とかな、痛みは我慢するしかねぇだろ」


 シュウに声をかけると、バロウはクイーンの元に行く。


 クイーンの体の上に装置を置き起動すると、彼女の体は拘束された。


「これで幹部は捉えた、後はゼン・クルーク本人だな」


「やっとここまで来たか」


 3人は深呼吸しながらエレベーターの元へと進む。


「まずは兎に角相手を疲れさせる所からだ」


「オッケー、沢山能力を使わせて、装置の起動は任せるよ!」


「マクレイから貰った装置は2つ、1つはシュウに渡しておく」

「タイミングが見つかったらいつでも投げろ」


「あいよ」


 打合せをしながらエレベーターに乗り込み、ジャミング装置を一つシュウに手渡すバロウ。


 最上階に到着し、3人は警戒しながらエレベーターを降りる。


 レッドカーペットが敷かれ、絵画や高級な置物が飾られた多きなフロア。


 その奥、都市を見渡せる巨大なガラスと大きなデスク。


 ゼン・クルークその人が窓から街を見下ろし佇んでいた。

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