対するは狂気の化身達

第36話

 ――リンとシュウの前に立ちはだかるジョーカー。


 こちらを見てケタケタと笑っている。


「三度目、今度こそあなたを捕まえる」


「クヒヒッ!そうかよ、やれるもんならやってみろ!」


 高笑いするジョーカーの顔をリンはキッと睨む。


 するとジョーカーは後ろを向き指をさした。


「あぁ上に行くエレベーターはあそこだぜぇ?」


「なんだよ、通してくれんのか?」


「俺が興味あんのはそこのリンだけだ、他は知ったこっちゃねぇ」


「そうかい」


 警戒するシュウだったが少ししてリンの顔を伺う。


「私は大丈夫、必ず追いつくから、先に行って」


「オーケー、待ってるぜ」


 返事をしてたシュウはジョーカーが指さしたドアに走りだした。


「さて、始めようぜぇ!いい加減てめぇをぶっ殺したいところだったんだ!」


「・・・・」


 シュウがエレベーターに乗り込んだのを確認してから、リンは大きく深呼吸をした。


「そっちがこねぇならこっちからいくぜぇ?」


 ジョーカーが両手を開き構えると、以前まで使っていたデジタルの黒い球体がなんと両手に現れた。


「!!!」


「クヒヒ・・これでてめぇを殺す」


 両手の球体を剣の形に変え、ジョーカーはリンに突進する。


「ハァ!」


 気合を入れてその斬撃を受け止めるリン。


「クヒッ!クハハハハ!」


 ジョーカーが狂ったように声を上げ、歪んだ笑顔で何度も斬撃を繰り出す。


 リンは冷静にその攻撃を捌きながら相手を分析している。


 少しの剣戟を交わすと、2人の間に距離が生まれた。


 するとジョーカーは左手の球体を数本の棘に変え、複数の角度からリンに向かわせる。


(落ち着いて)


 自分に言葉をかけ、左手を突き出すリン。


 マクレイの開発したバリアが、棘をすべて防ぐ。


「ほぉ・・バリアか、いいじゃねぇか!やっぱりお前は最高だ!!」


 再び走り出した二人がぶつかり、激しい剣戟を繰り広げていく。


 ――その一方で、シュウは一つ上の階に到着していた。


 豪華なシャンデリアに煌びやかな装飾がなされたホールは、まるでパーティー会場の様だった。


「あら、いらっしゃい」


 美しいドレスに身をまとった妖艶な女性、クイーンがこちらを見てほほ笑んでいる。


「ジョーカーの坊やはやっぱり通したのね、予想はしていたけれど」


「何を話しても無駄な事は分かってる、さっさと始めようぜ」


 シュウは武器を構え呼吸を整えた。


「あら、せっかちね」

「でも物わかりのいい子は嫌いじゃないわ」


 そういってクイーンは手に持っていた細い鞭を地面に叩きつける。


 クイーンの体から大小様々な大きさの狼の姿をしたバグが何体も飛び出て唸り声を上げる。


「全てはゼン様の野望ため!死んでもらうわ!」


 再びクイーンが鞭で地面を叩くと、バグ達が一斉にシュウに向かって飛び掛かった。


 ――激しい剣戟を繰り返し、次第に息づかいが荒くなっていくリンとジョーカーの戦い。


 リンは右の太ももに、ジョーカーは右腕に傷が付き少しの血が流れていた。


(能力は脅威だけど、この前よりもさらに大振りになってる)

(力を扱いきれてないんだ、このまま続ければ必ずチャンスがくる!)


 しっかりと相手と状況を見据えながら、リンはジョーカーの懐に踏み込む。


「フッ!」


 思い切り踏み込んだリンの一撃がジョーカーを仰け反らせる。


 更に一撃入れようとするが、サッとジョーカーは後ろに下がり距離を取る。


「ソラァァァ!!」


 左手の黒い球体が、今度は一本の太い棘になりリンに向かう。


 咄嗟に左手を前に出しリンはバリアを張るが、棘はバリアを貫通してリンの左肩を貫く。


「ぐっ!」


 苦しい顔で左肩を抑えるリン、集中を切らさぬよう痛みに耐えるが、抑える右手に血が滴る。


(まだ動くには動くけど、これは痛いな・・)


 隙を作らないようにジョーカーの顔を見ているリンだったが、その時、ジョーカーの鼻から突然血が流れた。


「クッヒッヒッヒ・・」


 小声で笑いながら、ジョーカーは袖で鼻血を拭う。


「やっぱり・・」

「あなたの体はもう限界なんだ、力に蝕まれてる」


「ハッハッハ!だからどうした!俺は俺の壊したい物を壊すだけだ!」

「自分の体なんてどうだっていい!気にくわねぇ奴をぶっ殺すだけなんだよ!」


 大声で叫び、リンに切りかかるジョーカー。


 攻撃を受けるリンだったが、明らかに力が弱まっているのが分かった。


「そんなんじゃ、私は殺せないよ!」


 目を見開き、一気に力を入れ、ジョーカーの刀をパァン!と弾く。


 腕ごと弾かれバランスが崩れるジョーカー、その隙をリンはしっかり捉え、次の攻撃を繰り出す。


「ハァァ!」


 リンの繰り出した突きが、ジョーカーの体を貫いた。


「が・・っはっ・・」


 リンが刀を体から抜くと、ジョーカーはその場に膝をつく。


「これで・・終わりだよ」


 ジョーカーのこめかみに柄を当て、電流を流すリン。


「うっ・・」


 ブースターが壊れると、ジョーカーはぐったりと倒れ込む。


 ――薄れていく意識、その中でジョーカーは昔の事を思い出していた。


「君がジョーカーか、随分人殺しを楽しんでいる様じゃないか」


「あぁ?なんだてめぇは」


「私はゼン・クルーク、この世界の支配者になる者だよ」


「支配者だぁ?そんなくだらねぇことしている奴が俺に何の用だ」


 睨みつけるジョーカーを余裕の表情で見下すゼン。


「私の下につく気はないかね?そうすれば、いくらでも暴れられるぞ?」


「てめぇの下に付くだと?ふざけやがって!」


 ゼンに向かって殴りかかるジョーカーだったが、ゼンが作り出したデジタルの壁に阻まれ後ずさる。


「!?」


「なに、ただでとは言わん、もし傘下に入ってくれるのなら相応の待遇を用意しよう」

「君の犯罪は私が根回しして捜索を妨害しよう、更なる力を与えることも出来る」

「君は好きに暴れてくれればそれでいい、悪い話ではないだろう?」


「そんなことをして・・てめぇには何のメリットがあんだよ」


「なに、私はこの世界全てが欲しいだけさ」

「君にとっても、きっとより良い世界になるはずだよ」

「私と一緒に世界を変えようじゃないか」


 そういって手を差し伸べるゼン。


(クックック・・何がより良い世界だ、てめぇは俺の事を駒としか思ってねぇ癖によぉ)

(くだらねぇ・・やっぱりこんな世界は・・くだらねぇ)


 ジョーカーはゆっくりと目を閉じ、気を失った。


「ハァハァ・・終わった・・つっ!」


 ようやく緊張が解けたリンだったが、痛みで少し体を震わせた。


「先を急ぎたいけど、手当てしないと・・」

「シュウ、無事でいて・・・・」

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