第35話

 ――リズとの通信から約1時間、その時がやってきた。


 警察による通信が都市全てのモニターや通信機に流れ込み、そこにはリズの凛々しい姿が映し出される。


「こちらは都市警察総帥、リズ・カーライトだ」

「緊急放送につき、全ての放送局をジャックしている」


 リズの鋭い視線が通信越しに緊張感を放っていた。


「我々はクルークカンパニーの実態を暴くべく長期間調査をしてきた」

「この映像はクルークカンパニーの実験工場に潜入して入手したものだ」


 画面が切り替わり、この間バロウ達が撮影した装置の映像が流れる。


「奴らはバグを敵として排除しながら、自分たちの手で作り出す技術を研究し悪用している」

「この町で暴れているバグの中には奴らが自分で作った物もいるということだ」


 さらに画面が切り替わり、以前ゼン・クルーク本人が喋っていた映像が流れる。


「この世界全てを自分たちの管理下に置き、支配する」

「それがクルークカンパニー・・いや、ゼン・クルークの目的だ」

「指名手配犯であるジョーカーも、奴の部下として動いている」


 映像が終わり、再びリズの姿が映し出される。


「そして奴らの作った電脳ゴーグル、通称ブースターだが」

「深刻な健康被害を引き起こし、最悪洗脳されるような事態にも成りかねない」

「我々、そして政府はこのブースターを違法な装置と認めこれを取り締まる事を決定した」

「ついてはクルークカンパニー社長、ゼン・クルーク及び幹部の一斉検挙を執り行う」


 リズが椅子から立ち上がり、前かがみに机に手をやりながらカメラに視線をやる。


「これより警官隊、特殊部隊はクルークカンパニー本社に突入し奴らの身柄を確保する」

「作戦を開始せよ!」


 大きな掛け声と共に、通信は終了した。


「よし!いくぞ!」


 その掛け声を皮切りに、バロウ、リン、シュウの3人を先頭にして警官隊達も走り出す。


 ――クルークカンパニー最上階・社長室


 ゼン・クルークが窓から外を眺めている。


「ゼン様、警官隊達が突入を始めたようです、いかがいたしましょう?」


 クイーンとジョーカーがゼンの元に歩み寄りながら話しかける。


「奴らは我々に歯向かう唯一の組織だ」

「ここで潰してしまえば我々の敵はいなくなる、全ては思うが儘」

「全ての駒を起動し応戦しろ、バグ達も好きに使ってかまわない」


「かしこまりました」


「クヒヒ!」


 深くお辞儀をするクイーンと横で不気味にほほ笑むジョーカーだった。


 ――リン、シュウ、バロウの3人は警官隊と共にビルに突入した。


 一階のロビーは非常に広く、そこに何体ものヒューマノイドやドローン、バグの姿も確認できた。


「流石に多いな、2人とも少し警官隊を手伝ってここで殲滅してくれ」

「制圧できて来たらエレベーターで上に上がれ、俺もすぐに追いつく!」


「オッケー!」


 リンとシュウはグラスを装着し武器を構えて戦闘態勢に入る。


「予定通り何名かは俺についてきてくれ!電力部をハッキングする!」

「バグは視認できない物がいる可能性もある、十分に注意しろ!」

「ドローンは発砲してくる、無茶はするなよ!」


「はい!」


 バロウは大声で警官隊に指示を出すと、何名かの警官と共にエレベーターで地下に降りて行った。


 多くの警備ロボットとバグがリン達に向かい攻撃をしかけてくる。


「ハッ!」 


 リンとシュウの2人はその攻撃を綺麗に躱しながら次々に切り裂いていく。


「囲んで取り押さえろ!」


 大きな盾を持った部隊を先頭に、後ろから電流が流れる警棒を持った警官達が攻撃をしかけ、制圧している。


 順調に戦闘を行ってはいるものの、ヒューマノイドは次々に別の部屋から流れ込んで来ている。


 バグもまた、ロビーのいたるところからヌルっと侵入してきていた。


「俺たちの方が囲まれてるな、外にも搬入口があったのか」


「バロウが電力を落とすまで、持ちこたえるしかないね!」


 そんな会話をしながら、リンとシュウは戦いを続ける。


 ――地下一階に到着したバロウは電力部を探し、警官隊と走っていた。


「やはり、1階に気を取られて警備が手薄だな」

「あの部屋だな、行こう!」


「はい!」


 リズから受け取った内部のマップを確認しつつ、電力の制御室に到着した。


 そこには監視カメラの映像を映す画面がいくつもあり、一階で戦うリン達の姿が映っていた。


「待ってろよ、直ぐに落としてやるからな」


 バロウはノートパソコンを取り出し、制御室のパソコンに繋いだ。


 ――1階ロビーでの戦闘はまだ続いていたが、警官達の配置は強固な物で、押し寄せる相手を跳ね返していた。


「全て倒そうと思わなくていい!とにかく押し返せ!」


 警官隊の隊長が指示を出しながら、敵を押しのけ道を確保する。


「リンさんシュウさん!後は我々に任せてください!」

「お二人はエレベーターで上へ!ご武運を祈ります!」


「わかりました!皆さんどうか無事で!」


「よし、行くぞ!ここは任せたぜ!」


 2人は隊長に声をかけ、エレベーターの中に駆け込んだ。


「一番上に行けばオッケーだったな」


 シュウがスイッチを押すと、エレベーターは凄まじいスピードで上へ進んでいく。


「ここから先はエレベーターを乗り換えるんだよね」


「あぁ、簡単に通してくれるとは思えねぇけどな」


 エレベーターが一番上に到着し、ドアが開く。


 黒と白で塗装されたフロアに1人分の机と椅子、物の少ない簡素な空間に一人たたずむ男。


「クッヒッヒ・・来たかよ」


 不気味に笑みを浮かべながら、ジョーカーがこちらを見ていた。

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