第32話

 ――息をひそめながら、3人は工場の中を進んでいく。


 建物内は静まり返っており、人もヒューマノイドも見当たらない。


「ガラス張りの部屋が多いし、工場ってより実験施設か?」


 シュウが小さく呟くと、目の前には大きなガラス張りの空間が広がっていた。


「静かに、あそこに誰かいるな」

「近づいてみよう、音を立てないようにな」


 ガラス張りの空間の少し上の方に大きめの部屋があり、そこには一人の男性がなにかをしていた。


 バロウの指示を受け、3人は横の通路から部屋に向かう。


 部屋につながるドアは開けっ放しになっており、3人はこっそりと部屋の隅に入る。


 バロウは小型のカメラで室内を撮影し、カメラのズームで男性が操作するパソコンの画面を覗いていた。


 男性はパソコンを操作し何かを入力している。


 ――その時、前方の大きな空間に置いてあった装置が動き出す。


「!?」


 3人はその装置に目を向ける。


 装置の中にはブースターが置いてあり、それを中心に動物や人、様々な形を模った骨組みのような光が生まれる。


 その形が次第に実体を帯びていき、装置の中でバグが出来上がった。


 バグ達は装置から放たれると、唸り声をあげ部屋を走り回っていた。


(なんてこった、こんなに簡単に作れるシステムが出来上がっていたのか・・)


 バロウはその装置や出来上がったバグを撮影しながら考え込んでいた。


「あら、随分出来のいい子たちじゃない、これは使えそうね」


 突然声がしたと思うと、部屋に一人の女性が入ってきた。


 アニメに出てくるような煌びやかなドレスを身に纏い、こめかみにはブースターが埋め込まれている。


 この場所に合わないその姿が、異様な空気を作り出していた。


「これはこれはクイーン、順調に製造出来ていますよ」

「貴女に協力して頂いたデータを元に、以前よりもより強力な個体が製造可能になりました」


「それは良かったわ、少しはゼン様の役に立ちそうね」

「全てを支配するためにはより多くの手駒が必要ですもの」


 冷たい笑みで嬉しそうに話すクイーンと呼ばれる女性。


「ジョーカー様ももう少し協力して頂ければ、より良い物が作れると思うのですが・・」


「あの坊やには何を言っても無駄よ、自分以外を信用していないもの」

「だからこそ、駒としてはこの上無く優秀なのだけど」


 残念そうな男性だったが、クイーンは気に留めていない様子。


「折角だし、私の子と戦わせてみましょうか」


「!?」


 驚いた様子の男性、クイーンは前に歩いていきガラス張りの空間に繋がっている窓を開ける。


「遊んであげなさい」


 こめかみに埋め込まれたブースターが起動すると、前に突き出した右手から狼の様なバグが生れ落ちる。


「グウオオオオオ!!!」


 クイーンが生み出した狼は、猛烈な唸りをあげ部屋にいるバグ達に突進する。


 装置から生まれたバグ達も、反撃をしようと動き始めるが、その狼は凄まじい勢いで相手をかみ砕き、あっという間に部屋にいたバグは全滅した。


「あらまぁ、フフフ・・流石にまだ私の子には勝てないかしらね」


 そういうとクイーンは指を鳴らす、すると狼はクイーンの体に吸い込まれて消えていった。


「とはいえ順調ね、頑張って頂戴、期待してるわ」


「かしこまりました」


 クイーンはそう言うと部屋を出ていく、男性は緊張した様子で深く頭を下げた。


「情報は手に入った、撤退しよう」


 その様子をそばで見ていた3人だったが、バロウの小さく声をかけ工場を後にした。


 ――しばらく会話もなく、車に向かって歩いていた3人。


「よし、もう大丈夫だな」


 そういって腰の装置のボタンを押し迷彩を解除するバロウ。


 バロウをみて、リンとシュウの2人も迷彩を解除する。


「ぷはっ!はぁはぁ・・緊張した!」


「ふーやっと終わったか」


 緊張の糸が切れたように脱力する2人、車に乗り込み拠点へと向かう。


「色々と撮影は出来た、証拠は十分だろう」

「厄介そうな敵も確認できたしな・・」


「あのクイーンとか言う女、相当やべーな」

「あいつの作ったバグ、あれは今まで見たことないレベルに異常だった」

「一目でヤバさが分かる、何ていうか濃度が違うような感じがしたな」


「確かに、とんでもない強さのバグだったね・・」


 今日見たことを思い返しながら、シュウとリンは深刻な表情をしていた。


「とにかく、全面戦争の時は近づいてきてる」

「あの女も含め、全部叩きのめす準備をしないとな」


「うん、頑張ろう」


「やるしかねーもんな」


 車は拠点に向かいハイウェイを飛ばす、決戦の時は刻一刻と近づいていた。

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