潜入

第31話

 ――早朝、バロウがデスクの上で何かの装置をいじっている。


「んー、おはよー」


 リンが眠そうな顔でこちらにやってきた。


「あれ?またなにか新しい装置?」


「あぁ、今日は大事な仕事が入っててな、そのための物さ」


「へー今度は何するの?」


「その時のお楽しみだな!」


 どこか楽しそうなバロウ、少しするとシュウが部屋に入ってくる。


「おはー」


「おはよう、今日は大仕事だぞ」


「そうなん?」


「おぅ!とにかく飯だ!腹が減ってちゃ戦は出来ないからな!」


 まだ眠たそうな2人をよそに、元気いっぱいのバロウ。


 3人は手際よく朝食を用意し、食事を始めた。


 ――食事を終えると、コーヒーを飲みながらバロウが仕事の説明を始める。


「警察から情報が入ってな、バグを作っているであろうクルークカンパニーの工場が見つかった」


「まじか、意外と早かったな」


「かなり力を入れて捜査してくれてたからな」

「クルークカンパニーの物流を調べるうちに、一件怪しい工場が見つかったそうだ」


 リンとシュウはバロウの話を食い入るように聞いていた。


「工業区の外れにぽつんと立ってる工場で、社名は伏せているらしい」

「だが、その工場にクルークカンパニーからかなりのブースターが持ち込まれてる」


「確かに、怪しさ全開だね」


「確認するまでもなくいい事は行われてねーだろうな」


 ため息をつくシュウ、リンも険しい表情を見せる。


「で、どうやって中に入るんだ?前回バレちまったからもう正面からは無理だろ?」


「そこでこの装置の出番ってわけさ」


「ん?なんだそれ」


 にやけているバロウが装置を腰に着け、スイッチを押す。


 すると、バロウの周囲に透明な幕がかかり、バロウの姿が周りに溶け込み消えていく。


「んな!?ステルス迷彩か!?」


「おぉぉ!凄い私初めて見た!」


「どうだ?いいだろう?ちょっくら借りてきた!」


 姿は見えないがウキウキのバロウ、リンも一緒にはしゃいでいる。


「借りてきたって、どんだけ金積めば借りれんだよこんな物・・」


「なに、そこはコネだよコネ!緊急事態だからな、快く貸してくれたぜ!」

「軍用の物なんだけどな、リズ経由で俺の知り合いに連絡してもらったのさ」


 そういうとカチッとスイッチを押す音が鳴り、バロウの姿が元に戻る。


「警察の方で工場に入るカードキーは手配してもらってる」

「後はこっそり入口を開けてこれで潜入だな」


「かくれんぼ作戦だね!」


「そんな可愛いもんじゃねぇけどな」


 ワクワクしているリンと、冷めた感じのシュウ。


「さて、準備でき次第出発するぞ、装備はしっかり揃えろよ」


「りょーかい」


 やれやれといった感じでシュウは自室に入っていく。


 ――10分ほどして、準備を整えた2人が戻ってきた。


「よし、じゃぁ出発だ!」


 拠点を出て3人は車に乗り込む、バロウがスイッチを押すと車は音もなく起動しゆっくりと発進した。


 車はハイウェイを軽快なスピードで飛ばしていく。


「その工場って、結構遠いの?」


「そんなに遠くじゃないんだが、なにしろ建物が少なくて目立つ場所なんだ」

「だから少し離れた場所に止めて、そこから歩いて行かないとバレるな」


「なるほど、慎重にいかないとね!」


「楽しそうだなオイ・・・・」


 どうにもソワソワしているリンを見て、どこか納得がいかない様子のシュウ。


 ――しばらくして、車はハイウェイを降り工業区に到着した。


 以前に来た場所に比べて建物が少なく、ぽつりぽつりと大きな工場がある程度の場所であった。


「この辺りで止めるか、ちょっと歩くぞ」


「こんな所止めていいのか?」


「少しくらい大丈夫だろ、車両用のステルス迷彩もあるからな!」


「・・・・もうなんでもいいわ」


 楽しそうなバロウを見て、シュウは完全に呆れ顔だった。


 3人は目的の工場に向かって歩き始める。


「そろそろ、迷彩を起動しないとな」


 バロウは2人に装置を渡す、その装置を腰に付けボタンを押すと、みるみる3人の姿が周りに溶け込み見えなくなる。


「凄いねこれ!こんなに近いのに2人の場所もなんとなくしかわからないよ」


「あんまり激しい動きをすると見えやすいから気を付けてな」

「あと、当然だが音は遮断できない、静かに動けよ」


「りょーかい」


 バロウへの返事が何故か小声になるリンだった。


「あそこだ、気を引き締めろよ」


 バロウが2人に声をかけると、目の前には広い敷地にポツンと立つ工場があった。


 以前潜入した工場に比べそこまで巨大な建物ではなく、入口も小さな物だった。


「いきなり入ってセキュリティに引っかからないのか?」


「警察の方でカードキーに細工して貰ってある、少なくとも機械相手なら完全に騙せるはずさ」


 入口には警備用のヒューマノイドがいたが、バロウは気にすることなくカードキーをドア前でかざした。


 すると、ドアが開くと同時にカメラなど周辺の機械が一瞬動作を停止した。


 3人はゆっくり中に入る、ドアが閉まると、再び周りの機械達が動き始めるのがわかった。

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