第30話

 ――車で現場に向かう3人、バロウが運転しながら状況を説明している。


「今回行くのは警察本部前だ、一般市民のヘイトが大分リズの方にいってるみたいでな」

「警察の前だってのにそこで抗議集会が開かれてるんだとさ、怖いもの知らずな連中だ」


「ホントに一般市民なのかねぇ・・」


「さぁな、さっきも言った通り普段から警察や政府を嫌う人間には格好の機会だからな」

「雇われたサクラだっているだろ」


「ただでさえみんな不安になってるのに、嫌な事だね」


 そういってリンが窓から外を眺めると、抗議集会の現場が見えてきた。


 そこから少し離れた場所に車を止め、3人は外を確認する。


「すでに警官隊が対応に当たってるから、俺達はここから様子を見よう」

「何か異常があればそこから俺達が入る事になってる」


「オッケー」


 抗議集会では小型の拡声器を持った男性が大きな声をあげている。


「警察は無能!無責任!クルークカンパニーこそ本物の正義だ!」

「私たちは自分の身を守らなければならない!政府や警察なんて、あてにしてはいけない!」


「そうだ!そうだそうだ!」


 男性の話を聞き、周りの人たちが更に大きな声を上げている。


「あーあ、好き勝手言ってくれやがって」

「何も知らないやつは気楽でいいよなー」


 ぶーたれながらシュウはその様子を見ていた。


 現場は抗議に参加した人と警官隊が睨み合い、一触即発の状態になっていた。


「こんな所で声を上げても、何の意味もないんだけどな」


「なんか、みんな頭に血が上っているだけな感じがするよね」


 バロウとリンも現場を見ながらポツポツと呟く。


 ――その時、フラフラと警官隊に一人の男が近づき、ドォン!という音が響いたと思うと警官隊の数人が衝撃で吹き飛ぶ。


「おいおい!ありゃ普通じゃないぜ!」


「あぁ、ジャンキーが混ざってたみたいだな」


「早くいかないと!」


 3人は現場に近づこうと急いで車に乗り込む。


「取り押さえろ!」


 警官隊が男を取り押さえようと動き出すが、男はすぐさま止めてあった車に乗り込み逃走してしまった。


「おい!無事か!?」


 警官隊の所まで来たバロウが車の窓を開け、警官に問いかける。


「バロウさん!怪我をした者はいますが大したことはありません!」

「それよりも、あの車を追って頂きたい!」


「わかった!ここは任せるぞ!」


 バロウはすぐさま車を発進し、車内にしまってあったサイレンを車の上に置く。


「サイレンなんて久しぶりに使うな、まったく」


「あそこ!高速に乗ろうとしてるよ!」


 リンが体を乗り出しながら前方を指さした。


 ハイウェイに乗ると、広く見晴らしのいい道路に男の車が走っていくのが確認できた。


 しかし、追われている事に気が付いたのかグングンスピードをあげ、距離が離れていく。


「なんつー速度で走ってんだあいつ、改造車か?」


「そうだな、あれは普通じゃ追いつけん」


 心配しているシュウをよそに、バロウは何故かニヤッと笑った。


「しゃーないな、こっちも久々に使おう」


 そういうとバロウはハンドルの下にあった安全装置付きのボタンを強く押した。


 すると、車内に突然女性の声でアナウンスが流れた。


「手動運転モードに切り替えました、安全に十分に注意してください」


「なんだなんだ?」


「ハハッ!そのためのハンドルってな!しっかり掴まってろよ!」


 バロウが思い切りアクセルを踏み込むと、車は凄まじい速度で加速し始める。


 シュウとリンはあまりの速度に背中を座席に押し込むようにドサッと寄りかかる。


「きゃぁ!」


「おいおいおい!こっちも改造車なのかよ!」


「こういう事もあろうかとな!なに、ちゃんと許可は取っての事だ!」


「そういう問題じゃねぇだろ!あっぶねぇ!」


「でも凄いよ!ジェットコースターより速い!」


「なにはしゃいでんだよ!」


 絶叫するシュウだったが、リンはワクワクした様子で身を乗り出していた。


 次第に男の車が視界に入り、距離がどんどん縮まっていく。


「そういえばもう一つ使おうと思ってたものがあったんだ」

「マクレイから渡されてな、ジャミング装置の試作品だってよ」


 そう言ってバロウはフロントガラスの下に装置を置いた。


 シュウはその装置を不思議そうに眺める。


「ボタンついてるけどどうすんだこれ?」


「前方に妨害電波を発射するらしいぞ、取り敢えず押してみたらいいだろ」


 バロウは車を男の車のすぐ後ろにつけ、装置のボタンを押した。


 するとぐわぁんと歪むような音が発せられ、前方に空気砲の様な空間が射出される。


 一瞬その空間に男の車が飲み込まれると、突然車がシャットダウンされ、みるみる速度が落ちていく。


「おぉ・・なんかすげぇ装置だな」


「これは便利だな、普通に普段から使えそうだ」


 そんな事を言いながら、男の車の前に停車し3人は外に出て武器を構える。


 動かなくなった車のなかから、動揺した様子の男が出てきた。


「クソ!何しやがった!なんで起動しない!」


「あぁそうか、ブースターも停止したのな」


「く、くるな!」


 シュウは男にゆっくりと近づくと、抵抗しようとする男の首元をガツっと柄で殴り気絶させる。


 男の車を調べようとすると、装置の効果が切れたのか自動的に車が再起動し始めた。


「なるほど、効果はまだそんなに長くないんだな」

「ちゃんと完成すればかなりの物にになりそうだなこれは」


「マクレイさん、本当に何でも作れるんだね」


 関心しながら男の車の中を調べ、バロウは警察に連絡を取る。


「シュウ、警察が来るまで少しの間車を誘導してくれ」


「あいよー」


「あたしもやる!」


 リンとシュウは車から反射棒を取り出し、停車している場所で車を誘導する。


 ――しばらくして、警察の車両が到着し、男は警察車両の乗せられていく。


「御三方とも、ありがとうございました」

「事後処理は我々の方で行いますので、後は任せて頂いて大丈夫です」


「了解、ありがとな」


 3人は挨拶を済ませ、再び車に乗り込む。


「あぁーおっかなかった」


「そう?私は楽しかった!」


「お前なぁ・・・・」


「ハッハッハ!いい車だろ?やっぱり自分の手で運転しねぇとな!」


「あーはいはい、もういいや・・ったく」


 ご満悦なバロウとリンだったが、シュウは煮え切らない様子で座っている。


 車は静かに帰路を走っていった。

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