揺らぐ人々
第29話
――テレビの討論番組、先日明るみに出たバグについて議論する人達。
その中には警察を代表してリズの姿もあった。
「政府や警察はあのバケモノの事を隠していたという事ですよ」
「あんなものを野放しにして、一般市民を危険にさらしていた責任は大きいと思いますがね」
「公表できる状態ではなかった、ということを理解していただきたい」
「警察だけではない、政府もまだ何の対策も整っていなかった」
「闇雲に公にすれば、それこそ大きな混乱を招いたでしょう」
番組コメンテーターに冷静に反論するリズ。
「クルークカンパニーは自ら公表し自らの手で市民を守ると言った」
「そちらの方が余程信頼できると思うのですが、どうですかね?」
「確かに警備に関しては警察だけでなくあぁいった会社の協力も必要です」
「ですが何の前触れもなく突然バグについて公表するというのはあまりにも横暴だ」
「警察では、専用の特殊部隊を創設しようとしていた所だったのですよ」
事情を説明するリズだったが、煽るようにコメンテーターは話を続けた。
「ですが先を越されたというのは警察の怠慢では無いのですか?」
「一般家庭用の電脳ゴーグルまで提供すると言っているんだ、どう考えてもそっちのほうがいい」
「それについては私から強く注意を促したいのです」
「クルークカンパニーの電脳ゴーグル、あれを我々はブースターと呼んでいる」
「使用者に大きな健康被害が出る事例が確認されています」
「くれぐれも使用を控えて頂きたい、それこそ警察が出動する事態になりかねない」
「そんな話、信用に値するとは思えませんがね」
不満そうな顔で吐き捨てるコメンテーター、リズは終始冷静な態度で対応していた。
――拠点でその番組を眺めながら、シュウは大きくため息をついた。
「めんどくせぇ事になったな、正当化しようとする連中ばっかじゃねぇか」
「警察が隠していた、知っていて何もしなかった」
「一般人からすればそう見えても仕方のない事さ」
「金渡されて批判してる奴らもうじゃうじゃいそうだよな」
「そりゃ普段から政府や警察を嫌う連中からしたらチャンスだからな」
やれやれと言った感じでバロウはシュウに応えていた。
「あの宣伝のせいでブースターを手に入れた人も多いだろうし、ここからが大変だね」
シュウの隣に座っていたリンが飲み物を口にしながら言った。
「そうだな、とにかく今は一つでも多くブースターを回収して悪質さを証明しないとな」
「今日も警備の仕事が入ってる、これからそこに向かうぞ」
「なにかイベントか?」
「いや、警察や政府に抗議する集会が行われてるらしい」
「何も無ければいいが、何かが起きても不思議じゃないからな」
「はぁー、んっとにめんどくせぇ事になったな」
バロウと話しながら、シュウはさらに大きなため息をついた。
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