不意の一手
第27話
――昼時の拠点、先日のレイの一件がニュースとなりモニターに流れている。
シュウはソファーに寝っ転がって退屈そうにしていた。
「これから大きな仕事があるってのに、何もない日は暇だなぁ」
「警察が色々とクルークカンパニーの調査をしてくれているが、今のところ変わった情報はないようだしな」
「しばらくは様子を見るしかないさ」
バロウはパソコンを眺めながら返答する。
「ただいま、ご飯買ってきたよ」
買い物を済ませたリンが袋を手にさげながら拠点に入ってきた。
「おう、ありがとう」
「飯だーめしめし」
テーブルに買ってきた物を並べ、いつものように3人手を合わせて食事を始める。
「レイさんの件、ニュースになってたね」
「そこまで大事にならなければいいんだけど」
「そんなに大きな罪にはならないが、なにせ本人が有名人だからな」
「悪い意味で話題性が高すぎたってとこだ」
少し不安げなリンだったが、バロウの言葉に納得した様子でご飯を食べている。
「ご馳走様でした」
食事を終えるとリンは食器を片付け、シュウはテーブルを拭いていた。
その時だった、拠点の電気が一斉に消え付けていたパソコンなども電源が落ちる。
「なんだおい停電か?」
「停電なんてよっぽどの事がなきゃ起こらないはずだが・・」
「見て、信号とかみんな消えてるよ」
混乱した様子で、窓の外を確認する3人。
しかしそのすぐ後、電気がつきパソコンなどは再び電源が入る。
窓の外から見える信号なども元の状態に戻っていた。
「なんだなんだ?随分復旧が早いな」
シュウが不思議そうに話をしていると、突然テレビモニターが映り、画面には都市中心の電力部の映像とキャスターが映っていた。
「皆さん!聞こえていますでしょうか!」
「こちらは都市中央テレビ局、緊急速報です!」
「緊急速報?なにかあったのか?」
強張った表情でバロウ達はモニターを覗き込む。
「私は今、都市の電力の殆どを担っている発電所に来ています!」
「先ほどの停電の原因を調査すべく、ここにレポートに来たのですが・・」
「見てください!謎のモンスターが、発電所の外を徘徊しています!」
カメラが施設の方へ視点を動かすと、はっきりと見えるバグが数体、建物の周りに張り付いていた。
「おいおい!どうなってんだ!?」
「なんでカメラ越しに見えるんだよ!?」
「グラスと同じ機能を搭載したカメラって事か・・!」
「そんな・・なんでわざわざ中継なんて」
動揺が隠せない3人をよそに、モニターではレポーターがただならぬ様子で事態を伝えいた。
「あ!見てください!あれはヒューマノイドでしょうか?」
「モンスターに向かって行きます!なんということでしょうか!戦いが起こっている様です!」
バグに向かって攻撃をしかけるヒューマノイド達の様子をカメラが追いかけ、映像を流す。
「あのヒューマノイド、クルークカンパニーの物だな」
「この撮影班達は・・役者か」
「役者って、雇われてわざとやってるって事かよ!?」
「そうとしか思えん、わざわざバグを映してこんな事するなんてな」
混乱しているシュウだったが、バロウの言葉を受け深く考え込む。
「見てください!モンスターが次々に消えていきます!」
「今はいった情報ですと、あのヒューマノイドはクルークカンパニーの警備用ロボットだそうです!」
レポーターがわざとらしく社名を出すと、映像が切り替わり、画面にはゼン・クルークがこちらを見ながら立っていた。
「皆さん、落ち着いてください」
「発電所を襲ったモンスターは我が社のヒューマノイドが全て沈静化しました」
「社長自らアピールに出てきたわけか、ふざけやがって・・!」
モニターを見ながらバロウが言葉を吐き捨てる。
「あのモンスターはバグと呼ばれるもの、デジタル社会が生み出した大きな欠陥なのです」
「バグは肉眼では捉えられません、どこにでも潜み、理性なく破壊を行います」
画面を左右に歩きながら、ゼンは自信に満ち溢れた表情で説明する。
「ですが安心してください、この世界は我々クルークカンパニーが守ります」
「警備ロボットを始め、この世界のセキュリティは殆ど我が社が担っていると言っていい」
「市民を守り、この世界を守る事が我々の責務なのです」
ゼンが小さな机の前に立つと、カメラはその上に置いてあったブースターを大きく映した。
「この装置は我が社が開発した小型の電脳グラスです」
「これを装着すれば、先ほどのバグを視認できるようになる」
「ただ守られるだけではダメなのです、これからの時代、自分の身を守る手段も持っておかなくては」
「くだらねぇ通販しやがって・・」
「これから皆さんがどのように生きていくかは皆さん一人一人の手に掛かっています」
「我が社の製品を是非ともお役立てください」
険しい表情でモニターを見るシュウだったが、中継はそこで終了し、モニターは元のテレビ番組に戻る。
「クソ!面倒な事になったぞ」
頭を抱えるバロウ、リンとシュウは言葉が見つからない様子で佇んでいた。
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