決断の時
第23話
――街はずれ、一台の車が止まり、中からバロウが出てくる。
重い表情のまま、マクレイの工場に入ってくバロウ。
「よう、元気にやってるか?」
「なんじゃ一人かい?ワシは元気じゃが」
「今日は一人だ、頼みたいことがあってな、今からリズも通信を繋ぐ」
「なんじゃ大事だのぅ」
真剣な表情のバロウを呑み込めない様子で見るマクレイ。
バロウが通信機を操作し、リズに通話を繋いだ。
「やぁ、マクレイの所にいるのか」
「あぁこの前会った親玉の対策を練りたくてな」
「ゼン・クルーク・・やはり一筋縄ではいかないか」
以前工場に潜入した時の出来事を、バロウは丁寧に2人に説明する。
「ブースターを付けていたのは想定内として、ジョーカーよりさらに異質な能力に見えた」
「作り出したピストルも、シュウにぶつけた壁も明らかに実体」
「イメージだけで作ったとは到底思えない精巧さだったよ」
「ふむぅ、実体のピストルを作りよるか」
「それはもうあらかじめ構造をインプットしておるんじゃろうなぁ」
「インプット・・自分の脳にか?」
深刻な表情でリズが質問する。
「そうなるのぅ、どれだけの負荷がかかるか知れたもんじゃないが」
「実体のピストルを出して、それが使えるとなればそうとしか考えれん」
「イメージで作り出した物とそんなに違うもんか?」
「イメージだけでも弾丸を飛ばす位はできるじゃろうが、あらかじめ用意した実体なら威力が桁違いじゃよ」
「構造をしっかり理解した上でそれを作り出すかどうかの差じゃ」
「物としてのクオリティが違うわけじゃな」
「なるほど、実銃と同じと考えた方がいいわけだ」
マクレイの言葉を受けバロウはさらに表情が強張る。
「実体の物を作り出せるんだ、何か対策を打たなければ歯が立たないだろう」
「そうだな、なにか弱点でもあればいいが・・望み薄か」
考え込む2人に向かってマクレイがぼそっと口を開く。
「弱点・・あるにはあると思うがのぅ」
「恐らくじゃがそのゼンという男、感覚がおかしくなっていると思うのじゃよ」
「感覚?五感の話か?」
マクレイの顔を見て聞き返すバロウ。
「言い方は難しいが、その男は相当なジャンキーじゃろ?」
「脳みそに物の構造をインプットして、それを引き出せるほどに電脳に漬かっておる」
「そこまで行くと、全能感が全てに勝って自分の衰えに気づいていないと思うのじゃよ」
「衰え・・確かに歳は60後半位に見えた気がするが」
「そうだな、その位の年齢だったはずだ」
リズがデータを確認しながらバロウに応える。
「じゃろ?本来であればそもそも戦闘なんて出来る歳じゃないんじゃ」
「じゃが本人はケロっとしておる、気づいていないんじゃよ」
「自分の衰え、体にかかる負荷、消耗した体力」
「自分は何でもできる、そういう感覚のせいで大事な事が見えなくなっているんじゃ」
「だとすれば・・能力を打ち破る事さえできれば、か」
マクレイの話を聞いてバロウはさらに考え込む。
「正攻法で突破は難しいとして、すこしでも能力を止めれないものか?」
「強力なジャミングを起こせば少しは止まるかもしれんのぅ」
「いきなり使ってもすぐに復旧されてしまうじゃろうが」
「もしワシが言った通り自分を見失っておるのなら、十分消耗させてからなら効果があるかもしれん」
リズの質問に答えるマクレイ。
「成程な、疲れさせてから一気に押しつぶせれば・・」
「実際に電脳を妨害する物は作れそうか?」
「実際にどれくらい効果があるかはわからんが、妨害するだけの物ならそう難しくないわぃ」
「少し時間を貰えれば大丈夫じゃよ」
「よし、じゃぁ妨害装置については爺さんに任せる」
「あいよ!任せとけぃ!」
マクレイはニコッとバロウに答えた。
話がひと段落着いたところで、リズが不安げな表情で口を開く。
「ところでバロウ、リンの様子はどうだ?」
「かなり動揺してるよ、一番の敵が父親だったんだ、無理もない」
「リンちゃん、心配じゃのぅ」
悲しそうな顔で反応するマクレイを見て、バロウは小さく息をつく。
「これからどうするか、あいつ自身が決断しなければいけない事だ」
「心苦しいが見守るしかないさ」
「そうだな、あの子を信じよう」
「じゃのぅ・・」
そういってリズ達は小さく頷いた。
「それじゃ、拠点に戻ってリン達と話をするよ」
「装置の方の進展があったら教えてくれ」
「あいよ」
「あぁ、また連絡する」
3人での話を終えると、バロウは工場をでて車に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます