第22話
――10分ほど経過しただろうか、リンとジョーカーはお互い徐々に息が上がり腕や足にはうっすらとかすり傷が血を滲ませていた。
「ハァ・・ハァ、いいねぇ!流石俺の見込んだ女だ!」
「うるさい・・今度こそ止めて見せる」
「クヒヒ!やってみろや!ここからが楽しい時間だ!」
上がった息など気にしない様子で狂ったように笑顔で武器を振り回すジョーカー。
その一撃一撃をしっかり受け止めながらリンは考える。
(攻撃が最初より緩くなってきてる、消耗してるんだ)
(冷静に対処していけば、必ず隙が出来る)
状況を分析し、次に打つべき手を冷静に考える。
リンの集中力が最高潮に達した――その時だった。
「退け、ジョーカー」
突然の声にその場の空気が凍り付く。
手を止めガバッと後ろを振り向くジョーカー、するとそこには白いスーツを身にまとった男がゆっくりとこちらに向かって歩いていた。
「てめぇ・・なんでこんなところに居やがる」
「何、ただの興味本位だよ、ネズミの姿を見てみたくてね」
男を睨みつけるジョーカー。
「こんなところで無駄に消耗するな、バカバカしい」
「うるせぇ!今いいところなんだよ!」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
激昂するジョーカーだったが、次の瞬間「パァン!」という音が鳴り響く。
男の顔の横にデジタルで作り出したピストルが現れ、ジョーカーの肩を撃ち抜いていた。
「グガッ・・て・・めぇ!」
ガクッと左肩を抑えうつむくジョーカー。
「退けといっているんだ、死にたくなければ命令を聞け」
「なに、変えは効くんだ、ここで殺してやってもいいんだぞ?」
男は見下した視線を送りながら警告する。
「チッ・・続きはまた今度だ」
ジョーカーは一瞬リンの方を見ると、腰から地面に棒を投げ付け起動したボードに乗りその場を去った。
「おい!大丈夫か!リン!」
「・・・・」
「なにがあった!?」
人形達をすべて片付け、シュウとバロウがリンに駆け寄ってくる。
「これはこれは、自己紹介がまだだったね」
「私はゼン・クルーク」
「クルークカンパニーの代表をやっている者だよ」
「お前が・・」
ゼンの姿をみて驚く3人、よく見ると彼もまたこめかみにブースターが装着されている。
リンは動揺を隠せない表情で立ち尽くしていた。
「そんな・・」
「どうした?リン」
「・・・・お父さん」
「!?」
驚きで咄嗟にリンの顔をみるシュウとバロウ。
「んな・・こいつがお前の親父だってのか!?」
その様子を見ながら何かを考えていたゼンが口を開く。
「お父さん・・そうかお前はリンか」
「フ・・運命とは不思議なものだな、まさか私を嗅ぎまわるネズミの正体が実の娘とは」
「クックック・・」
ゼンは考え込みながら不気味にクスクスと笑っている。
「ゼン・クルークがリンの父親?最悪の冗談だな」
「そうかね?私は面白いと思うがね」
睨めつけるバロウにゼンは余裕の表情を見せる。
「自分の娘がなんで戦っているかわかってんのか?」
「てめぇが自分でバグを自作するようなクズだからだろうが!」
「てめぇのせいでどんだけの被害が出てるか!わかってんのかよ!」
「被害・・被害ねぇ」
怒鳴るシュウにゼンはやれやれといった様子で話し始める。
「君はどうやって世界が回っているか、考えたことはあるか?」
「私たちのお陰で世界は回っているのだよ」
「なんだと?」
「今や世界はすべてデジタル、機械が支配している」
「人々はその中に飲まれ、職も、生きる意味すらも失いかけている」
カツカツと横に歩きながらゼンは会話を進めていく。
「だがどうだ?バグがいれば物が壊れる」
「物が壊れれば修繕をする人間が必要だろう?そこに人間の需要が生まれるわけだ」
「ヒューマノイドといえど制御する人間は必要、その人間は自分の意味を見出せる」
「素晴らしいサイクルだと思わないか?」
「てめぇ、自分が人の為になってるとでも言いてぇのか?」
怒るシュウだったがゼンは全く気に留めていない。
「そういう考え方もある、という話さ。この世界の必要悪というね」
「私はね、全てが欲しいのだよ」
「全てを束ね、全てを統べる本当の支配を手に入れたいのさ」
「ふざけんな!そんなもんの為に犠牲を出して言い訳がねぇだろうが!」
ゼンに向かって走り込み武器を振り下ろすシュウ、しかしゼンの前にデジタルの壁が現れシュウを突き飛ばす。
「シュウ!」
「っ大丈夫だ、いってぇな・・」
吹き飛ばされ、ゆっくりと起き上がりながらバロウに応えるシュウ。
「君は見かけによらず熱い男なのだね、ふふっ嫌いじゃないよ」
余裕の表情で起き上がるシュウを眺めるゼン。
「お父さん、なんで・・こんな事」
「なんだ、父親を前にそんなに動揺する事があるのか?」
「私はお前に微塵も思い入れがないのでね・・意外だな」
「ふざけるな!」
叫ぶバロウの顔を見て、ゼンは嫌気が刺したような顔をする。
「さて、ネズミの正体も分かったことだしこれで今日は帰るとしよう」
「わざわざ出向いて話するだけかよ」
「なに、君たち如き相手にする価値もないのでね」
「必要になれば、その時に消せばいいだけの話だよ」
シュウの挑発にも一切動じず、ゼンはブースターに手を添える。
すると、一人用の椅子の形をした乗り物が現れ、ゼンはそれに腰掛ける。
「それでは、ご機嫌よう」
「私に消されるまで精々頑張りたまえ」
そういってゼンを乗せた乗り物は凄まじいスピードで消えていった。
「なんで・・どうして・・」
落ち着かないリンを、バロウはふわっと抱きかかえる。
「とにかく帰って休もう、冷静に状況整理しないとな」
「うん・・うん・・」
その様子をみて、シュウはとても苦い顔をしている。
車に乗り込み帰路に着く夕暮れ時、激流の様に世界が動きだすのだった。
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