二度目の対峙、そして・・

第20話

 ――「準備できたか?出発するぞ」


 夕方、3人はバロウの車に乗り込み移動を開始する、車内ではバロウが仕事の説明を始めた。


「いよいよ本格的に現場の調査に入る」

「今回はクルークカンパニーの製品工場に直接入って調べるぞ」


「直接って随分一気に話が進んだな、潜入かくれんぼすんのか?」


「なにか作戦があるの?」


 シュウとリンがバロウの顔を見て質問する。


「表向きは電力会社の設備点検って事で入る、正面から堂々とな」

「そこの工場を担当してる本物の電力会社に協力してもらった」


 そういうとバロウ2人にネームプレートを差し出した。


「実際に現場で使われてるネームプレートと同じ物を俺達用に作った」

「これで自由に工場内を回れる、リズの手際の良さにはびっくりだよ」


「すごい、これでしっかり調べらるね」


 ネームプレートを眺めながらリンは頷いていた。


「ブースターをそこで製造しているかは不明だが普通のグラスも作ってる工場だ、なにかあるだろう」

「点検ってことで中を周りながらなにか物があれば写真を撮っておきたいところだ」

「今はまだ意味がなくても、法整備が出来れば一気に押さえられるからな」


「デジタル人形についても、何かあるかもしれねぇしな」


 ぼやきながらもシュウは納得している様子。


 ――車は工業区を抜け都市のオフィス街に面した大きな工場に到着した。


 車を降り入口に向かいながら周りを見渡す3人。


「工場なのに随分ビルに近いところにあるんだな」


「オフィス街のすぐ近くならその分仕事も早いからな」

「立地的には一番高額な物件だろ、大企業じゃないとこんなところに工場構えられないさ」


「それだけ大きな会社ってことだね」


 バロウの説明を聞きながら、シュウとリンは目を見合わせた。


 入口に到着すると、バロウは受付のヒューマノイドに今回の仕事の内容を説明している。


 しばらくして、2人の元に戻ってきた。


「予定通りに話が通ったぞ、これで中に入れる」


「さーてなにが待ってるかねー」


 少しにやけるシュウ、リンはキリっと小さく気合を入れたように真剣な目になる。


 中に入ると、沢山の大きな機械が絶え間なく稼働しているところがガラス越しに見えてくる。


 職員のほとんどがヒューマノイドであり、人間の従業員は数えるほどしか見当たらない。


 すると、一人の従業員がこちらにゆっくりと歩いてきた。


「電力会社の方ですか、ご苦労様です」

「こんな時期に点検なんて珍しい気がしますが・・」


「我々もはっきりと理由は聞いてませんが、上からの指示でしてね」


 顔を曇らせる従業員にバロウが話をぼやかしながら説明する。


「いつのも点検を行うだけですよね?まぁ毎回任せっきりなのでよくわかりませんが」


「えぇ、いつも通りの点検で終了ですよ」

「普段通りのルートで行うだけですので特に気にしていただかなくても大丈夫です」


「わかりました、じゃぁお願いします」


 従業員はどこか表情が硬いままだったが、話を終えて別室に入っていった。


 それを見て、シュウが小声でバロウに話しかける。


「おい、点検のルートってなんだ?そんなん知らねーぞ」


「それもちゃんと電力会社から聞いてる、大丈夫だ」


 バロウは持っていたバッグからタブレットを取り出す、するとそこには電力会社から提供された資料が映っていた。


「取り敢えずここの点検の手順通りに中を回るぞ、何かあれば隠し撮りすればいい」


「わかった、あんまりコソコソしない方がいいね」


 リンは姿勢を正しながら言った。


 工場内を周りながら周囲に目を凝らす3人。


「今のところ特別な物はなさそうだな、製品も普通のグラスっぽいし」


「一般的な家電も作ってる工場だからな」


 シュウの話に受け答えしながら、バロウは点検をするふりをして機械をいじっている。


 しばらく工場内を回っていた3人だったが、新しい区画に着いたときリンが何かに気づく。


「ねぇあれ、ブースターじゃない?」


 そういって小さく指をさした先には大量のブースターが一点に運び込まれ封入されていく現場があった。


「なるほど、大当たりだな」

「ここは封入の区画か、製造しているところは視界が通らないようにしてるんだな」


「どうする?箱積めなんて写真とっても意味ねぇだろ?」


「そんなことはないさ、これも立派な証拠だ」

「少なくともここで製造されていることは間違いない」


 シュウにそう言うと、小さなカメラで工場のなかを撮影するバロウ。


 色々な角度から写真を撮りデータを転送したようだ。


「よし、これで一応目標は達成だ」

「念のためにもう少し見て回る、1時間位で終わる点検って話だからな。少ししたら出るぞ」


「オッケー」


 不自然にならない様に時間を潰しながら工場を見回る3人。


 工場に入ってから約1時間ほどで点検終了という形で出口に向かう。


 従業員に挨拶をすませ外にでるが、そこには異様な景色が待ち構えていた。

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