戦いの幕開け
第18話
――夜、高性能すぎる車達は音もなく、街の夜景は静かに輝いていた。
高級住宅街の夜景が一望できる少し高い場所に立つ豪華な一軒家。
そこに一台の車が入ってくる、ゲートを潜り駐車場に停車すると中からリズがそっと現れる。
(やることは山積みだが、しっかり休養もとらないとな・・)
考え事をしているリズが自宅に向かい歩いていると、目の前に人型のモヤモヤが佇んでいた。
顔をしかめながらポケットからグラスを取り出し装着するリズ、するとバグと言うには余りにも精巧なデジタルの人形がこちらを睨んでいた。
「フム・・その頭に付いているのはブースターだな?」
「人工で作り出したか、バグと言うよりデジタルの兵士だな」
そういってリズは腰につけたいた武器の柄を取り出す。
柄から細い剣が飛び出し電流の刃が周りを覆う、リンの刀よりも細い剣をリズはスラっと構える。
「どうした?私を襲いに来たのではないのか?」
「誰の指示かは容易に想像できるが、私は強いぞ?」
少しニヤッと口角が上がるリズ。
ゴォォォ!とうめき声を上げ、デジタルの人形がリズに向かって突進する。
殴りかかる人形をリズはサッと後ろに躱す、ドガッ!と地面を殴りつけ唸る人形。
地面には衝撃で小さな窪みが出来ていた。
「ほう、大した威力だな」
「今度はこちらの番だ、躱してごらん」
ゆったりと構えたリズが一瞬クッと力むと、凄まじいスピードの斬撃が人形の腕を飛ばす。
「ただ人の上に立つだけではダメなのだよ」
「自分の身は自分で守らないとね」
「グオォォォォ!」
唸りながら反撃をしようとする人形、しかし既に次の攻撃を開始していたリズに触れることもできず体に2つの斬撃が入る。
ポロポロと体が消えていく人形、最後はブースターだけが地面にぽつんと残り消えていった。
「ブースターを装着したデジタルの人形か・・」
「これなら意のままに操ることも出来るわけだ、厄介極まりないな」
「どの道事情は説明しなければいけないし、連絡するか」
地面に落ちたブースターを拾い、リズは家の中に入っていく。
***
――翌日の夕方、リズ宅の前にバロウの車が到着し、中からシュウとリンも降りてくる。
「う~っわ、でっか。」
「すっごい家だね、初めてきたよ」
「どんだけ金持ちなんだ?あの人」
「そりゃお前警察のトップだからな、金はあるだろ」
「独身貴族・・とか言うと怒られそうだから辞めとくか」
驚き唖然としているシュウとリン、バロウは慣れている様子だ。
家に向かうと、昨晩の戦闘の跡がくっきり残っていた。
「事情は来てから言うっていってたが、ただ事ではなさそうだな」
「ま、あの人の事だから無事なんだろうけど、どうやったんだろうなこれ」
バロウと話すとシュウは戦闘の後をまじまじと眺めていた。
入口に到着しインターホンを鳴らすと、中から私服姿のリズが顔を出す。
「やぁ、わざわざすまないね」
「取り敢えず入ってくれ、休日だしゆったり休みながら話そう」
リズの後ろについて中に歩く3人。
シュウとリンは大きな家の中をキョロキョロしながら落ち着かない素振りで歩いている。
「なんか、凄すぎて落ち着かないね」
「置いてあるものもみんな高そう、触るの怖い」
「ハハッ、そう言わずくつろいでくれ」
「どの道家に呼ぶ友人は君たち位しかいないんだ、何も気にする必要はないさ」
笑顔で話すリズだったが、やはりリンはソワソワしている。
リビングに到着しソファーに座る3人。
「いい景色だね、観光地みたい」
「流石に立地も完璧だな、いくらしたんだろうなこの家」
外を眺めながらリンとシュウはなぜか少し小声で喋っている。
全員分のコーヒーを淹れてリビングにリズが戻ってきた。
お礼を言いながら受け取る3人。
「さて、じゃぁ飲みながら状況説明と行こうか」
「駐車場の跡のやつだろ?なにがあった?」
「襲われた、ブースターを付けたバグにね」
「ブースターを付けた!?人工物ってことか」
「だろうね」
驚くバロウとは裏腹にリズは淡々と話を続ける。
「バグと言うのは適切ではないかもしれない、あれはデジタルの兵士だな」
「バグとは比べ物にならないほどのパワーだった」
「視認は出来たのか?どこまで作ってあるか知らないが」
「昨日の奴はグラスを掛けて戦ったよ」
「まぁ自分で作り出せるのなら、その辺はいくらでも自由に変えれるんじゃないか?」
「都合によって見えなくすることも出来るか・・面倒なのが出てきたな」
コーヒーを口にしながら冷静なリズと口に手を当て考え込むバロウ。
「ソイツを作ったって事は、リズさんを襲うようにプログラムされてたって事か?」
「そうだろうね、ジョーカーの一件もあったばかりだし、私を消せば君たちも動きにくくなる」
「まぁ悪党の戦略としては正しいさ」
「私たちにも手伝えることがあるといいけど・・」
「そのために今日は家に呼んだのさ、君たちにいてもらった方が私も心強いからね」
ニッコリとシュウとリンにほほ笑みかけるリズ。
「ブースターの法整備についてはどうなっているんだ?」
バロウの質問に、リズは脱力しため息を吐きながら答える。
「まだまだ掛かりそうだ、どうにもクルークカンパニーの息がかかった者が多いみたいでね」
「警察内部だけならまだしも、政治家にもこの話をもみ消そうと動いている輩がいる始末さ」
「実際に上に掛け合えたとしても、取り締まるには時間がかかるだろうね」
その言葉に3人とも少し疲れた表情を見せる。
「まぁどの道時間がかかるんだ、気長にやろう」
「それより、今日は泊っていったらどうだ?いい機会だから食事もしたい」
「お!まじすか!じゃぁ遠慮なく~♪」
「ありがとうございますリズさん!」
リズの提案にシュウとリンはノリノリである。
「確かにすぐにどうにもならないことをうだうだ考えても仕方ないな」
バロウも楽な表情になり、4人は食事の準備を始める。
手伝うリンとシュウを見ながら、食器の場所や調理器具の使い方を楽しそうにリズが説明している。
40分ほど経過しただろうか、リビングには沢山の料理が並んでいた。
「流石リズさん、料理も完璧だね」
「私も真似できるようになりたい・・」
「フフ、料理なんて一度覚えたことの応用さ、それほど難しい事じゃない」
「・・・・うぅ」
「こりゃしばらく通って料理教室だな」
リズの言葉に唸るリンとそれを煽るシュウ、バロウはニコニコ見守っている。
「んじゃいただきますか!」
シュウの掛け声で手を合わせる4人。
料理を食べながら、4人の笑顔がリビングに溢れる。
他愛のない話をしながら過ごす空間が、リズには何よりの休息だった。
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