そうして少女は歩き始める

第16話

 ――ジョーカーとの一戦から、3週間ほど経過した。


 町中にある建物、その中にはデジタルで作り出した剣道場が広がっていた。


「ハッ!」


 パンッパンッと、リンとリズが竹刀を交える音が鳴り響く。


「どうやら、完全に復活したようだな」

「迷いもなさそうだ、さぁどんどんこい!」


「――はい!」


 リンの返事をきっかけに、さらに激しさを増して竹刀をぶつけ合う2人。


 しばらくして、お互いに距離を取りながら落ち着く。


「ふぅ・・ここまでにしようか」


「はい、ありがとうございました」


 深々とリンがお辞儀をすると、2人は腰についているボタンを押す。


 デジタルで作られた防具が消え、胴着姿になった。


 神棚に向かい、正座しならが並んで息を整える。


「どうだリン、大変な出来事だったが気持ちは落ち着いたか?」


「はい、病院では正直しょぼくれてましたけど、もう大丈夫です」


「フフ・・そうか、人生長いんだ、これも一つのいい経験になるさ」

「まだまだ君は若い、色々な事を経験しないとね」


 神棚に目線をやりながら穏やかな表情でリズは話す。


「リズさんも昔は怪我するような事したんですか?」


「そりゃぁそうさ、散々無茶をした、怪我の数なんて数えきれない」

「今思えば馬鹿だったが、それでもあの経験が無ければ今の私はないだろう」


「なんだか、意外ですね」


 2人は顔を見合わせてクスクスと笑う。


「やはりいいな、剣道は」

「道場や防具がデジタルになっても目指す志は変わらない」

「礼節や所作を重んじる、本当の意味で心を鍛えるスポーツだ」


「そうですね、なんだか余計な考えが吹き飛んでスッキリする気がします」


「剣道も人生も大事なのは取り組む姿勢だよ」

「どういう姿勢で取り組んだかが結果につながる」


 リズは改めてリンの顔をまっすぐに見つめる。


「どうかそのままの真っすぐな姿勢で進んでくれ」


「――はい」


 リンはゆっくりとうなずいた。


 シャワー室に移動し汗を流すと、2人は着替えながら話をする。


「今日は何か予定はあるのか?」


「休みですけど、マクレイおじさんの所にこれから行きます」

「武器の修理を頼んであったので、その後は・・カフェでも行こうかな?」


「そうか、マクレイによろしく言っておいてくれ」

「折角休みなんだ、楽しんでおいで」


「はい」


 リンはリズにお辞儀をすると、キックボードに乗り手を振りながら走り去る。


 リズが建物横のスイッチを押すと、剣道場は消え元の小さな部屋の見た目に変わる。


 車に乗り込み、リズも剣道場を後にした。


 ***


 ――マクレイの工場に到着したリン。


「マクレイおじさーん、こんにちは!」


「おおぅリンちゃん、いらっしゃい」


「ごめんね、武器壊しちゃって」


「なぁに、装備強化には丁度いい機会じゃて!」

「3人分ちゃーんと出来とるよ、今までよりもより強力なのがのぅ!」


 そういってマクレイは新しいリンの武器を取り出した。


 スイッチを押すと今までとは違い本物の細い刀がシュッと飛び出す。


 そして細い刀を覆うように電気が流れ、刃を作り出した。


「今までと違いまず実体の刀を中心に起き、そこに電気の刃を付ける形にしたぞぃ」

「これなら今まで防ぎきれなかった実物の刀が相手でもちゃんと受け止めれる」

「もちろん電流も今まで以上じゃ」


「すごい!なんだか見た目もお洒落でかっこいいね!」


「じゃろう?少々重くなったがすぐに慣れるじゃろ」

「ほれ、ほかの2人にも渡しておいておくれ」


 そういうとマクレイはシュウとバロウの武器も取り出し机に置く。


「あぁそれと、これも作ったぞぃ。ホレ新しいグラスじゃ」


 そういって武器の横に小型の装置を置くマクレイ、よく見ると耳にかけれるようになっている。


「ブースターの真似と言われたらそれまでじゃが、折角だから小型にしたわぃ」

「常に耳に掛けておいてこのボタンを押せばグラスが現れる、性能は今までどおりじゃがこっちの方が便利じゃろ」


 リンは目を輝かせながら嬉しそうに話す。


「ありがとうマクレイおじさん!2人もきっと喜ぶよ!」


「ホッホッホ、そりゃよかった」


 リンはしばらく話をしながら新しい装備を眺めていた。


「また遊びに来るね、今度みんなでご飯食べに行こうよ」


「ホッホ、楽しみにしとくよぃ」


 マクレイに小さく手を振り工場を出るリン。


(まだ時間も早いし、カフェに行こうかな)


 キックボードに乗り、街の中心に向かって走り出す。

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