第15話

 ――都市の中心を走り抜けていくシュウ。


 ビル街から少し離れた住宅街の一角に、小さな家がぽつんと立っていた。


 ほんの少しだけ庭がある赤い屋根の小さな家、玄関のドアの上には「ひまわり」と書いた看板が貼ってある。


 バイクを止め玄関のインターホンを押すと、中から穏やかな雰囲気の女性が出てくる。


「あらシュウ!随分久ぶりじゃないか、元気にやってたかい?」


「久しぶり、マリー先生」


 いつになく明るい笑顔でシュウは声をかけた。


「バロウは元気かい?あとほら、前に一度遊びに来たリンちゃん!いい子だったねぇ」


「元気だよ、リンはちょっと怪我して休んでるけど」


「なんだい怪我したのかい?心配だねぇ」


「ちょっと色々とあってな、まぁすぐに元に戻るさ」


「そうかい?ならいいんだけど、アンタも気を付けなよ」


 心配そうに声をかけるマリーの後ろから、子供が3人顔を出しシュウを見て顔色を変える。


「シュウ兄ちゃんだ!久しぶり!」

「ホントだ!兄ちゃんだ!遊ぼ!」


 駆け寄ってくる子供たちをニッコリと笑顔で抱きかかえるシュウ。


「久しぶりに顔が見たくなってな!元気だったか?」


「うん!元気だよ!ねぇねぇゲームしようよ!」


「おう、やるか!遊びなら負けねーぜ!」


 男の子1人と女の子2人、シュウに絡みつきながら嬉しそうに遊んでいる。


 賑やかに遊ぶ4人と、それを見守る先生。

 たった5人の空間だったが、そこには間違いなく「平穏」があった。



 ――しばらくして、3人の子供は遊び疲れて寝てしまった。


 寝顔を見ながらニッコリとほほ笑むシュウ、そこにマリー先生が紅茶を淹れてお菓子と一緒に持ってきた。


「――ここは変わらないな」


「今は3人だけになっちまったけどねぇ」


「孤児がが少ないのはいい事だろ?」


「そうだけど、昔に比べたら少し寂しい気持ちもあるさね」


「まぁ、それはそうだな」


 クスっと笑いながら紅茶を飲むシュウ。


「なんかあったのかい?」


 シュウの表情を見たマリーがそっと話しかける。


「んー、そんなに大した事ではないんだけどな」

「これからちょっと忙しくなりそうなんだ」


「そうかい、大変だねぇ」


 正面に座り、自分も紅茶を口にするマリー。


「アンタがバロウに付いていった時は不安な気持ちでいっぱいだったよ」

「バロウの事は信用してるけど、アンタが危ない目にあったらどうしようってね」

「何を仕事にしているかは聞いたことないけど、大変なんだろ?」


「そうだなぁ、説明するのは難しいけどそれなりに危ない仕事はしてるな」


「やっぱりね、なんとなくそんな気はしてたんだよ」


 そわそわとした仕草を見せるシュウに、マリーはにっこりと笑いかける。


「でも、きっといい事なんだろうね」


「そう思うのか?」


「そりゃそうさ、アンタは昔から曲がったことが嫌いだろ?」

「間違いは正し、弱きは助ける。小さい頃からそれがあんたの生き方じゃないか」


「そんな大層なもんじゃないさ」


 再び子供たちの顔をみるシュウ。


「ただ、こいつらの事だけはどうしても守りたくてさ」

「こいつらが安心して暮らせるように、なにも不安に思わなくていいように」

「それだけさ」


「十分じゃないか」

「アンタは昔からちっとも変わらない、いつだって誰かの為に何かをしようとしている」

「優しい優しい、私の自慢の教え子だ」


 その言葉を聞き、照れくさそうに頭をかくシュウ。


「そのアンタがやるって決めたことだ、自信をもってやればいいさ」

「迷ったり疲れたりしたら、いつでもここにおいで」


 そう言うマリーの表情はとても暖かく、シュウはその顔をみてニカっと笑い返す。


「あぁ!俺が頑張らねーとな!」


 三度子供たちの顔を見て、ニッコリとほほ笑むシュウ。


「――また来るからな」


 そっと子供に声をかけ、孤児院を出る。


「じゃぁな先生、また来るけど体には気を付けてやってくれよ?」


「あぁ、ありがとね」

「バロウ達にもよろしく言っておいておくれ」

「アンタも無理だけはするんじゃないよ」


「分かってるって、じゃ、またな!」


 大きく手を振り孤児院からバイクを走らせるシュウ。


「――かっこよくなったもんだねぇ」


 そう呟くとマリーはフフっと笑い、庭に干してある洗濯物を入れ始める。


 進化した世界とは思えない、小さな小さな一軒家。


 その孤児院は優しく暖かい空気に包まれていた。

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