第13話
――真っ白なベッドの上、すぅっとゆっくり目を開けたリン。
ぼやけていた視界がはっきりしていくと、見知らぬ天井が目に映る。
「――ん?ここ、びょう・・いん?」
「気が付いたか!」
顔を横に向けると、バロウがただならぬ顔でこちらを見ていた。
「バロウ・・ん、いてて」
起き上がろうとするリンだったが、お腹に走る痛みに動きが止まる。
「無理するな、まだ1日しか経ってないんだ」
「そんなに寝てたんだ・・」
肩に手を貸し、ゆっくりとリンを起こすバロウ。
深呼吸をし周りを見るリンに、バロウがガバッっと頭を下げる。
「済まなかった」
「あんな奴がうろついていたのに単独行動させちまった、俺のミスだ」
その言葉に少し戸惑うリン。
「謝らないで、怪我をしたのは私の力不足だから・・」
「無事でよかった・・・・!」
そう言って少し涙を滲ませながら、バロウはリンを抱きしめる。
「うん・・ありがとう」
腕の中で、リンは穏やかにほほ笑む。
「俺はこれからリズと話をしてくる」
「逃げた二人から色々と情報も聞き出せた」
「しっかりと対策を練ってからまた仕事だ」
「今はとにかくゆっくり休んでくれ」
その言葉にリンが頷くと、バロウは病室を出ていった。
***
しばらくして、飲み物やお菓子を持ったシュウが病室に入ってきた。
「――お、起きたか」
「大変だったな、俺も残ってればよかったんだけど」
「うん、ちょっと大変だった」
「・・・・」
ボーっと前を眺めるリンにシュウは静かに声をかける。
「なんかあったのか?」
「うん、ちょっとね」
リンはため息をつきながら話を始める。
「ジョーカーと話した時に、言われたんだ」
「人間に意味なんてない、そうやって勘違いしてるから壊すのが楽しいって」
それを聞いてシュウは少し眉をひそめる。
「少し、昔の事を思い出しちゃった」
「わたしね、小さい頃にお母さんが病気で亡くなったんだ」
「お父さんの事は、あんまり覚えてない」
「いつもいつも仕事で、ほとんど家にいなかったから」
リンは少し顔を上に向ける。
「幸せだったんだ、――でもお母さんは相当無理をしていたみたい」
「小さかったからよくわからなかったけど、突然血を吐いて倒れて」
「もう手の打ちようがなくて、そのまま死んじゃった」
話を続けるリンから少し目を逸らし耳を傾けるシュウ。
「その時思ったんだ、お母さんは私といて幸せだったのかな?って」
「血を吐くほど無理をして、本当は苦しかっただけなんじゃないかって」
「私は何のためにいたんだろう?なんで生まれてきたんだろう?ってさ」
「関係ないかも知れないけど、ジョーカーの言葉を聞いてそれを少し思い出しちゃった」
悲しそうな顔をしているリン。
「――そっか」
返事をしながらリンを見るシュウの顔は穏やかな表情をしていた。
「自分の価値とか意味とか、考えてみるとよくわからないけど」
「あいつと戦って、話をして、なんていうか――」
「許せなかった?」
「――うん」
聞き返したシュウにリンは小さく頷く。
「そうか、俺はお前の親の事は良く知らないけどさ」
「そいつと対峙して、そういう気持ちになったなら、お前の心はここにあるってことだろ」
「――?」
不思議そうな顔をするリンに、シュウは話を続ける。
「意味とか価値がわからなくったって、お前はここにいる、お前の心はちゃんとここにある」
「誰かの言葉に、許せない、自分がどうにかしてやるって思ったんだから」
「それはお前にしかできないことだ、お前にしか湧かない感情だ」
シュウの顔を見つめながら、じっと話を聞くリン。
「機械とは違う、ちゃんと自分だけの感情や心がある」
「難しいことはわかんねぇけど、それがお前だけにしかない価値って事じゃねーか?」
シュウの言葉に、少し考えてからゆっくりとほほ笑むリン。
「そっか・・・・そうだね」
「私達にしかできないんだもん、私がしっかりしなきゃね」
リンの顔の前に、シュウがゆっくりと拳を突き出す。
「次は勝てよ!」
「――うん」
二人はコツンと拳を突き合せ、ニッコリと笑う。
病室の窓から暖かい風が吹き抜けカーテンを揺らす。
穏やかな日差しに包まれながらゆったりとした時間が過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます