第12話
――少しの間手を振り、車が見えなくなったところでリンは倉庫の方に振り替える。
「警察の人たちすぐに来るし、別に何もしてなくていいよね」
「――あぁ?おい女、ここで一体何してやがる」
突然の声にハッとしながらリンが振り向くと、白髪に黒いコートをきた男がこちらを見ながら立っていた。
「・・・・誰?」
明らかに異様な空気をかもしだす男にリンが問うと、男はイライラした様子を見せた。
「こっちが聞いてんだろうが、ここで何してんだよ?死にてぇのか」
「私はただ仕事でここに来ているだけ」
「仕事?ここを嗅ぎまわってんのか?ハハハッ!じゃぁぶっ殺してもいいって事だよなぁ!」
ケタケタと笑いだす男、よく見るとこめかみにブースターに似たものが埋め込まれている。
「あなたはなにしにきたの?普通の人には見えないけど」
「俺はここにいるルイスって野郎に用があっただけだ」
「あなたは・・・・ジョーカー?」
最大限警戒しているリンが男にそう問うと、男は再びケタケタと笑う。
「なんだ知ってんのか俺の事、じゃぁ話がはえぇよなぁ」
「誰だかしらねぇが、さっさと死ねや」
ジョーカーは右手を少し前にだす、すると右手に黒い球体が浮かび上がり異質な空気が漂う。
パッと武器を取り出し構えるリン、電気の刃がジョーカーに向かって突き立ち少しの膠着が生まれる。
「武器か、クヒヒッ・・・・」
不気味な笑みでニタァっと顔が崩れるジョーカー、するとその瞬間黒い球体が形状を変え数本の棘がリンに向かって一斉に伸びる。
「!!!」
とっさに向かってくる棘を躱すリンだったが、ほんの少しのかすり傷が右腕に入り血が垂れる。
「ヒッハッハハ!躱したじゃねぇか!いいねぇ!楽しめそうだ!」
高らかに笑うジョーカー、今度は横に広がった棘がそれぞれ違う角度からリンに向かって折れ曲がり伸びる。
リンは必死に身を躱し、最後の一本を刀で払う。
「ジャンキー・・・・一体どれだけ電脳に漬かればこんな事できるの?」
「はぁ?ジャンキー?あんなザコ共と一緒にすんじゃねーよ」
「こんなもん力を使うための道具だろうが、吞まれてるカス共とは違うんだよ」
不服そうな顔でジョーカーはこちらを睨む。
「あなたは何がしたいの?殺人事件も、無差別で目的があるようには思えない」
少し上がった息を整え、鋭い目で問いかけるリン。
「目的?そりゃぁ楽しむためだぜ?」
「俺はな、人が苦しむのが好きなんだ、苦痛で顔をゆがませて悶える姿が大好きなんだよ!」
「・・・・狂ってる」
ケタケタ笑うジョーカーに、リンの表情が歪む。
「狂ってる?いいことじゃねぇか!お前も折角こうやって殺し合いしてるんだから楽しめよ!」
「あんたと一緒にするな、私は犯罪者を取り締まるだけ」
「ハハッ正義のミカタってか?くっだらねぇなぁ。まったく本当に人間ってのはくだらねぇ」
そう言ってジョーカーはふらふらしながら話し出す。
「誰も頼んでねぇのに勝手に繁殖して増えやがる、そのくせどいつもこいつも自分の生まれた意味だの価値だの。ほんっとにくだらねぇよなぁ」
「人間もデジタルと一緒だ、人間同士が交尾して作った物だろうが、意味なんてねぇんだよ」
「それともお前は、自分が生まれてきたのは運命で、自分には意味や価値があるとでも思ってんのか?ばっかじゃねぇの」
「・・・・」
狂ったように話すジョーカーに、リンは言葉が詰まった。
「ま、そうやって自分に意味があると思い込んでいるからこそ、ぶっ壊して苦痛を与えるのが楽しいんだけどな!」
どこか自慢げなジョーカーだったが、見かねたリンが思い切り走り込み、刀を振り下ろす。
すると、今度は黒い球体が剣の形に変化しあっさりと攻撃を受け止めるジョーカー。
「なぁ、もっと楽しめよ」
「うるさい!」
挑発的な言葉に怒りをぶつけながら2人は剣戟を繰り広げる。
(剣術自体は大したことない、これなら勝てる)
リンがすきを見て一撃を入れようとしたところに、今度は剣の根元から棘が飛び出しリンの足をかする。
(・・・・クッ!)
突然の事にバランスを崩し転倒するリン、しかしすぐに立ち上がりピリピリと傷の痛みを感じながら息を整える。
「クヒヒッ!お前、いいなぁ」
「剣術は習ってるな、実践慣れもしてる」
「いいじゃねぇか!殺しがいがあるってもんだ!」
さらに勢いを増した剣戟を繰り広げる2人。
――数分が経ち、次第に僅かだが息が上がり始めるジョーカー、その時、リンがキッと一点を見つめジョーカーの左肩に刃が突き刺さる。
「ッ!ク・・・・」
「ハァ・・・・クククッ」
左肩を抑えうつむきながら不気味に笑い続けるジョーカー。
リンがふぅっと息を吐き、動きを止めるためにゆっくり近づいていく。
「・・・・・・ヒヒッ!」
ニタァっと口角が上がるジョーカー、下を向いていた黒い剣の切っ先がリンに向かって一気に伸びる。
(しまった!)
とっさに鍔元ではじいたリンだったが、体がよけきれず左の脇腹を剣が貫く。
「ぐふっ・・・・くぅ・・」
傷口を左手で抑えうずくまるリン、激痛で汗が滴ってくる。
(ダメ・・しっかりしないと!)
前を睨みながら、リンは痛みに耐えゆっくりよろよろと立ち上がり、右手で切っ先をジョーカーに向ける。
「クヒヒッ・・ハハハハハッッ!!」
「いいねぇ!お前凄くいいぜぇ!」
肩から血を流しながら、笑い続けるジョーカー。
「はぁ・・はぁ・・」
意識を保つだけで精一杯のリンだったが、その時遠くからバロウの車が戻ってくるのが見えた。
「リン!」
車を降りこちらに走ってくるシュウの大声を聞いて、ジョーカーは少し振り返る。
「なんだ、仲間かよ」
「チッまぁいい今日はここまでだ」
「またやろうぜぇ・・・・リン!」
薄気味悪い笑みを浮かべ、ジョーカーは腰につけていた細い棒を地面になげる。
すると、棒の両側からデジタルの板が飛び出しスノーボードの様な形状になり浮遊する。
その上に乗り後ろ足で少し踏み込むと、ボードは急発進しすぐにジョーカーは建物の影に消えていった。
「――うっ」
緊張の糸が切れたのか、リンはドサッと地面に横たわる。
「おいリン!しっかりしろ!」
「バロウ!救急隊呼べ!結構でかい傷だ!」
「リン!リン!」
大声で声をかけ続けるシュウとバロウを見ていたリンだったが、次第に視界がぼやけゆっくりと目を閉じながら意識を失った。
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