それは絶対的な「悪」

第11話

 ――拠点にて、部屋の中央にある大きなテーブルの上に通信でリズが映っている。


「この前送られてきた配送業者のデータから色々と情報を割り出した」

「工業区の倉庫、そこから色々な物品がネットに流れている」

「代表者はルイスという男だ、こいつはただのベンダーだろうが詳しく尋問すれば色々と掴めるかもしれないな」


 通信の映像にルイスという男性の顔写真が映し出される。

 リン、シュウ、バロウの3人は真剣に話を聞きながら考え込む。


「ベンダーか、取り合えず聞き取りは必要だな」


「行くなら早い方がいい、少し不穏な情報も入ってきている」


「不穏?なんだそりゃ」


「工業区でジョーカーの目撃情報が入った」


 話をしていたバロウの表情がリズの発言で一気にこわばる。


「――ジョーカー、指名手配中の殺人犯か」


 その言葉にリンとシュウも顔をしかめた。


「ニュースでやってたよね、主にジャンキーを無差別に狙った犯行だって」


「何が狙いかしらねぇけど、本人も相当狂った奴って話だよな」


 少し緊張した空気が漂う。


「調査に行くなら警官隊もすぐに駆け付けられるように手配しておこう」

「ブースターを押収、尋問が済んだらすぐこちらに投げてもらって構わない」


「助かるぜ、出来る限り頼らせてもらうよ」


 リズの提案を受け話を済ませるとバロウは通話を終了した。


「さてと、そうと決まれば早速現場に行くか」

「めんどくさい事はさっさと済ませるに限る」


「オッケー」


 リンは準備のため自室に入っていった。


「工業区か、機械化のせいでそんなに人もいないし仕事はしやすいよな」


「まぁな、多少荒事になっても誰も気づかんだろうさ」


 シュウとバロウが話をしているうちに、リンが服装を整えて戻ってくる。


「よし、行くか」


 ――3人は車に乗り込み出発した。


 ***


 拠点から少し行ったところでハイウェイに乗り込み、凄まじいスピードで車が走る。

 ビルが多い都心の風景は、あっという間に工場が立ち並び大型車が行き来する地帯へと変わった。


 ハイウェイから工業区の中へと入り、スピードを落として車が進む。


「この辺りに止めていくか、あそこに見える赤い屋根の倉庫が目的地だな」


 倉庫の近くに停車し、車を降りる3人。


 少し歩き大きな赤い屋根の倉庫前に到着する、建物の横手には高級そうな車が一台だけ止まっていた。


「へー、いい車だな」


 そう言うとバロウは車の前にしゃがみ込み、ナンバープレートの前でなにかゴソゴソとしている。


「なにやってんだ?なんかあんのか?」


「なに、念のためってな」


「?」


 シュウの問いかけに応えるバロウは少し口角が上がっていた。


「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」


 倉庫の入り口をノックしながら声をかけると、一人の男が出てきた。


「はい?どちら様ですか?」


「あなたがルイスさんで間違いないですかね」


「そうですが、なにか?」


「あなたが販売している物の中に違法な物が混ざっている可能性がありましてね」

「意図せず紛れ込んでいる可能性もある、少しお話をさせて頂きたい」


「はぁ、違法な物ですか」


 バロウの話を聞きかなり困った様子のルイス。


 事情を説明し、3人は倉庫の中に入る。


「電脳ゴーグルですか、といっても色々扱ってますから私は何とも・・・・」


「ここにあるものを少し調べさせてもらってもいいですか?」


「構いませんよ、箱に内容物は書いてありますから」

「大したものはないですけどね」


 ルイスの許可を取り、倉庫内を見て回る3人。


「確かに、ごく普通の物しかねぇな」


「ゴーグルも色々あるんだね、日用雑貨も多いし」


 しばらく物色していると、バロウが大量に積みあがった箱の前で立ち止まる。


「あったぞ、これだな」


「ホントだ、凄い量だね」


 リン達の様子を伺っていたルイスが不思議そうにしている。


「それは最新鋭のゴーグルですよ、開発は・・どこだったかな?」


「是非ともそれを伺いたいのですよ、この商品を取り扱う事になった経緯もね」


「経緯はまぁ、いろいろな商品出してた所だった気がしますから自然にね・・」

「おーい!」


 ルイスが大きな声で呼ぶと、倉庫内の事務所から別の男性が出てきた。


「この商品、開発はどこの会社だった?」


「これですか、お調べしますね」


 そう言うと男は事務所に再び入っていく。


「お手数かけてすいませんね、これも仕事なもんで」


「いえいえ、あなた達は警察なんですか?」


「警察の関係者ですよ」


 バロウがルイスに応えると、先ほどの男がこちらに向かって声をかける。


「ルイスさん、ちょっといいですか?」


「んー?」


 首を傾げながら事務所に入っていくルイス。


 2人は事務所でなにやら話をしている。


 ――すると、しばらくして2人は事務所の後ろにある扉に入っていき見えなくなってしまった。


「おい、逃げるんじゃねぇのか?アレ」


「え?そうなの?追わなきゃ!」


 呆れ顔のシュウと裏腹にリンは少し焦った様子。


 外に目を向けると、先ほどの高級車に2人が乗り込み走り出すのが見えた。


「ま、そうなるような気はしてたけどな」

「慌てるな、さっきあの車に発信機つけといたから」

「すぐに追えるさ、寧ろ逃げ込む先が分かった方が好都合だ」


 冷静にリンに声をかけるバロウ


「発信機って、またマクレイ爺さんに作らせたのか?いよいよ犯罪じみてんな」


 シュウはクスクスと笑っている。


「しょうがねぇだろ?調査にはこういう事も必要だ」

「それよりこの場をどうするか、これから警官隊来るのに無人はまずいな」

「取り敢えず警察の方には合図をだすが・・」


「わたし、残ろうか?ブースターを警察の人に渡すだけでしょ?」


 考えるバロウにリンが提案する。


「んー・・そうするか、仕方ないな」

「よし、じゃぁここはリンに任せる。警察には俺とシュウが追跡してる事も言っといてくれ」


「うん、わかった」


「よし、じゃぁ行くぞシュウ」


「ういー」


 バロウとシュウは車に乗り込み、ルイスの追跡を開始する。

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