第10話

「で、今日はどこいくんだ?」


 乗り込みながら聞くシュウにバロウが運転を始めながら答える。


「社会復帰のための職業訓練施設って言えば聞こえはいいんだが」

「実際は社会不適合者の隔離施設ってとこだ、言い方は悪いけどな」


「結構問題になってたよねそういう人達、テレビでやってた」


 バロウの話を聞きながらリンが呟く。


「年齢も理由も様々だ、機械化のせいで職を失った者、それどころか生きる意味すら見失った者」

「どうしても今の世界に馴染めない人々がそういう場所に集められる」

「政府としては、絶対にホームレスを作りたくないのさ」


 そう言うとバロウは深くため息をついた。


「何もかも便利になればみんながみんな幸せになるってわけでもないのか」


「・・・・難しい問題だね」


 シュウとリンも、深刻そうな表情をしている。


「その施設でこの前ブースター所有者が暴れて取り押さえられてる」

「あぁいう場所は物の出入りをキッチリ管理してるはずだからな」

「そのデータを調べればブースターの出所が掴めるはずだ」

「ほかにも所有者いるかもしれないしな、今日はその調査だよ」


 2人に説明を終え、前を向きなおすバロウ。


 車は巨大なビルの中を進み、次々に景色が移り変わっていく。


 ***


 ――現場に到着した3人


 病院かと思えるほど大きな施設が目の前に広がるが、静寂に包まれている。


「静かだね、少し不気味」


「普通の場所じゃねーからな」


 バロウはリンにそう答えると入口に向かい、施設の女性スタッフに声をかける。


「リズカーライトからの調査依頼できましたバロウと申しますが」

「リズから連絡は来てますかね?入場許可を頂きたい」


「少々お待ちください。責任者に確認を取ってきます」


 女性はバロウの言葉を聞きどこかと連絡を取っている。


「確認が取れました、お三方とも入っていただいて構いません」

「それではご案内しますね」


 事情を説明し先導する女性。


 3人は後に続き中へと入っていった。



 ――中に入ると大きなホールに、ちらほらと施設の利用者がいた。


 テレビを眺める人もいれば座ったままうつむいている人、上を向て虚ろな顔をしている人、様々な人がいる。


「見ていてあまりいい印象はないかもしれません」

「心を病んでしまった方も、沢山いますので」


 先導して歩く女性スタッフがボソッと言う。


 3人は少し複雑な顔をして歩いていく。


「こちらです」


「ここのパソコンは施設に送られてきたものを管理しています」

「配送業者や送り状の内容も記録していますので、自由に観て頂いて構わないとの事です」


 スタッフ専用の部屋に着くと、女性がパソコンの前で説明をした。


「ありがたい、では見させていただきますね」


 バロウはパソコンの電源を付け、内容の確認を始める。


「すべての人が幸せなんてあり得ないのかな、やっぱり」


 時間をつぶしていたリンが寂しそうな顔で言う


「お前だってこの世界に多少不満はあるだろ?」

「どんなものでも、それに不満を持つ人間は出てくる」

「心の問題なら自分でどうにかするしかねぇけど、そう簡単な話じゃないさ」


「・・・・そうだね」


 シュウの返答にリンは小さく頷く。


「――あったぞ」


 バロウが声をかけ、2人もパソコンの画面を覗き込む。


「ブースターを押収した人物と宛名が一致してる」


「時期も同じ頃だし、内容物が精密機器になってるから間違いないだろう」


「発送元は工業区の倉庫だな、詳しい説明は無いがリズにデータを送って調べてもらおう」

「このデータはコピーさせて頂きますね」


 そういってスタッフに確認を取ると、バロウは外部の機器にデータを移す。


 ――その時、ドォン!と爆音が施設に響いた。


「なんだ!?」


 とっさに周りを確認するシュウ。


「今の音ただ事じゃないな、とにかく行こう」

「我々が音の場所に確認に行きます、念のため施設内の人を避難させてください」


 バロウはスタッフに指示をだし、3人は音の鳴った方向に走る。


「バロウ!この部屋!」


 何かに気づいたリンが声をかける。


 その部屋に入ると、外に面する大きな窓が粉々になっていた。


 窓から外にでると一人の男性が不気味な顔をして歩いていた、よく見るとブースターを装着している。


「止まれ!どこ行くつもりだ」


 声をかけたバロウの方をゆっくりと振り向く男性。


「何です?警察ですか?・・・・まだこれからなんですけどね」


 そう言って男性が近く生えていた木にゆっくり近づき手を当てる。


 すると手から何かが発し、ドォン!と音が鳴り木がメキメキと折れる。


「凄くないですか?コレ・・まだ何ができるのかわかりませんが、楽しそうだ」


 嬉しそうな言葉と裏腹に、男性は少しふらついている。


「体が疲弊している実感があるだろ?」

「そんなもの連発してたら死んじまうぞ」


 バロウの警告を聞いて、男性はクスクスと笑う。


「いい事じゃないですか」

「人に迷惑をかけるつもりはないが、死ねるなら丁度いい」


 不気味な笑みを浮かべながら今度は3人に手のひらを向ける男性。


 突然、突風が吹いたような衝撃が3人を通り過ぎる。


「うっ・・・・風?」


 必死に踏ん張りその場に留まるリン


「衝撃波か?この前のイベントの時と似たような感じかもな」


「近づいたらアウトだろ、木と同じにはなっちまうぜ?」

「どうすんだこれ」


 分析するバロウにシュウが問いかける。


 すると、男性はさらに眩暈がしたかのようにグラッとよろけた。


「ハァ、いいですよこれ。体から大事なものが抜けていくのがわかるんですよ」

「これなら死ねそうだ、やっと死ねるんだ」


「そんな悲しいこと言わないで!」


 嬉々として語る男性にリンが大きな声をかける。


「悲しい?なんでですか?」

「こんな世界生きている意味なんてないんですよ」

「僕は機械のせいで職を失った、家族にも見捨てられた」

「もう失う物なんてなにもない、僕がいなくなってもどうせ機械が代わりに全てやってくれるでしょう?」

「病気をしても無理やり生かされる、自分の意志で死ねるなんて、こんな素晴らしいことはない!」


 そういって声を上げると、男性はゲホゲホと咳き込んだ。


「無理やり止めるしかないな」

「二人とも、グラスを掛けろ」


 バロウは二人に向かって小声で話しかける。


 リンとシュウは少し疑問に思いながらもそっとグラスを装着した。


「生きていれば次は必ず来る、あんたはまだ若い」

「そんなに急ぐな、ここでゆっくり心を休めて次を待てばいいさ」


 男性に声を掛けながら、ゆっくりと近づくバロウ。


「くるな!人を傷つけても構わないんだぞ!」


 脅しをかける男性、するとバロウは腰につけていた小さなボールを手に取る。


「こういう世界だから、こういう物は良く効くんだぜ?」


 男性に向かって球体を投げるバロウ、すると、カッ!っと凄まじい光が発し、男性は目を抑え倒れ込む。


「ウッ!・・・・カハッなんだ、なんなんだこれ!」

「くっそ・・くそ!やっと・・・・やっと終われる・・のに・・・・」


 しばらく悶えた後、男性は気を失った。


「知ってるか?そのグラス、意外と遮光効果もあるんだぜ?」


 倒れた男性からブースターを回収しながらバロウが二人に声をかけた。


「いや、いつも腰になんかつけてんなと思ってたけど、フラッシュバンだったのかよ」

「言えよ!あっぶねーな、間に合わなかったらどうするんだよ!」


「ハハッ悪い悪い、なかなか使う所もなかったもんでな!」


 文句を言うシュウだったが、バロウに笑ってごまかされている。


「しっかり・・心を癒してね」


 横たわる男性にそっと声をかけるリン。


 ***


 ――駆け付けた警察に事情を説明し、現場の収集を任せたバロウ達3人。


「リズにデータの解析を頼んだ、これで少なくともブースターの出所は特定できるな」

「まぁ問題は誰が販売してるかよりも製作してるのが誰なのかなんだが」


「これから、大きな仕事になりそうだね」


「そうだな、やらなきゃいけないことは山積みだ」


 車に向かいながら話をするバロウとリン


「少なくとも、これは俺達にしかできないことだ」

「機械に任せりゃいいってもんじゃない」

「誰かが間違いを起こす前に俺たちの手で止めてやらないとな」


 ニカッと2人に優しい表情で話しかけるバロウ。


「そうだな、俺たちの意味はそれで十分だな」


「うん、頑張ろう」


 2人は穏やかな表情でそれに答え、3人は車に乗り込み施設を後にした。

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