第8話

 イベント会場近くの駅に到着した3人、外に出るとすぐそこに見えるスタジアムから沢山の人たちの歓声が聞こえてくる。


 会場入り口に来ると、ゲームのキャラクターに扮した人々やヒューマノイドが受付を行っていた。


 スタジアムの横には警察車両が並び、警備の為に警察官たちが動き回っているのが見えた。


「あ、リズさんいたよ」


 リンは大きく手を振りながらリズに合図を送る。


「早かったね、これから会場に入るところだ」

「これを入場口で提示してくれ、警備の一員ということになっているから武器も所持したままで構わないよ」


 そういうとリズは3人に警備用のネームプレートを渡した。


 入場すると中には沢山の人達が溢れ、電脳の物もそうでない物もあらゆるゲームが体験できるブースがあった。


「ひとまず問題は起きていない、君たちも自由に観て回ってくれ」


 会場内を歩きながら会話をするリズと3人。


「お、動物と触れ合うゲームだってよ、リンやってみろよ。こういうの好きだろ?」


 シュウがブースの前に立ち止まりそう言うと、リンは頷きながら電脳ゴーグルを装着する。


「――!!!!!」

「これは・・・・これは!」


 ゲームを体験しているリンが興奮しながら声を上げる。


「モフモフいっぱい!おいで・・・・ほら・・いい子いい子・・エヘヘヘ」


 リンの表情が一気に緩む、電脳で動物に囲まれているのか相当気に入った様子。


「あぁ・・可愛い・・バロウ、これ欲しい」


 ゴーグルを装着しているにもかかわらず、既にバロウにおねだりを始めるリン。


「あーこれはめんどくさいモード入ったぞ、俺はしらん」


 シュウはそういって顔を背ける。


 一通り体験を済ませてゴーグルを外したリン、まだ表情が緩み切っている。


「バロウ、凄くいいよこれ!餌代もかからないよ!平和でいいゲームだよ!」

「いや、欲しいなら自分の金で買えや。それ位余裕で買えるだろ・・」

「んー・・結構高い。バロウの方がお金持ちだし・・?」

「なんで俺が買うんだよ、趣味は自分の金で済ませろ」

「うぅ・・」


 バロウにあっという間に説教されるリン、自腹は嫌らしい。


「検討する・・前向きに!」


 リンは諦めるどころキリッと言い直す、相当気に入ったようだ。


「ゲームを楽しむだけならいいのだが、最近は色々と問題が多くてね」


 にっこにこのリンを見ながらリズが話し始める。


「昨今はこの世界に不満を持っている者も多い」

「機械化によって世界全てが統一されていく中で、現実の楽しさを見失った者たちがこういうゲームにどっぷり浸かる傾向がある」

「ゴーグルを装着するだけで誰でも気軽に違う世界を冒険できる」

「現実世界がつまらなければつまらない程、ゲームの世界が楽しく感じる、それこそ中毒になるほどな」

「何とも皮肉な話だよ」


 どこか切なそうな顔でリズは語った。


 ――しばらくあたりを見学していた4人。


 すると突然少し離れたブースから轟音が鳴り響く。


「――3人とも行くぞ!」


 4人はすぐさま異変に気付き走り出す。


「近くの物は応答しろ、何があった!?」


 走りながら急いで警官に通信を繋ぎリズが問いかける。


「客の一人がいきなり爆音と共に吹き飛んだようです。気を失っていますがブースターの所持を確認しました」

「今そこに向かっている、警戒態勢に入れ。一般客の安全を最優先に確保しろ」

「了解」


 警官に指示を出し終え、改めて気を引き締めたのか緊張した面持ちのリズ。


 現場に到着すると、機材が壊れて混乱した様子のブースに男性が横たわっていた。


「物の壊れ具合を見るからに結構な爆発だったようだな」

「君、この男性は一人だったか?ほかに誰か連れていなかったか?」


 ブースのスタッフにリズが聞く。


「もう一人いました、グッズっぽい剣を持ってましたけど・・ほら、あそこ!」


 スタッフの女性が指をさす方向を見ると、電脳グラスを装着した男が剣を持ち出口にヨロヨロと歩いて行っているのが見える。


「あれはおもちゃではなさそうだな、バロウ!ここは私が収拾しておくから3人であの男を捕えてくれ」

「こちらリズ、ジャンキーを発見した。警官隊は西口を封鎖しろ!今から専門家が確保に向かう」


 すぐさま通信で指示をだすリズ。


「行くぞ、どの程度暴れるかわからんが、武器はすぐ出せるようにしとけ」

「オッケー!」


 バロウの言葉を合図に3人は男の後を追って走っていく。


 ――会場を出た所で、剣を持った男がブツブツと呟いている。


「すげぇ!本物だ・・俺が主人公なんだ・・・・!」


 かなり興奮しているようだが、体調がすぐれないのか汗が滴っている。


「待てよ、その剣はおもちゃじゃないだろ?どうするつもりだ?」


 3人が男に追いつき、シュウが話しかける。


「なんだよ警察か?別にどうもしねぇよ。ゲームしてるだけだ、何の問題もないだろ?」


 男はシュウの方を振り向き答える。


「大問題だよ、アンタ大分疲れてるだろ?そいつは体に悪いんだ、今すぐ使用をやめろ」


 シュウがそう言うと、男は激高し剣を突き付けた。


「俺がこの剣を作り出したんだ!何が悪い!俺の力なんだ!」

「力を手に入れたんだよ!どう使っても俺の自由だ!」

「つまらない人生は終わりだ!それの何が悪い!」


 声を荒げる男に、シュウは冷静に話を続ける。


「いいや、それはあんたの力なんかじゃない」

「一時的にそういう気分になっているだけだ、麻薬と同じなんだよ」

「そんなもんで人を傷つけたら、あんた犯罪者だぜ?そっちの方がよっぽどつまらねぇだろ」


 シュウの言葉に、男はさらに大きな声で叫ぶ。


「黙れ!邪魔すんならここで切り捨ててやる!」


 すると男性の体から3体、ゲームの中で登場する動物と同じ見た目のバグが飛び出しこちらを威嚇する。


「俺が止める、バグは任せたぜ」


「わかった、リン行くぞ」


 シュウが声をかけ、リンとバロウは武器を構えた。


 2人が飛び掛かってくるバグと交戦する中、シュウは男とにらみ合っている。


「かかってこいよ、そんな付け焼刃じゃなにもできないぜ?」


「うるさい!」


 挑発を受けて、男はシュウに向かって剣を振り下ろす、が、シュウはヒラリと躱し腹に一撃パンチを入れる。


「がはっ・・・・」


「ほらどうした?力を手に入れたんだろ?」


 腹を抱えて咳き込む男に、シュウがさらに挑発的な言葉をかける。


「くそがぁ!」


 今度は大きく横に剣を振る男だったが、シュウはそれを片手で受け止め今度は少し重い一撃を繰り出す。


「げほっ・・がふっ・・クソッ!クソ!・・」


 シュウは真剣な表情で男に近寄る。


「ゲームはゲームだから楽しいんだよ、現実に持ち込んでいいことなんてなにもないぜ」

「もう一回じっくり考えな、この世界はゲームが全てじゃねぇはずだ」


 そういいながら男のブースターに武器の柄で電流を流すと、男はゆっくり目を閉じ気を失った。


「終わったぜ」


 振り向くと、リンとバロウもバグを片付けてこちらを見ていた。


「ゲームと現実の区別がつかないというより、ゲームの世界に逃げ込んだような感じだったな」

「現実が嫌になるのは誰にもある事だけど、それでもやっぱりこんなことしちゃいけないよね」


 2人が話をしていると、リズが駆け付け状況を確認している。


「よくやってくれた、先ほどの男性も命に別状はない」

「なんとしてもブースターの流通を止めなければならないな」


 考え込むリズ、バロウも頭を悩ませている様子がうかがえる。


「まずはマクレイ爺さんとこ行ってレーダー更新してもらわねぇとな」

「武器の調子も見てもらいたい頃合いだ」


「マクレイさん元気かな?」


「あの爺さんが元気じゃない時なんてねぇだろ、またアホみたいな兵器作ってなきゃいいけどな」


「フフ・・そうだね」


 バロウの返答にリンがくすっと笑う。


「あと1時間程でこのイベントは終了だ、また自由に観て回っていてくれ。」

「これ以上何もないことを祈るばかりだな」


 リズは少しため息をつきながら、3人にいった。


「オッケー、折角のゲームイベントだ、楽しまないとな!」


 シュウはそういってリンの背中をポンッと叩いた。


「うん、ゲームは楽しいからね」

「さっきのモフモフ、買うか考えないと!」


 3人は会場に戻り、イベントを満喫していくのだった。

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