冒険はあなたの側に

第7話

 ――早朝拠点にて、にやけ顔のリンと焦った様子のシュウがトランプを手に構えながらにらみ合っている。


 1対1でババ抜きをしているようだ。


「なんでこんなにジョーカー回ってくんだよ、おかしいだろうが・・」


 どうやらシュウが劣勢の様子。


 電話が鳴りバロウが応答すると、リズの姿が映し出される。


「おはようバロウ、また仕事の話なんだが今回は3人全員に聞いてもらいたい、2人はいるか?」


「いるぜ、取り込み中だけどな」


 バロウがボタンを押すと、拠点中央のテーブルに映像が移り、リズが部屋に大きく映し出される。


「わりぃリズさん、もうちょっと待ってくれ。今いいところなんだ」


 シュウが真剣な表情で言う。


「トランプか?随分と古典的な遊びをしてるんだな、最近の若者はそういうのが好きなのか?」


 リズが不思議そうに眺めている。


「実際に目の前で勝負した方が面白いだろ!っておいお前もう後そんだけかよ!?どうなってんだよ」


 シュウが焦った様子で話すと、リンがにやぁっと笑う。


「はい、これであがり!今日のご飯はシュウの奢りね!」


 リンが嬉しそうに最後のペアを引き、シュウはやってられないとばかりにカードを置いた。


「だーもうなんでお前ババ抜きだけ異常につえーんだよ。っとに意味わかんねぇな」


「シュウは全部顔に書いてあるからねー」


 圧勝してご満悦そうなリン。


「お前車の話は随分冷めてたくせに、こういうのは現物にこだわるのな」


 バロウは熱くなっているシュウの姿が面白かったようだ。


「さて、決着もついたようだし話を始めていいかな?」


 3人の表情を伺いながらリズが話を始めた。


「これを見てくれ」


「・・・・なんだこれ?」


 リズは小さな三角形の物を映した、シュウはじっと見つめるがなにかはわからない様子だ。


「最近暴れたジャンキーから押収したものだ、最新の電脳ゴーグルと言ったらわかりやすいか」


 そう言ってリズが三角形の物にあるスイッチを押すと、片目分の小さなグラスが現れる。


「片目用のグラスか、随分小型だな。どこが作った物だ?」


 バロウがグラスをじっくり眺めながらリズに聞く。


「出所は不明だ、しかも厄介なことにこのグラスには電脳を違法に強化する機能が付いていてな。」


「製造元については現在調査中だ、取り敢えず私たちはブースターと呼称している。」


 大きくため息をつくリズ。


「電脳を強化って、どういう事?いまいちよく意味が分からないけど」


 首を傾げながら質問するリン。


「より人体に影響を与えやすくなるということだ」


「普通は中毒になるほど長時間漬かり続けた人間しか得られないような身体への影響が簡単に起こってしまう」

「この装置を使うとそれを簡単に引き起こせる、ジャンキーを量産できるわけだ」


 リズの答えに3人とも顔をしかめる。


「そりゃー確かにめんどくさいことこの上ないな」


 頭をかきながら答えるシュウ。


「最近このブースターがかなり出回っているようでな、怪我人が出る事例も発生している」

「ところで、君たちは電脳ゲームをやったことはあるか?」


 リズがリンとシュウに尋ねる。


「昔は結構やってたけどなー、この前遊園地でリンが言ってたのと同じで、本物のバケモノと戦うようになってか興味なくなってやってないな」


「私はやったことないかな、携帯機で出来るアプリみたいなゲームならあるけど、ゲームがどうかしたの?」


 リンの問いかけにリズが答える。


「この間ゲームの大きなイベントがあってね、そこの電脳ゲームのブースで暴力事件が起きたんだよ」

「ゲームの中に存在する武器を実体化させて使った者がいたらしい、厄介な話だ」


「ゲームの武器を実体化って、そんな超能力みたいな事できるのか?」


 シュウがリズに問う。


「理屈はわからん、ただそういう事例が発生してしまったのは事実だ」


「今まで見てきたジャンキーも、バグを発生させていただろう?体から強力な電気を発生させた人間もいたくらいだ」


「イメージしたものを作り出す、まぁ超能力だと思えば話は早いが、そういう人間も出てきたと認識を改める必要があるだろう」


 リズの説明を聞き、バロウも口を開く。


「体から発生したエネルギーで作っているのか・・なんにせよ体に尋常じゃない負荷がかかるだろうな」


 リズがさらに話を続ける。


「どうやっているかは重要ではない、これが一般人に出回ってしまっているのが深刻な問題だ」


「一刻も早く出所を割り出して回収しなければ、混乱は避けられない」


「現在マクレイにブースターをレーダーに検知できるように調整してもらっている」


 それを聞いたバロウが少し苦い顔をした。


「大丈夫かねあの爺さん、まともに改造してくれりゃいいんだが」


「ブースターの構造はそこまで複雑ではないらしい、時間はかからないといっていたから数日で連絡がくるはずだ」


 リズがなにかのチケットを取り出し3人に見せる。


「今日再び大きなゲームイベントがある、かなりの規模だから警察は総動員で警備にあたることになるが、君たちにも来てほしい」


「バグやジャンキーによる騒ぎが起きる可能性も十分にある、だから現地で待機していてほしいのだよ」


 そういうと、リズの画面に現地までのマップが大きく表示される。


「かなり都市の中心部、車だと混雑しすぎて不便な場所だな、今回は電車でいくか」


 バロウの発言にリンはワクワクしたような素振りを見せる。


「電車、いいね久しぶりに乗りたい」


「今回は私も現地に向かう、向こうについたら合流しよう」


 そういってリズは通話を終了した。


 ***


 現地に向かうため駅で電車を待つ3人、沢山の人が次々に音もなくやってくる電車に乗り込んでいく。


「昔の電車ってさ、わざわざレールまで敷いてその上を走らせてたんだよね?」


 電車の中に入りながら、リンがバロウに聞く。


「大昔の話だけどな、今はルートさえ確保してやれば後はその上を勝手に走る。楽なもんさ」


「レール敷くって、そんなレベルの時代じゃ相当時間もかかったんだろ?よくやるよなー」


「それが当時は地上最速の乗り物だったんだ、やる価値はあったってことさ」


 電車内の個室に入り腰掛けながら話すバロウとシュウ。


「電脳で一回体験したことあるよ、ガタンゴトンって凄い音が聞こえて結構揺れるの」


「アトラクションみたいで楽しかったから、一度本物に乗ってみたかったな」


 リンが楽しそうに話している。


「不便なままではいられないが便利になれば面白味が失われていく、人間にとって進化ってのはジレンマだな」


 穏やかな表情でバロウが話す。


「確かに、乗り物ってどれも似たような見た目だしな、浮いてて、無音、全自動」


「博物館に置いてある大昔の車輪付きバイクは滅茶苦茶楽しそうだからなー、乗ってみてぇわ」


 そういうとシュウは携帯に入っているバイクの写真を二人に見せた。


「今度マクレイに頼んでみたらいい、あの爺さんそういうの大好きだからな」


 ニコッと笑いながらバロウは答えた。

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