第6話
――施設の外で園内を眺める2人
「楽しそうだね、やっぱりいいなこういう所。」
リンがはしゃぐ子供を見ながら呟く。
「まぁ子供は楽しいだろうけど、実際どうなんだろうなー」
「??」
「いやさ、こういうのって電脳に繋いじまったら家でも出来るだろ?こういう場所って意味あんのかなってさ」
シュウの問いかけに、リンは少し考えてから口を開く。
「必要なんじゃないかな、誰かとの思い出にするには。」
「ちゃんと誰かと此処にきて、色々な事をして、そうやって大切な思い出を作るんだよ。」
「そうやって作った思い出じゃないと、きっとすぐに忘れちゃう。」
リンが穏やかに答える。
「そうかもな。」
シュウもリンの顔を見て、優しい表情になった。
***
――1時間後
「本日の営業は終了いたしました、またのご来場をお待ちしております。」
閉園のアナウンスが流れる中、監視室に戻った2人、ギースも既に部屋に到着していた。
従業員たちも、次々に出口から出ていく様子が見える。
「ロボ達は動いたままなんだな」
「ええ、通常営業ですと21時までは動いているロボットがいるはずです。」
「業務を終えたロボットから、自動的に定位置に戻ってスタンバイモードになるようになっています。」
「閉園後に長時間稼働しているのはすべて清掃用ロボットですね。」
シュウの質問にギースが答える。
「・・・あれ?」
しばらく映像を眺めていると、リンが何かに気づいたように言った。
「どうした?なんかあったか?」
バロウがリンの顔を見る。
「案内役のロボット、いなくない?ほら凄い流暢に説明してくれたヒューマノイド。」
慌てて他の3人も監視カメラの映像を覗き込む。
「ホントだ、いねぇな。どこいったんだ?」
シュウがそういうと、
「ロイ・・・なんでだ、もう業務は終了したはず。」
ギースが口に手を当てて考え込む。
――その時、一瞬だが一部のカメラの映像が乱れる。
「!!!」
全員がそれに気づき、バロウがすぐさまレーダーを確認する。
「わずかだがレーダーに反応があるな、今の映像の乱れはジャミングかもしれん。とにかく行こう、ヒューマノイドの事も気がかりだ。」
3人はすぐに部屋をでてグラスを付けながら走り出す、遅れてギースもあとに続く。
***
「もっと刺激を・・・・楽しい体験を・・・」
観覧車のふもとでヒューマノイドのロイが独り言を言いながら何かを操作している。
「いたぞ!あいつだ!」
「おい!そこでなにしてる!」
シュウを先頭にバロウとリンも駆け寄ってきた。
「もっと・・もっと!」
そう言うと、ロイは突然逃げ出した。
「あ、コラ待てって!」
3人はロイの後を追う。
「皆・・・・助けて!!」
ロイがそう叫ぶと、ロイの体からお化け屋敷の幽霊の姿をしたバグが次々飛び出し、こちらに向かってくる。
「な、なんだこりゃ!」
とっさに武器を取り出し、バグを切るシュウ。
「とりあえず片付けるぞ!」
バロウとリンも武器をだし、応戦する。
「なんか・・ちょっと可愛い。」
「んなこと言ってる場合か!さっさと切れ!」
能天気なリンの発言にシュウが突っ込みながら、バグ達を倒していく。
「大分時間くっちまったな」
「レーダーはまだ少し反応してる、すぐ追えるさ。」
シュウとバロウがそんな会話をしていると、息を切らしながらギースが駆け付けた。
「ハァハァ・・ロイはどこに?無事なんですか?」
「どうやらあのヒューマノイドが機械をいじっていたみたいだ。」
「バグ・・いや、簡単に言えばウイルスに感染したような状態、今の彼は勝手に暴走している。」
「そんな!?・・・ロイ・・どうして・・」
バロウの言葉にギースはかなりショックを受けているようだ。
「ロイは・・私が初めて購入したヒューマノイドなんです・・・」
ギースは昔話を始めた。
***
――数年前
「システム、起動しました。これより指示に従い行動します。」
ヒューマノイドが目を覚まし、目の前にいるギースに話しかけている。
「やぁ!私はギース、君の主人だよ。」
「主人?了解、あなたをマスターと認識します。」
「マスターか!まぁ呼び方はなんでもいい、そうだな・・・お前の名前はロイ、ロイだ。」
「ロイ?」
「そうだ、お前の名前だよ。」
「了解、私は自身をロイと呼称します。」
ロイの口角が少しだけ上がる。
「いいかロイ、私たちはこれから遊園地を作るんだ。」
「どんな人でも楽しめる、夢と希望に満ち溢れた楽園のような場所を、私たちの手で作るんだよ。」
「夢と・・希望・・」
ギースの顔をじっと見つめながら、ロイが繰り返す。
「そうさ!刺激的で、楽しい体験を、皆に届けるんだ!」
「・・・・」
***
「ロイは本当によく働いて、お客様達にも人気なんです。」
「人と区別が付かないくらいに、優しくて・・・ロイが暴走だなんて・・・」
ギースはとても悲しそうな顔をしている。
「なぁヒューマノイドが暴走ってあり得るのか?」
シュウがバロウに話しかけた。
「暴走自体はバグに入られた影響だろう、普通なら暴走なんてあり得ないさ」
「機械を進化させ過ぎれば勝手に行動してしまう、それは少し考えればわかることだ」
「だから大昔から研究者達は、どんなに性能を上げても人間に絶対歯向かわないようにセーブしてきたのさ」
「とにかく、彼を止めなければ。これ以上暴走して被害が出てからじゃ遅い。」
「少々手荒になるかもしれないが、そこはわかっていただけますね?」
「・・・はい」
バロウの問いかけに、ギースはしぶしぶ答えた。
しばらくして、再びロイの元にたどり着いた3人。
今度はすぐい追いついたギースが、ロイに向かって話しかける。
「ロイ・・どうして?一体何があったんだ?」
ショートしているのだろうか?ロイのこめかみから少し火花が見える:
「もっと・・刺激ヲ・・・楽し・イ・・・体験ヲ・・・」
「ロイ、お前・・」
「社長さん、離れててくれ。動きを止める、リンは止めたら頭に電流を流せ、止まればなんでもいい。」
バロウがリン達に指示を出す。
3人が武器を構えるとロイが少しカク付きながらこちらを向く。
「シゲキ・・・モット・・モット!」
ロイが声を上げると、今度はメリーゴーランドの乗り物をかたどったバグが溢れる。
「なんでもありだな、おい!」
「強さは大したことない、さっさとやるぞ!」
シュウとバロウの声に、リンも気を引き締めてバグ達を切っていく。
「・・・ナゼ?・・・タノシ・・・イ、タイ・・・ケン・・」
少しずつ、ロイが後ずさりしていく。
「・・・っ!」
リンがロイに向かって走り出し、ロイのわきを切り裂く。
「ガッ・・・ガッ・・・」
ロイは声を上げながら倒れ込む。
そのままリンは素早くこめかみに柄を当て、電流をながす。
すると、バグのもやがロイの頭から抜けていくのが目に見えた。
「ロイ!ロイ!しっかりしろ!」
ギースが倒れたロイに駆け寄り、抱きかかえる。
「マスター・・・モット・・シゲ・・キ・・タノシク・・ナリ・・マシタ・・・カ?」
「あぁ・・・あぁ!お前は・・俺の言った通り、頑張っていただけなんだよな・・」
「すぐに直してやるから・・ゆっくり休め。」
ギースの頬に涙がつたう
「ソ・・レハ、ヨカ・・ッタ・・・」
ロイはゆっくりと目を閉じ、停止したようだ。
***
誰もいない入場口で、ギースが3人に挨拶している。
「ありがとうございました、本当に。」
「あぁ、事故が起きる前でなによりだ、警察には俺から解決したと言っておくよ。 大事にならなくてよかった」
ギースは深々と頭を下げ、バロウは肩をポンッと叩いた。
遊園地を出て車に向かう3人。
「妙な一件だったな」
シュウが小さくため息を吐く。
「もっと楽しく、か、言われたことに忠実に動いてたんだろうな。バグが入り込んだのは不運だったな。」
バロウの言葉に、リンも答える。
「なんだか不思議なヒューマノイドだったね・・・心があるように感じた。」
リンの言葉に、バロウとシュウは顔を見合わせた。
「心、かぁ・・心ねぇ・・・」
シュウは何とも言えない顔をしている。
3人は車に乗り込み、帰路につく。
その後ろには遊園地に夕陽が差し込み幻想的な風景を作り出していた。
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