夢と機械のワンダーランド

第5話

「ようこそ!ギースワンダーランドへ!ここでは刺激的で、楽しい様々なアトラクションがあなたを待っています!」



 明るい女性の声でアナウンスが響き渡る、大勢の人、子供たちのはしゃぐような声も聞こえてくる。


 入口でバロウが自動改札のタッチパネルで値段と人数を入力している。


「えー調査なのに金払うんかよー」


 シュウがぶー垂れている。


「しょうがねぇだろ、全自動なんだ、顔パスってわけにもいかねぇ」「ほら、これ使って入るぞ」


 バロウがチケットを二人に渡す。


「凄い・・綺麗なところだね。」


 リンが呟く。


 目の前に広がる広大な敷地には、昔ながらのメリーゴーランドなど様々なアトラクションがあり、子供たちが笑顔いっぱいに楽しむ姿がよく見える。



 ***


 ――数時間前


「今度は遊園地か」


 シュウとリンがバロウの話を聞いている。


「そうだ、数年前にできた比較的新しいところだが、そこで最近奇妙な事が起きてるらしくてな。」


「奇妙な事?何か事件ではないの?」


 リンが不思議そうに聞き返す。


「事件ではない、いやなっていないといった方がいいかもしれねぇけどな。」


「アトラクションのシステムやその設定が勝手に書き換えられる事態が起きているそうだ。」


 バロウがややこしそうな顔をしている。


「バグはそんなことできないし、誰かがいじっているとしか・・・」


 リンも困惑しているようだ。


「機械的な不具合ならそれでいいんだけどな、そうじゃないってなれば、面倒な事になるだろうな」


「いたずらかねー?、確かにめんどくさそうだな」 


 シュウもバロウも、やれやれといった感じで話す。


 ***


「ようこそ、ギースワンダーランドへ。私は案内人のロイ。 皆様を素敵な体験にご案内致します。」


 入場すると、ヒューマノイドが案内役として大きな地図を映し出すモニターの前に立っていた。


「ギース社長本人から依頼を受けて調査に来たものだ、バロウという。 社長は今どこにいるかな?」


 バロウがヒューマノイドに尋ねる。


「調査依頼、なるほどマスターから話は聞いております。マスターでしたらここからメリーゴーランド地点に向かった先の従業員用施設におります。」


「本日は調査が入るとの事でしたので、営業時間を短縮し16時に閉園。 明日は休業日とする予定でございます。」


 表情はそこまで無いものの、一切機械的な事はなく流暢にヒューマノイドが説明する。


「わかった、ではそこに向かうとするよ、ありがとな。」 


 バロウが答えると、3人はギースがいるという施設へ向かった。



 施設へ向かう3人、道には沢山の花が咲いておりなんとも幻想的な雰囲気であった。


 すると、シュウが道端の花に手を伸ばし花びらを一枚ちぎる。


 手のひらに乗せた花びらはポロポロと消えてゆき、ちぎったところからすぐさま新しい花びらが生えた。


「なんだ造花かよ」


「ちょっとやめなよシュウ、造花でも、花は花だよ。」


 残念がるシュウにリンが少し説教をする。


 しばらく歩くと今度は絶叫マシンのコーナーが見えてくる、といっても乗り物はなく、乗客全員が席に座り電脳ゴーグルをかけている。


 意識全てを電脳に繋いでいるのだろう、乗客は声も上げず、静かに席に座っている。


「楽しそうには見えねーよなー、アレ。」 


 またもやシュウがつまらなそうに呟く。


「外から見れば、な。」


「実際には本当に絶叫してるだろうし、電脳なら事故はない、しかも建築費用もかからない、経営する側からすればいいことだらけってとこだろ」


 バロウが歩きながら答える。


「そのくせメリーゴーランドなんかは随分古臭い作りだよな、観覧車だって実際に乗るようになってるし。」


 シュウが話題を変える。


「そういうところは文化なんだろ、わざわざ揺れや稼働の音まで再現して作ってある。」

「今の技術で作っちまったら、ぜってー揺れねぇし無音だからな。」

「人間ってのは、そういう感覚的な要素がないと、楽しめないのさ。」


 バロウがそう答えるとシュウは少し息を吐いて遠くを見た。


「私は好きだよ、メリーゴーランドとか、キレイで楽しい。」 


 リンは思いのほかワクワクしているようだ。


「お前意外とあぁいうの好きだよな。ガキの頃に連れてきてもらってた時は帰りたくなさそーにしてたし。」

「絶叫系はどうなんだ?興味ないのか?」


 シュウがリンに聞き返す。


「そういうのはいいかな、お化け屋敷とかも。普段怪物と戦ってるし、今更体験する気にはならないよ」


 リンがやれやれといった感じで言う。


「ははっそりゃそーだな」と、シュウも笑った。


 従業員用施設へ到着した3人、施設の中には仕事に追われる者や休憩中の者、ヒューマノイドのメンテナンスを行う者など様々な人たちがいた。


「なんだかんだ人も多いのな」


「全部ヒューマノイドに任せるわけにもいかんだろうさ」


 シュウとバロウが喋りながら中を進むと、明るい色のスーツを着た男性が迎えにきた。


「お待ちしておりました、私は社長のギースと申します。どうぞこちらへ」


 ギースの案内で社長室の中に来た3人。


 社長室には創業当時の写真など、様々な写真が飾られている。


 テーブルには綺麗なカップに紅茶が淹れられており、そのテーブルを囲み全員が腰掛ける。


「改めて状況を聞かせてもらえますか、我々にできることがあるといいが。」


 バロウがそう言うと、ギースが重苦しい顔つきで話を始めた。


「はい、調査して頂きたい内容は事前に連絡した通りです。」

「何者かがアトラクションの設定を書き換えようとしているようなのです。」

「機械に不具合は見られませんし、事前に発見して修正していますので営業に問題は出ていないのですが・・・」

「従業員たちもまるで見当がつかないようですし、何者かが侵入して設定を変えているとしか思えないのです。」


 ギースは大きくため息をつきながら下を向いた


「ふむ・・・何か心当たりがあったりはしないんですか?こういう言い方は良くないが、誰かに恨まれるような事とか。」


 バロウの問いに、再びギースが顔を上げ答える。


「恨み・・ですか。特に思い当たる事は無いですね・・・同業の方がいたとしても、それほど深い交流を持つようなことも無いですし。」


「侵入してるんなら、監視カメラに映ってるんじゃないっすか?」


 シュウが不思議そうに聞く


「今のところそういったことも見られないのです、カメラの不調で少し映像が乱れる事はありましたが。」


 ギースが答えると、バロウが少しハッとした。


「映像が乱れる?それは少々怪しいですね」


「そうなのですか?」


 ギースはキョトンとしている。


「現代の技術で映像が乱れるなんてのは、よほどの自然災害じゃなければ何かの攻撃を受けているか妨害されている事を疑った方がいい。」


 バロウの発言に、ギースはかなり動揺しているようだ。


「そんな・・妨害ですか・・」



「何者かがカメラに障害を発生させて、映らないように侵入していると考えてもおかしくない。」

「今一度しっかり監視した方がいいでしょうね。今日は我々がいる、もし何か異常があればすぐに現場を抑える事もできますから。」


 バロウが提案すると、ギースが頷く。


「わかりました、よろしくお願いいたします。」

「監視カメラの制御室はこの部屋をでてすぐの所にあります。」

「今日はもうすぐ閉園ですので、従業員たちもすぐに帰ります、自由に観て頂いて構いません。」



「では閉園してからじっくり見させてもらいましょう、1時間程ありますから我々は準備に移らせてもらいます」


 3人が立ち上がり部屋を出ようとすると、ギースが声をかけた。


「あの、差し支え無ければ私も一緒に監視させていただいてよいでしょうか?やはり自分の目で確かめたいので・・・」


「構いませんよ、では閉園後に監視室に来てください。」


 バロウがニコッと答えた。


「ありがとうございます」


 再びお辞儀をするギースを後に、部屋を出る3人。



「よし、俺は監視室で機材の準備するから、お前らはしばらく外を好きに見て回っててくれ。」

「万が一何か異常があれば連絡しろ、何も無ければ16時に此処に集合な」


 バロウが2人に言うと


「おっけーじゃ、1時間後」

「うん、後でね」


 リンとシュウが施設を出ていく。

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