第4話
病院のロビーに付いた3人。
「この辺で待っててくれ」
そういってバロウはどこかへ行く。
リンとシュウが椅子に並んで座り待機していると、窓際に一人の女性が座っているのが見えた。
少し大きめの車いすに背をもたれ首を傾け外を眺めている。
するとそこに一人の少女がやってきた。
「ねーねーお姉さん」
少女が車椅子の足の方から話しかけると、女性は女の子の方に首を傾ける。
「いつもそこに座っているよね、これ、あげる!」
そういうと少女は女性の右手をとり小さな折り鶴を置いた。
「あら、可愛いつるさんね、ふふっありがとう」
女性は笑顔で答え、話を続ける。
「ごめんなさいね、何かお返しをしたほうがいいのだろうけれど、私は殆ど体が動かないの。お礼位しかできないわ・・・」
「ううん、いいの!私が上げたかっただけ!またお話しようね!」
そう言うと少女は手を振りながら走り去っていった。
女性は手を振り返すと、しばらくして左手にあるタッチパネルで車椅子を操作し病室の方へ向かっていった。
***
バロウが戻ってきた、医院長に事情を説明したようだ。
「とりあえず調査については問題ない、専門家ってことで何をするかはぼかしてるけどな」
「部屋を借りれたから、そこでレーダーを使って監視を始める。いつ来るかは見当もつかねぇが、いつでも戦えるようにしといてくれよ」
バロウがレーダーを設置しノートパソコンをいじっている。
「私たちは何時でも大丈夫だけど、どうするの?全員避難させるわけにもいかないでしょ?」
リンがバロウに聞く。
「取り敢えずは待ってみるしかねぇな、警備ロボットもまだ生きている奴はいるし病院の中を少し厳重にしておけばいいだろう」
バロウが機材を整えながら答えた。
「長くなりそうだし、なんか飲み物買ってくるわー」
そういうとシュウは部屋を出ていく。
***
夜、消灯時間になり薄暗い病棟の中で少しだけあかりの付いた部屋に昼間ロビーで見かけた女性がベッドで寝ている。
指でボタンを押すと、ベッドが変形して車椅子の形になる。
少女からもらった折り鶴を、ずっと手に乗せていたようだ、しばらく折り鶴を眺めた後・・・グシャっと握りつぶした。
ポケットからだした電脳ゴーグルをかけスイッチを押す女性。
フルフルと興奮したような震えが右手に伝わる・・
「さぁ・・・・壊しましょう!!!」
「――来たぞ!、バグの反応だ!」
バロウが声をかけると、寝っ転がっていたシュウは飛び起き、うとうとしていたリンが顔をパンっと叩く。
「病棟の方角、外だな、レーダーの状態は何時でも見れるように携帯に繋ぐ。3人で行くぞ」
「よっしゃ!」
シュウがそういうと、3人は反応のある場所へ駆け出す。
「なんだこりゃ、集団だな、しかも人型じゃねーか」
駆け付けたシュウ達の前に警備ロボットをバキバキと壊す人型のバグが沢山見える。
囲うようにうろつくバグ達の中心に車椅子の女性がいた。
「ジャンキーか、まさか入院患者とは思わなかった。自分でバグを作り出す程とは、相当染まってるな。」
バロウがそういいながらファイティングポーズをとる、するとグローブに青白い電流がはしる。
リンとシュウも武器を取り出し戦闘準備を整える。
女性は不気味な笑みを浮かべながら3人の方を向く
「あらあらどちら様かしら、武器を持っているなんて、怖いわ」
「あんたみたいなのを取り締まるのが俺たちの仕事でね、おとなしく捕まってほしいんだが・・」
バロウは顔をこわばらせながら話す。
「そう、取り締まるの?いいわよ、そろそろ人も壊したいと思っていたところなの、丁度いい相手が出来たわ」
女性が指でトンッと音を出すと、バグ達がぞろぞろと一点に集り、3人の方を向いた。
「リン、バグは俺たちが引き受ける、お前は女のゴーグルを壊して、気絶させろ」
バロウが指示を出す。
「――壊しなさい!全部!全部よ!!」
女性が勢いよく叫ぶと、バグ達が一斉にこちらへ向かって走り出した。
「ふっ!」
バロウの拳がバグを粉々にする。
「オラよぉ!」
シュウもまたバグを切り裂く。
様子をみるリン、2人がバグを倒していく中、数が少なくなった場所を見極め、一気に女性に駆け寄る。
「ふふふ・・・」
女性がにやけながらリンの方を見ると、女性の体から新たなバグが飛び出し、リンに勢いよくぶつかった。
「リン!」
吹き飛んだリンをみて、声を張るシュウ。
「平気」
リンはすぐに立ち上がり息を整えた。
「おいあんた、いくら何でもやりすぎだ!体が先に壊れちまうぞ!」
バロウがまた一つバグを砕きながら女性に警告する。
「アハハハハハ!」
女性が狂ったような笑い声をあげ、こちらに向かってしゃべりかけてくる。
「体ァ?そんなものどうだっていいわ!とっくに壊れているもの!」
「いくら電脳に漬かろうが、機械につなごうが、動かないの!こんな体壊れてしまえばいいわ!」
女性の怒号が響き渡る。
バグを切り裂き、リンが女性に話しかける。
「落ち着いて、死んでしまったらなんにもならないでしょ!」
「アハハ!もう死んだも同然よ!あたしはね!もう死んでるの!」
「それとも、全部機械にするのかしら!?首から上をもぎ取って、ヒューマノイドにくっつけて!!!!」
「そんなの、生きてるなんて言えないじゃない!そんな形で動けたとしても、幸せだとは思わないわ!!!!」
「ハァハァ・・だからね、全部壊してしまいたいのよ、こんな世界・・・・ハァハァ・・・・無くなってしまえばいいのよ!!!」
怒鳴る女性の顔に汗が滴る。
リンは何も言えず、女性の顔をじっと見る。
「相当消耗してるな、もうバグもそんなに出せねぇだろう、シュウ付いてこい、飛び込むぞ」
バロウが小声で言うと
「了解」
シュウが頷く。
「リン!行け!」
こちらに走ってくるバロウが叫ぶと、リンは何かを察し再び女性にゆっくり向かっていく。
「くぅあぁ!!」
苦し気な声を女性が上げると、再びバグがリンに向かって飛び出る。
しかし、追いついたバロウとシュウが一気にバグを砕いた。
その瞬間、リンが一気に女性に密着し、柄の後ろで女性のゴーグルを軽く叩くと、少しの電流が流れゴーグルが砕ける。
「うっ・・・」
電脳が急に遮断された女性は気を失い、かくんと首を垂れた。
――警察が集まりバロウから聞き取りを行っている、しばらくするとバロウがリンとシュウの方に歩いてきた。
「残りは警察に任せる」
警察車両に向かって、担架に乗った女性が運ばれていく。
「あの人、逮捕ってことになるの?」
「あぁ器物損壊だしな、人に害はなかったとはいえ、罪は罪だ。」
「そっか・・・・」
バロウの返事に、リンは少し寂しそうな表情を浮かべる。
「そんな形、幸せだとおもわねぇか――なんていうか、辛いな。」
シュウが車両に乗せられていく女性をみて呟く。
「今回はこんな事になっちまったが、人生長いんだ、生きてりゃそのうち別の形が見つかるだろ。」
「そう祈るしかねぇさ。」
バロウがシュウの肩をポンッと叩く。
「そうだね、きっと・・・見つかるよね。」
リンがほんの少し潤んだ目で見つめている。
「帰ろう、俺たちにできるのはここまでだ。」
3人は車に乗り込み、病院を後にするのだった。
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