幸せの形とは

第3話

 拠点の電話が鳴り響く――

 バロウが応答ボタンを押すとスーツ姿のきりっとした綺麗な女性が映る。


「ようリズ、自分で掛けてくるのは久々だな」


 バロウは顔を少ししかめて話す。


 リズ・カーライト、バロウの元同僚であり、現在は若くして警察のトップに君臨する女性である。


「たまには君たちの顔を見ながら話したいと思ってね、リンとシュウはいないのかい?」

「あいつらは今、買い出しに行ってるよ」 


 顔に手をつきながら答えるバロウ。


「フフ・・本当に家族の様だな、羨ましいよ。ところで、この間の話は考えてくれたかな?」

「俺たちを正式な特殊部隊にってやつか?ダメだな、そりゃ無理ってもんだ」


 リズの問いに、バロウはあきれ顔で答える。


「私は本気なのだけどね・・・そうすれば君たちももっと堂々と仕事ができるだろう?」


 リズがもの言いたげな顔で言う。


「そりゃそうかもしれないが、それでどうする?バグの事を公表するか?世界は危険なバグとジャンキーが溢れてますって公言するか?」

「そんなもん混乱を招くだけだろうよ、そもそも信じるやつがどれだけいるかも怪しいしな。」


 バロウは大きくため息をついた。


「フム・・そう簡単には乗ってくれないか、残念だが・・まぁいい。仕事の話をしよう」


 リズが改めて話を始める。


「依頼内容はバグの調査、場所は都市中心部にある総合病院だ」


「病院?」 


 バロウが首を傾げる。


「あぁ、最近物や警備ロボットが壊される事件が多発しているようだ」

「まだ怪我人は出ていないが、同じ場所で何度も事件が起きているとなると一度しっかり調査をしなければいけないだろう」


「なるほど、ちとめんどくさそうだな」

 

 困った顔で話すリズに、バロウが眉をひそめる。


「病院にはあらかじめ私の方から事情を説明しておく、君たちは現場に向かってバグの調査を行ってくれ、見つけ次第帰葬してくれて構わない」


 リズの真剣な視線が見える


「報酬はいつものところに支払う、二人にもよろしく言っておいてくれ、今度食事にでも行こう」


 リズがほほ笑む


「あいよ、飯ならあいつらは大喜びだぜ。じゃ、またな」


 バロウが通話を切る。


 ***


「ただいま」


 リンとシュウが大きな袋を持ちながら拠点に戻ってきた。


「おかえり、リズから依頼が来たぜ。内容は飯食ってから説明するわ」


 荷物を受け取りながらバロウが話す


「リズさんからは久しぶりだね、元気そうだった?」


 冷蔵庫に買ってきたものを入れながらリンが聞く


「相変わらずだったぜ、今度‌みんなで食事でも行こうってよ」


 バロウはどこか嬉しそうだ。


「お、いいねー!飯、いこうぜー!俺も最近リズさんに会ってないし」


 机の上に買ってきた食事を並べるシュウ。


「よし、じゃ食おうぜ」


 バロウがそういうと3人は席に着く。


「――頂きます」 


 意外ときっちりした家族である。


 ***


 バロウの車で現場に移動中の三人


「なぁ今更だけどさ、なんでこの車ハンドル付いてんの?運転なんて設定ボタン押して後は全自動だろ?」 


 シュウが助手席で頭の後ろに手を組みながら尋ねる。


 バロウはハンドルに手を置き、軽く操作しながら答える。


「こういうのは自分で操作するから楽しいんだよ、ただ座ってるだけなんてつまんねぇだろ? レーサーだってわざわざ自分で運転してるじゃねぇか。なんでも機械にやらせりゃいいってもんじゃねーのさ」


「ふーん、そういうもんかねぇ」


 シュウはあまり興味なさそうだ。


「おめぇだってバイク乗ってる時は楽しいだろ?」


 バロウはシュウの顔をまじまじと見ながら聞く。


「そりゃー走ってる時は楽しいけど、別に自分で操作してるって感覚はないなー」


 シュウの答えに、バロウはふふっと口角が上がる。


「まぁお前もそのうちわかるさ、好きな物は自分の手でやりたくなるもんだ」


 少しして、リンが口を開く。


「病院で何度も事件が起きてるって、ただロボットが不具合起こしているだけとかではないのかな?犯人がいるとしたら、目的がよくわからないけど」


 バロウがコーヒーを一口飲み、答える。


「どうだろうな、もしただの不具合だとしてもバグが機械に悪さしている可能性もある。そうなればこっちの領分だしな、なんにしても調べは必要だう」


「病院かー久々だなー、小さい頃に一回だけ行ったっけか?大した怪我じゃなかったけどな」

「なんかヒューマノイドに適当に手当てされて終わった覚えがあるな、医者なんて覚えてねぇや」


 シュウは体を起こし、置いてあったジュースを飲みながら言う。


「ああいうとこにいるヒューマノイドは高性能だからな、重要なこと以外は音声聞き取って大抵こなしてるはずだ」

「人間味がねぇといえばそれまでだが、やることは正確だからな、手術のサポートまでする位だ、時代ってやつだよ」 


 バロウは少し儚い目をしながら答えた。


 ***


「ついたぜ」 


 バロウが駐車場に車を置き電源を切る。


 3人は車を降り、歩きながら目の前に広がる病院の中庭を眺める、ボールで遊ぶ子供たちが見えるが中には義足の子供もいる。


 歩行補助の機械を付けながら歩くお年寄りに寄り添う看護師とヒューマノイド。 バロウのいう通り、高性能そうなヒューマノイドが病院のいたるところにいるようだ。


 病院の裏側に来た3人、警官が立っている区画がある。

 そこには壊れた警備用ロボットやヒューマノイドが何台も転がっていた。


「リズ・カーライトからの依頼で調査に来たものだ、見せてもらってもいいか?」


 バロウが警官に話しかける。


「バロウ様ですね、話は伺っております。どうぞこちらへ」


 警官が3人を案内する。


「あーぁー派手にぶっ壊したもんだね、腕ちぎれてんじゃんか。 一般人には無理だわな」


 シュウが頭をぽりぽりかきながらそう言った。


「これらのロボットは修理待ちの状態です、監視システムの音声に物が壊れる音が入っている時が何度かあったようで、どうやら夜中に犯行が行われているようです」

「犯行?もう犯人がいるってことで進んでるのか?」


 状況を話す警官にバロウが聞く。


「はい、警察の調査では機械たちに不具合は見られませんでした、事故の線も薄いということで、誰かしらの犯行ではないかということになっています」

「なるほどな、なんにせよ俺たちもこれから調査を開始する」

 

 バロウが警官にそういうとリンとシュウを連れて病院入口の方へと歩き出した。


 中庭を横切って入口に向かう3人


「俺はこれから医院長に挨拶にいってくる、最悪今日は泊りかもな・・・・どうした?」


 バロウが振り向くと、シュウが病棟の窓を見つめている。


 そこに見えるのは入院患者の個室だった、寝たきり状態の少年がベッドの上に横たわっている。体にはありとあらゆる装置が取り付けられ、頭には深々とヘルメットを被っている。体系は少しやせている程度の見た目だが、恐らくは大量の装置によって無理やり生命を維持しているのだろう。どうやって生きているかと問われれば、恐らくこたえられる人間は少ない、そんな状態だ。


 ヘルメットから伸びたケーブルの先に繋がったモニターが元気な男の子を映し出している、電脳のアバターで母親と話をしているようだ。


「あんな状態で、幸せといえんのかね・・・・」


 シュウがそうボソッと呟くと、


「おいっ!」


 バロウがシュウをキッと睨んだ。


「わりぃ・・」


 シュウはそういいながら、少しうつむく。


 ハァっと息を吐くバロウ


「親ってのはな、子供が例えどんな状態になろうと一番大切なんだよ」

「どんなに凄惨な見た目だろうが、生まれたやつには生きる権利がある。幸せの形は人それぞれってこった」


「そうっすね」


 シュウは少し悲しそうな笑みを浮かべた。

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