第1-4話 美男美女…いや、美男美男
その日も、空きコマを利用してその場所に顔を出す。
「
「おっ、来たね」
自分でも流石にウザいんじゃないかと言う程、足繁く通ったその『就活サポート課』が、叶ちゃんの仕事場だった。
この課は名前の通り、学生の就活の支援を行う。壁もなく開放的なこのエリアには、談話用の机や椅子、ドリンクバーに、沢山の企業情報紙やパンフレットが展示されていた。職員とのスペースも、背の低いカウンター席に隔たれただけの丸見え状態だ。
叶ちゃんは、俺の姿に直ぐに反応して席を立ち、カウンターの前までやって来た。
「いつものー」
「ピーチティーだっけ?」
「うぃー」
叶ちゃんが少しでも迷惑がったら訪問頻度を減らそうかと思ったが、彼は微塵にもそんな気配を見せなかった。根っから人が好きな人間なんだと思う。いつもにこにこしてるし。学生からもアイされてると思う。ここで仕事をしている姿以外は、学生の誰かしらと喋っている姿しか見ない。学生に囲まれて食堂で飯を食ってるのを見たこともある。
「次からは自分でいれてよ。はい、どーぞ」
「ありがと。つれないこと言うじゃん」
「芳樹は来過ぎ。僕が訪問者にお茶をいれてあげるのは五回までなの」
「ふーん?」
来過ぎ、と言いつつ迷惑そうな顔をしなかったので、次の空きコマも来れる。
受け取った温かいピーチティー。それは、それ以上の温度の熱を持って、俺の胸を熱くさせる。
ピーチティーを飲みながら、正面に立つ彼を盗み見る。叶ちゃんはいつでも、その肩にかかる髪の毛を後ろで一つに束ねていた。今日も変わらない。いつか、その髪を下ろしているところを見てみたいなと思う。中性的な顔立ちは、秋夜のように「女」と見間違える程ではなかったものの、綺麗だと思う。
不意に、秋夜と叶ちゃんが二人で並んでいるところを想像した。……うっわ、美男美女。目の保養でしかない。誰もがきっと、お似合いだと思うだろう。
(…………いやまぁ、どっちも男だしなぁ)
そんな未来、無いか。と、安心するようながっかりするような……気持ちになる。そんな不思議な気持ちをピーチティーと一緒に飲み干した。
「紅茶って一気飲みするものだっけ?」
空になった紙コップをカウンターに置くと、叶ちゃんが苦笑いした。彼は色んな笑い方を持つ。表情もころころ変わる。秋夜にもその表情筋の半分くらい、分けてやってよ、と思った。あの美人が笑った顔、俺も見てみたい。
「ごっそさん。また来るわ」
「芳樹、ほんと、カフェだと思ってるだろ? 此処のこと」
いっそ清々しいまでに。と、苦笑する叶ちゃんの顔も、迷惑というよりは親しみの為の色が濃いように感じられる。だから、次の空きコマも行くからな、と心で誓う。
「カフェだとお金がかかるだろ?」
あくまでタダ飲みを口実に、その実、叶ちゃんに会いたくて、その後も何度も『就活サポート課』に足を運んだ。
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