第64話 キューティホー

「ねーねー、みんな聞いてー。ここにいる豆先輩がー、大切な人に歌を届けたいってさー」


 立ち上がり、あざと可愛いボイスで宣伝しやがるヲタ兄。


「え!? 雅が!?」


「ヒューヒューやるー!」


みやびの好きな人って、誰なんだろー」


「気になりますよね」


 クラスメイトの会話に混ざるフェルデン。


「…………」


 だから! お前だよお前!


「舞台スターティン!」


 パチンと指を鳴らしたヲタ兄。


「おいおいおいおい!」


 どこもかしこもお前ら改造済みかよ! 魔法でヒュッとギターやベースを出す様も決まってますな! よっ! イケメン! マイクも出してくれてありがとよ!


 オレのツッコミは他所よそに、楽器を構えウインクしてきたヲタ兄弟。この歌、すぐ始まるんだよなー。マイクを右手に持ち、スイッチを入れ、前を見据えた。フェルデンを見た。


「お前が安らかに日々を過ごす、そんな日が来たーならー。それこそ願いが、俺の願いが叶う日なのさー」


 悲しむ事なく、辛い過去を思い出す事なく、お前が学校生活を過ごせる。それが、俺の、願いだ。


「だけどもこの世の闇が、お前の心を曇らせて、お前の美しさまで忘れてしまうー」


 見谷みやとか、心無い奴らが、平気でお前を傷つける。


「美しい! 美しい! 美しい! 本当のお前! 汚らしい! 汚らしい! 汚らしい! この世界にー!」


 天使よりも見た目も心もきれいなフェルデン。


 お前のことを何も考えず、酷いことばかり言ってくる奴らはきっとまだいるだろう。そんな汚れたこの世界。


「キューティホー! キューティホー! キューティホー! お前だけが俺を救ってくれるーのさー! 答えのなーいこのー世界でー! お前だけが俺の答えー!」


 そう、きれいで可愛いお前が、俺の答え。


「キューティホー! キューティホー! キューティホー! 世界中にーラブソングを流してくれ! そいつをお前に捧げるよー! お前が俺の全てー!」


 変態ばかりのこの学校。突如舞い降りた聖女様。そんなお前へのラブソングを今、捧げるよ。だって、お前が俺の全て。


「この世は悲しい事ばかりー、優しくない夢ばかりー。世界の大先生たちがーお前の闇を作るー」


 その顔のせいで意図せず殺してしまったり、学校生活を楽しもうとしているのに、邪魔してくる奴らがいたり。世界の大先生たちは何してんだよ。


「涙と笑いの青春ドラマで、大金が動く夜にー、俺はお前の事が心配で、夜も眠れないのさー」


 九時のドラマは男女の青春ラブストーリーやって、視聴率めっちゃい良いらしいぞ。でも、俺はお前が心配で内容は少しも頭に入ってこねぇし、夜も眠れない。


「美しい! 美しい! 美しい! 本当のお前! 汚らしい! 汚らしい! 汚らしい! この世界にー!


 キューティホー! キューティホー! キューティホー! お前だけが俺を救ってくれるのーさー! 息のできないこの街ーでー! お前だけが俺の答えー!


 キューティホー! キューティホー! キューティホー! 世界中にラブソングを流しておくれー! そいつを全部お前に捧げさせておくーれー!


 一体、誰が何のためにー、お前のことを苦しめる、こんな時代をー作ったのー」


 悪魔なのに聖母のように優しいお前を、苦しめるこんな時代。誰が作ったんだろうか。作った奴に会えるなら、ぶっ飛ばしてやるのにな。


「俺は必ずお前の元に駆けつけるーよー、だからーもう信じておくれー、お前がー美しいってことー、俺にー叫ばーせておくれー、お前が俺の全てだってー」


 何回でも言う。悲しい時、辛い時、必ずお前の元へ駆けつける。

 だから、もう信じてくれよ、お前は、お前の心はきれいだって。けがれていないって。

 俺に叫ばせてくれよ。お前が俺の全てだって。




 お前が、好きだって。


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