第63話 お前だよお前!

「あ、おかえりー豆せんぱーい。炭酸は、買えたー?」


 ヲタ兄、フェルデンを後ろからがっつりホールドし、俺を見上げた。


 免疫ありがとうと思いつつ、炭酸のペットボトルを差し出した。


「ああ、買えたぞ。炭酸。サンキューな」


「これで、また貸し一だからな」


 素のイケメンボイスあざーっす。


「そうだ、もう一つ貸しを作るのはどうだろうか、兄さん」


 フェルデンの膝枕……の間に、顔を突っ込んでいたヲタ弟が顔を上げた。

 お前ら、俺が奮闘している間にフェルデンを堪能しやがって……。


「あぁー、そうだねー。男子のダンス部、結局ボクたちのオンステージだったからねー。お姉ちゃんの笑顔のために、ボクらが一肌、いや、二肌脱ごうか」


 ヲタ兄は、男子ダンスのサスペンダー衣装を脱ごうとした。いや、本当に脱ぐんかい! と、思っていると、周りの女子がキャーキャー言い出した。いや、お前ら、こいつが脱ぐと出てくるのはただの“ちっぱい”だからな!


「僕らが演奏してあげるからさー、歌に乗せてに想いを伝えてみたらぁー?」


「え、みやびさん。誰か想い人がいらっしゃるんですか?」


「…………」


 お前だよお前!


「そうそう、豆先輩のー好きな誰かさんのためにぃー、僕らが一肌脱ごうというわけ」


「……その誰かさんは、雅さんに想われて、幸せですね」


「…………」


 だから! お前だよお前!

 そうっ、もうっ、だから! お前は幸せチャンピオン!


 フェルデンは、行事や勉学に一生懸命すぎるせいか、色恋に疎いよなー。


「兄さん、今、僕は新商品を閃いたんだ」


「何々ー?」


「姉さんの膝枕クッション、マッサージ機能付き」


「最高! さすがボクの弟ー! 帰ったら早速開発しよー!」


「「イエーイ!」」


「…………」


 こんな、ハイタッチしている、変態イケメン女子に囲まれれば、色恋に疎いというか、感覚がおかしくなるのは当たり前か。


 というか、早くフェルデンからこいつらを引っ剥がさねば!


「ならば! イケメンハイスペなお前らに頼みがある!」


 ヲタ兄弟をぐいっとフェルデンから引き離した。


「ああー、僕のお姉ちゃんがー」


「姉さん、また後でー」


 名残惜しそうに手を伸ばす二人に、優しく手を振るフェルデン。本当に女神様だな!


 フェルデンから離れ、二人とがっちり肩を組み、顔を近づけた。近くで見るとイケメンがはっきりわかりムカつくな! こんちくしょーめ!


「んー? ボクらの顔にイケメンがついてるってー?」


「そうだよ! ごちそうさまです!」


 エスパーかお前は!


「豆先輩、僕らは顔にイケメンがついているんじゃない。顔が、イケメンなんだ」


「知ってるよ! だぁーもういいから! 耳を貸せ!」


 先が尖った、これまたイケメンフェイスにぴったりな、美しい耳に顔を近づけた。


「あのな、俺が敬愛している、サンボキャプテンさんの——」


「あの曲をチョイスするとは、やるね、豆のくせに」


「“先輩”はどこ行った」


「あの曲なら、想いを伝え、そして、体育祭にぴったりですね。やりますね、豆のくせに」


「だから、“先輩”はよ。つーか、お前ら、あの曲を演奏できんのか?」


「任せてよっ」


「僕らに」


 二人は立ち上がり、


「完コピできない曲はないのさっ」


「完コピできない曲はありませんっ」


 ハモってアイドルスマイルな、ピースポーズ。


「だから! 一々キラッとすな!」




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