顔を見せてよフェルデンさん〜鉄仮面を被っても最強最かわな転校生、と青春したいのに、彼女を愛するイケメン女子が邪魔してくる件〜

第62話 あいつは殺人鬼じゃない

「ねー、雅ー。何でオレらが買いに行かないといかないのー？」

　お前がいると、フェルデンが沈むんじゃ！　と思いつつ、適当な言い訳を考えた。

「あ、ほら！　女子会を邪魔しちゃ悪いだろ！？」

「イケメン双子いたけどー？」

「わかる、わかるぞー。だがな、よく見ろ。あいつらには玉がない」

「天使たちはー？」

「わかる、わかるぞー。あいつらは玉があるからな」

「じゃあダメじゃん」

「ダメじゃないんだ。なんせあいつらは、男しか、特に玉しか興味がない。だから、フェルデンに害はない」

「……どうしてそこまで必死になるの？　衣装も着替えずに」

「衣装……？　うおっ！」

　そういや毛ぇ剃れなかったーズのままだった！　どうりで足がスースーするわけだ。

「……お前こそどうしてそこまでフェルデンに突っかかる。起きた事は水に流せとは言わん。だが、今のフェルデンを見てみろ。何を言われても、何をされても、みんなと協力して学校生活を送っている」

「それがムカつくんだよ」

「何が」

「オレの大事な人の、送れるはずだった学校生活を奪っといて、何でお前は楽しんでんのって話」

「…………」

　普通ならここで、俺もダークサイドになるだろう。

　だが、甘い！　俺は！　日々！　フルポーカーヲタ兄という！　最強の闇と戦っている！　それによって！　免疫がついている！

　俺は！　墜ちぬ！

「殺人鬼は、殺人鬼らしく、魔界で一人、殺戮（さつりく）してればいいのに」

「——それな」

「どれ？」

「“殺人鬼”。俺はバカだから、意味を調べた。“殺人鬼”、平気で殺人をすることのできる人を、鬼にたとえていう言葉、と出た」

『…………。殺したくなんて、なかった……っ』

「……フェルデンから話は聞いた。少しも、微塵も、平気じゃなかった。今でも苦しんでいるくらいだ、その証拠が鉄仮面だ。だから、あいつは殺人鬼じゃない」

「そういうのを何て言うか知ってる？　屁理屈って言うんだよ」

「屁理屈で構わん！」

　俺はぷぅーっと屁をこき、衣装を脱ぎ、ケツの辺りでわしゃわしゃーと丸め、見谷（みや）に被せた。

「うわっ！　くっさ！」

「ふははは！　臭かろう！　それぞ本当の屁理屈ってな！」

「意味わかんないし！　汗臭いし！」

「豆星から来た伝説の剣士！　それがこの俺！　汗臭筋肉豆！　スグトラルだからだー！　ふは、ふはははー！　財布を忘れたー！　着替えるついでに取ってくるから！　お前はここで悶えているがよい！　ミーヤドス！」

「めっちゃくっさ！　汗とオナラって！　しかもオナラ濃いよ！　朝は何を食べたの！？」

「スタミナがつくように、ニンニクソースのカツサンドとニンニクの丸揚げだー！」

「それ最悪じゃん！」

「ふは、ふはは！　悶えろ！　俺は！　タンクトップともっこり出てるボクサーパンツという変態姿で戻る！　ふはははー！」

　見谷に背を向け走り出した。

　俺は絶対に、ダークサイドには墜ちぬ。最強の聖母様がついているからな！

　そして、その聖母様が悲しんでいる、そんなのは見ていたくない。

　だから、バケゴリじゃないが、俺の見てきたフェルデンを信じ、最初で最後の体育祭を盛り上げ、いい思い出になるようにしてやるだけだ。

　……この後、ＰＴＡの派手なおばさま方に説教をくらい、体育祭実行委員長からは、次にその姿になったら退場ですと、大目玉くらった。