第60話 種族を超えてゆけ、悲しみ超えてゆけ
ヲタ兄に背中トンはまだ序の口だ。
これからが本番だ。
「物心ついたらふと、見上げて思うことは」
右斜めを向き、両手を上下する。そう! 昔いたかの有名なコメディアンの髭ダンスのように!
「この世にいる誰もっ、二人からー」
手を上に向け、交互に回しながらバックぴょこぴょこ。
ピースサインを交互に出し、最後は人差し指だけ立て交互に。
ラジオ体操みたく手を肩に交互に置き、最後は右手を腿に置き、可愛く首を傾げる!
可愛く!
そしてー。来るぞ来るぞー、怒涛の男子キモダンスが!
「胸の中にあるものっ、いつか見えなくなーるもの」
頭の上にウサギ耳みたいのを手で作り、指を順にぐにゃぐにゃ曲げ、口元を右手左手と隠し開く。
「やだー、男子たちキモーい」
「…………」
わかる、わかるぞ。お前ら女子の気持ち。
だが、俺ら男子、毛ぇ剃れなかったーズは、その声を声援だと信じ、全力で踊る。
「それは側にいることっ、いつも思い出してっ」
顔の前で手を斜めに交差し、人差し指を立て、右手左手と前に出し、右手をゆらゆらスイング。
「やだー、思い出したくなーい」
「…………」
わかる、わかるぞ、お前ら女子の気持ち。
俺もこの衣装を着たダンスは、一生、思い出したくない。だが、俺は、フェルデンとの大切な一日になると、思い出になると信じ、全力で踊る。
「君の中にあるーものっ、それは距離の中にあーる思いっ」
人差し指を立てたまま、右手を中にゆらゆらしつつ左へ移動、今度は左手をゆらゆらしつつ右へ移動。
少し左を向き、人差し指を合わせると大きく回してまたくっつけ、右左と交互に前を出す。
「愛したんだ、貴方の、指の混ざり、髪の香り、種族を超えてゆけっ」
両手を上げ、左手は上げたまま右手で心臓ぽんぽん。左手は髪をかき上げるように後ろへ、右手はカモンというように、指を順に曲げていき、左手で顎を撫でるように右から左へ。
そして、ピースサインを交互に前に出し、中指は曲げ、また人差し指だけ立て、交互に前を出していく。
そして、手の動きえげつない鬼間奏。
「悲しいと、秘めた思いは色褪せ。白鳥は運ぶわ、当たり前を変えながらっ」
どれだけお前は、悲しい思いをしてきたんだろうな。言うのは辛いかもしれないが、色褪せる前に教えてくれないか。
そしたら、きっと、悲しかった“当たり前”、変えてやるから。
「愛せずにいられないな、似た顔も虚構も、愛が生まれるのは一人からっ」
そうだ、愛せずにはいられない。
愛が生まれるのは一人から、俺は、お前から。
「君の中にあーるものっ、いつか見えーなくなるものっ。それは側にいるーことっ、いつーも思い出してっ」
悲しみでいつか見えなくなるかもしれない、でも、忘れないでほしい。ここにいる間は、俺はお前の側にいる。
「泣き顔も、曇る声も、光る笑顔も、いつまでもー、いつまでもー」
顔のことを言われ泣いていた時も、落ち込んで曇った声も、学校生活を楽しそうに送っている時の光っているであろう笑顔も。いつまでもいつまでも見ていたい。
「胸の中にあるものっ、いつか見えなーくなるものっ。それは側にいるーことっ、いつも思い出してっ」
俺は、上手い言葉はかけてやれない汗臭筋肉豆だけど、いつもお前の側にいるから、泣きそうな時はそれを思い出してくれ。
「君の中にあるものっ、距離の中にある思いっ」
お前の中にあるのは、たくさんの辛い思い。それが、鉄仮面という壁の中に、距離の中にあることはわかっている。
「愛したんだ貴方の、指の混ざり、髪の香り」
だからこそ、お前が好きになったんだ。
競技を特訓している時に感じた、指の滑らかさや、鉄仮面から揺れる髪の香りに。
「種族を超えてゆけ、悲しみ超えてゆけ、一人を超えてゆけっ」
魔族とか人間とか、今までの抱えきれない悲しみとか、それにより、もう誰とも関わらない方がいいと思っちまった孤独とか。
——俺と、超えてみないか? フェルデン。
−−−−−−
あとがき。
……お久しぶりでーす(苦笑)
コンテストやら、仕事の変化やら、体調不良やら、愛ダンスに苦戦(笑)やらで、更新ストップしてましたが、再開します!
相変わらず、不定期ですが、またよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます