第59話 ああ、もう、本当にしんどい。帰りたい。

「それじゃあ、ミュージックスターティン!」


 昔いた芸人さん風に指パッチンしたヲタ兄。誰だっけ? ああ、あんずちゃんか。あの人、歌真似が上手かったよなー。って、え!?


「さっきより舞台が広がってね!?」


 そう、さっきより。二人が歌っていた時に、地面が盛り上がり舞台になった時より、広がっている!


「そんなのー、ボクの魔法があればちょちょいのちょいさ。もちろん、校長先生に許可は取ってあるよー」


 上がってゆく舞台から校長を見ると、ゆーっくり、ウイーンクバーチコーン。ゆっくりすぎて心の声までスローになるわ!


「いた、いたたっ……」


 そして、校長の隣でお腹を押さえる教頭。うん、心中お察しするわ!

 と、思っている間に、あの独特なイントロが流れ出し、毛ぇ剃れなかったーズの俺ら男子は、急いでヲタ双子を囲んだ。男の娘な双子天使と共に。


 そして、もう、イントロからしんどい。


 顔を隠していた両手を円を描き頭の上で、ウルトラ◯ンみたく重ねる。

 左手を下ろし、右手も下ろし、くるくる左手ウェイターポーズ。それに右手を重ね合掌し顎下にぐいぐいっ。


 左手右足外跳ねーの、右手左足外跳ねーの、顎下で両手の甲を平にし、可愛く首傾げ三回。

 両手を上げ、肩につけ、右下に下ろす。


「営みのっ、街が暮れたら色づきー」


 ヲタ双子が円形ステージ外周を歩きながら歌う。

 俺たちは両手両足を右にぴょこぴょこ、左にぴょこぴょこ。


「風たちは運ぶわ、カラスと人々の群れっ」


 ヲタ双子は歩きながら、手で波打ち、風を表現する。

 俺たちは手を後ろに体を突き出し、今度は手を前に尻を突き出しを二回し、押されたように尻を突き出したまま下がると、腕をぐるっと回し、左の人差し指を頬に添えた。


「意味なんか、ないさ暮らしがあるだけ」


 え? ヲタ兄がウインクして俺を手招きしている、うわー行きたくねー。


 仕方なく踊りながら近づくと。


「ただ腹を空かせてー、君の元へ帰るんだ」


 お腹を押さえたと思ったら、尻を突き出しながらバックしてくる俺の背中をトンッと押し返した。


 ああ、もう、本当にしんどい。帰りたい。


「キャー! いいなー! 私もヴィエルくんにトンされたーい!」


みやびずるーい!」


「私と代わってー!」


「…………」


 どうぞ! いつでもチェンジ可能です!

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