第48話 闘志を燃やす方向が違うだろーがー!

 それから、祝辞、前回優勝の赤チームから優勝旗返還、選手宣誓と生徒会長の挨拶があり、校歌斉唱、教頭からの諸注意があり、開会式は終わった。


 そして、第一種目。騎馬戦。


「うおー! 女子の生足ー!」


 堂々と、何も恥じる事なく女子に触れる騎馬の男子たちのボルテージはMAXに。


 まぁ、気持ちはわかる。俺も去年まではそうだった。


 だが、今年は違う。


みやびさん」


 俺の隣に並んだ、悪魔なのにけがれない天使で聖母様が。


「特訓の成果、見せてやりましょう!」


 小さくガッツポーズをする、それだけでボルテージMAXだ!


「おう!」


「プログラム一番、男女混合騎馬戦です。みんなこの日のために、一生懸命、練習しました。迫力ある戦いをご覧ください。それでは始めます、騎馬セット」


 実行委員のアナウンスで、他の奴らは四人、又は、五人一組となり、女子か体重の軽い男子が騎手として上になった。


「よし! フェルデン乗れ!」


 俺はフェルデンに背を向けてしゃがんだ。


「はい!」


 特訓の成果もあり、最初は申し訳なさそうにしていたが、今ではもう、すっと肩に乗ってくれる。


「よっしゃー!」


 この日のためにと言っても過言ではない、趣味の筋トレで鍛え上げた筋力で、フェルデンの足首をしっかり持って立ち上がった。


「それではスタート!」


 実行委員会のアナウンスとピストルの合図と共に、紅白軍全員が、くるりと向きを変え、俺らを見た。


 まぁ、そうなりますよねー。皆さん四人か五人一組。こちら二人一組、狙いますよねー。もう既に多勢に無勢ですよねー。


「うおぉおぉぉー!」


 そして、全力で潰しに来ますよねー、校長も全力で楽しめって言ってましたしねー。でも、大人気なさすぎですよねー。高校生で大人じゃないから問題ないと思ってますー? そういうの屁理屈っていうんですよねー。


 そういう奴らには。


「無勢だがなー! 二人一組の利点は! 動きやすく! スピードが出ることだー!」


 必殺! くるっと踵を返し全力疾走! と、思ったのに。


「ぬおっ!?」


 振り向いた先には、紅白軍の壁。後ろからは怒涛の声と足音。


「——今を全力で楽しみすぎだろーがー!」


「うおぉああぁぁー!」


「キャー!」


 たくさんの騎手の魔の手から、揉みくちゃにされるフェルデン。


「やめろぉー! 俺の聖母様に何をするー!」


 俺の叫びは届かず。


「はははぁー! 取ったりー!」


 紅軍大将の手により、フェルデンの紫色の鉢巻は取られた。


「……マジで大人気ないぜ。そうまでして勝って嬉しいかねー。俺らを狙うのはわかるけどよ、俺ならタイマンでやるわ」


「すいません……、雅さん……」


 上から申し訳なさそうに、残念そうな声がした。


「いや、あの大群から抜け出せなかった俺が悪い。でも、ま。始まったばかりだ、まだまだ巻き返せるぜ。これからの競技で、俺らを狙った事を後悔させてやろうぜ!」


 俺は少しだけ見上げて声をかけた。


「——はいっ」


 よかったよかった。少し声に元気が戻ったみたいだ。


「じゃあ、下ろすためにコースから外れるから、少し待ってな」


「はい」


 フェルデンを下ろすために、コーナーから出ようとしたら。


「うおぉあぁぁいぃらあぁ!」


 後ろからまた迫ってくる声が。


「いやいや、もう俺ら負けだから。鉢巻ねーから」


 そう言って振り向いたのに。


「うおぉおぉらぁあーぃ! みぃーやぁーびぃー!」


 迫る紅軍騎馬たち! 


「だから! 鉢巻もうねーから! そしてっ何で俺!?」


「美少女と噂の転校生と二人でイチャコラしやがってぇー!」


「とんでもねーやっかみだな!」


「雅ぃー!」


 今度は女子騎手の白軍たちが!


「お前らは何だ!」


「私たちの雅でしょー!」


「……はい?」


「その子とばっかりずっといてずるーいー!」


「…………」


 そういや、忘れがちだけど、俺はモテていたんだったな。あの騎手もあの騎手も、一つ飛ばして向こうの騎手も元カノだわ。


「腹いせに転校生の顔を見てやるー!」


「え……?」


 紅軍の言葉に、フェルデンの足が跳ね、脅えたような声がした。


「そうよー! 顔を見せなさいよー!」


「……いやいや! 闘志を燃やす方向が違うだろーがー!」


 またしても、俺の叫びは届かず。


「やっ、やめてくださいっ!」


 紅軍男子騎手と白軍女子騎手が、フェルデンの鉄仮面を掴み、無理矢理外そうとする。


「お願いですっ……、やめてっ、くださいっ……」


 上から、泣きそうな声がした。


 こんなん、耐えられるか。


「……フェルデン。ちょっと、飛ばすぜ!」


「え……?」


 俺はフェルデンの靴底を掴み。


「ぬぉらー! ソー! マッソー!」


「キャー!」


 この大群から抜け出せるよう放り投げた。


 そして、俺も大群から何とか抜け出し。


「キャーッチ!」


 スライデングするように、仰向けになりながらずざざっとフェルデンを背中から受け止めた。


「はい! これで騎手が落ちた! 俺たちの完全に負け!」


「いや!」


「騎手! 落ちた!」


「でも!」


 あーもう! しつけーなー!


「きぃーしゅー! おーちぃーたぁー!」


 下からフェルデンをぎゅっと抱き締めながら、腹から声を出した。


「……わかったよ」


「……わかったわよ」


 ようやく大群はコースの中に戻っていった。


「ぜぇ、はぁ……。ったく、イチャコラしたくてもできてねーし、モテてごめんなさいだな。そして、雅さんは誰の物でもねーわ」


「…………」


「フェルデン、大丈夫か? 怪我してね?」


「はい……。雅さんこそ、大丈夫ですか……? 私、重くないですか……?」


「軽い軽い! その鉄仮面も本当に特注品なんだなっ、重さを全く感じねーわ」


「そう、ですか……。…………」


「フェルデン?」


「雅さん、すいません……。揉みくちゃにされた鉄仮面を……、洗ってきますね……」


「あ、お、おうっ、悪いっ」


 俺が手を離すと、フェルデンはそーっと起き上がり、水飲み場に向かった。


「…………」


 フェルデンの、体と声が、震えていた。


 本当なら、そっとしておくべきなんだろうが、気になって仕方ない。だから。


「……よしっ」


 がばっと起き上がると、嫌がられるの覚悟で、フェルデンを追いかけた。

 

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