第47話 今しかない時を全力で

国旗掲揚こっきけいよう


 実行委員のアナウンスで『君が世』が流れ、ゆっくり国旗、市旗、校旗が掲揚されていった。

 ちなみに、今の日本の国旗は、日の丸は変わりないが、その周りを魔界や鬼界などを表している天体が囲むようなものになっている。


「次は校長先生からの挨拶です。校長先生、お願いします」


 出たな、ナマケモノ校長! 立って歩くが、ゆーっくりゆーっくり、台に上る! 眠くなるから早く上れ!


「皆さーん、おはようございまーすー。本日はー天候にも恵まれー、いよいよー体育祭の本番をー迎えましたー。まずはー、体育祭実行委員会のー、生徒の皆さんのー、準備から本番までのー、頑張りをー、讃えたいとー思いますー」


「…………」


 何とかのー、あれのー、それのー、何々をー、と! 伸ばすな! 呪いか!? 催眠術か!? ほらもう周り脱落者という名の、立ち寝の奴がたくさんいるぞ!


「……校長」


「んー?」


「早く生徒たちの活躍を見せてあげましょう。お話は短めにしてあげるべきだと思います」


「そうだねー」


 ナイスアシスト教頭! でも、大丈夫か!? 何か日に日に痩せこけているぞ!

 ……まぁ、それもそうか。この遙坂ようさか高校こうこうは、異種族交流を推奨しているだけあって、この学校に通えば、全種族会えるんじゃないかと思うくらい、たくさんいる。


 そんな中、人間は実は少なかったりする。のに、人間教頭。校長は自分の体の苔を食うようなのんびりナマケモノ獣人。


 生徒は、男嫌いのヤンデレ玉潰しサキュバスや、百合ヲタ幽霊、イケメンなのに玉なし双子エルフ、可愛いのに玉付き双子天使、エトセトラ。


 気苦労が絶えないだろう。その証拠に。


「いたた……、また胃が……」


 教頭はスーツの胸ポケットから粉末の胃薬を取り出し、持っていたペットボトルのミネラルウォーターで流し込んだ。


「ふぅー……」


 そして、苦しげな長いため息。


「…………」


 教頭! 毎日お疲れっす! 折角オールバックがダンディでかっこいいと、PTAやら保護者から人気なのに、天辺てっぺんから禿げてきていますね! そろそろオールバックで固めて隠すのも限界じゃないっすか?


 最近、毛生え薬を飲んでいるって、ホントっすか!? でも、気になるのはわかりますが、粉はマズいっす! 振りかけても、もろバレっす!


 と、心の中でエールを送っている間にも、校長挨拶は続く。


「今年のー、体育祭のー、テーマはー、『今しかない時を全力で』ーですー。このテーマのー、実現に向けたー、皆さんのー、一生懸命な姿をー楽しみにー、していますー。 特にー、三年生の皆さんにー、とってはー、高校生活最後のー体育祭ですー。全力でー、思い出に残るー、楽しい場とーしてほしいですー。一、二年生のー皆さんにー、『今を全力で楽しむ』ー、素晴らしさやー尊さをー、伝えられるようなー、そんな姿をー、君たちならー、見せてくれるとー、信じていますー」


「…………」


 今しかない時を全力で……。


 高校生活最後の体育祭……。


 今を、全力でやれば、フェルデンはずっとここにいたいと思ってくれっかなー……。そんなことを思いながら、隣で真剣に真っ直ぐ校長の話を聞いているフェルデンを見ていた。

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