第46話 ミラクルをお前と起こしたいんです

 そして、何やかんや。あれやそれやありまして。


 体育祭当日。グラウンドの外れで、入場するため並んでいた。


「とうとう、やってきましたね」


 俺の隣に並び、鉄仮面に黒っぽい紫色の鉢巻をしているフェルデンが小さな声で意気込んだ。


 ウチの高校の体育祭は三チームに分かれる。今まではベタに紅白と青だったりしたのだが、よくできたことで、今年は青の代わりに新色の紫、が、俺たちのチーム色。


 ま、フェルデンに似合っているからいいんだけどな。


「まずは、騎馬戦からですねっ、頑張りましょうねっ、みやびさんっ」


 こっちを向いて、小さくガッツポーズフェルデン。


「……おう、頑張る」


 最近、下の直人すぐとくんの調子が良くて困っている。


「只今より、第4803回体育祭を開始します。生徒が入場します、盛大な拍手をお願いします」


 入場曲、サンボキャプテンの『ミラクルをお前とおこしたいんです』が流れる。


 —始めるぞ、準備はいいかい? やらかすぜ、そいつが可能性。


 悲しみより踊りまくって、奇跡の日々を始めようぜ—


 ミラクルを——で、走り出した。『本部』と書かれた白いテントの前に移動する。歌を聴きながら考えていた。


 —ミラクルをお前とおこしたいんです、高まれよ、奇跡の可能性—


 ……ああ、本当に俺はお前と起こしてぇよ、と。


 フェルデンにかっこいい所を見せるのはもちろん、紫軍が優勝し。そして、たくさん楽しんで、思い出を作って魔界に帰れるようにしてやりたい。

 ……いや、帰さなぇけどな!


 —終わらないミラクルの予感がする、世界中鳴り響かすんだ、絶対—


 そう! ミラクルはここで終わっちゃいけない!

 世界中に響くような、魔界にも響くような、でかいミラクルを起こしまくって。フェルデンの顔を見て、青春して、恋をして。恋人になる!


「おうともよ! 恋人王に俺はなる!」


「うっせー! 雅!」


 頭にチョップという名の三トンハンマーを、後ろから落とされた。


「何すんだ! バケゴッ、赤町せきまち!」


「でけー声で何千年前の漫画みたいな事を言うからだろーが!」


「漫画ですかー、『筋肉は恥だが役に立つ』も見てみたいですが、その漫画も気になりますー。本当に魔界にはないものがたくさんで楽しいですっ」


「…………」


 フェルデンから、弾んだ嬉しそうな声が聞こえた。こんな事で楽しみを見つけてもらえるなら、俺は何度でも!


「恋人王に俺はな——」


「お前は助平王だろうが!」


 チョップバシコーン! ちょっと足がグラウンドに沈んだ気がするが気にしない!

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