第38話 俺! 頑張る!

「このまま、ビッグラブしてー!」


「え?」


「いや、何でもない。よし、今日はトレーニングしながら走ってみよ——」


「ブルマ……」


「ん……?」


 上空から声が。


「ブッルマァー!」


「…………」


 よし、フェルデンから距離を取ろう。今日は特訓を中止しよう。俺はすっと一歩下がった。


「リールちゅわーん!」


「はい」


「ブルマに顔を突っ込んでいいかしらーん!」


「どうぞ」


 上空からの呼びかけに真面目に答えるフェルデン。

 だが、よくないだろう! 今からお前のブルマにヤンデレが顔を突っ込——。


「キィヤー! リールたんのお尻ー!」


 上空から急降下したヤンデレは、フェルデンの尻の高さまで来ると、平行に移動した。そして、フェルデンの尻に顔を突っ込んだ。


「あー……、ちっちゃいのに柔らかくて弾力があって、いい匂い。この肉まんの中身は何かしらんっ、きっと可愛いから苺クリームねんっ」


「……」


 ツッコむ気が失せるとは、この事だ。


「べトゥラさん」


「なぁーにぃー?」


「くすぐったいので、そろそろ離してもらえないでしょうか?」


「…………」


 ここまでフェルデンは、尻に顔を突っ込まれ、ハスハスされても動じなかった。まるで、その姿は! あの『弁慶の立ち往生』!


「はぁーいっ。あ、そうだ! アタシねリールたんにこれを渡したくてっ」


 そういえばこのヤンデレ、両手に何か持っていたな。


「何ですか? このフサフサした物は?」


「ボンボンよぉー」


「ボンボン?」


「あー、あれだ。チアリーダーとかが応援する時に持つやつだ。魔界には……って、運動系の行事はなかったんだよな」


「はい。応援する道具はありましたが、こんな可愛らしい物はありませんでした。ボンボンっていうんですかー、動物みたいで可愛いですねっ」


「……」


 そう思う、お前の方が可愛いけどな!


「リールたん! 持って! 振って!」


「振る? 振るだけで応援になるのですか?」


「本当は踊ったりするんだけどねんっ、リールたんはいいのっ! 持つだけで可愛い! 振ればエロかわ! だからっ、はい!」


 ヤンデレはフェルデンにピンクのボンボンを渡した。フェルデンはそれを両手に持つと。


「えっと、こうですか?」


 上下に振った。


「ぶごばっ!」


 ヤンデレは右手で鼻と口を覆った。


「だっ、大丈夫ですか!?」


「らいろーぶーらいろーぶー」


「……」


 いや、大丈夫じゃないだろ。鼻から赤いのが出たのを俺は見逃さなかったぞ。


「リールふぁん。振りながらアタシをおうふぇんしてみてー」


「えーと、フレーフレーべトゥラさんっ」


「ぶぎぼぁ!」


 ヤンデレは失神し、後ろから倒れた。


「べッ、べトゥラさん!?」


「大丈夫だ」


 ヤンデレに近づき、顔を見た。両穴から鼻血を出し、口の両端から涎を出して、ニヤニヤ顔だ。よし! 異常なし!


「ほ、本当に大丈夫なんですか?」


 ブルマボンボン……、失礼。フェルデンが近づいてきた。


「……フェルデン、俺も応援してくれないか?」


「え、あ、はいっ、もちろんですっ。フレーフレーみやびさんっ」


「……」


 ブルマが軽く跳び、ボンボンを振る。ぴょんぴょんブルマ……、えぐし!


「うんっ! 俺! 頑張る!」


 思わず両手で顔を覆った。


「ヤンデレが俺の玉を潰しに来て、イケメンヲタがお前で玉ないのにシコろうとし、やっと来た可愛い天使に玉があって絶望しても! 俺! 頑張る!」


「み、雅さん?」


「変態女になんか負けない! 俺! 頑張る! 絶対にお前の顔を見る!」


「……鉄仮面は外しませんよ?」


「そんなー!」

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