第39話 雅、行きまーす!

「よーし、今日は騎馬戦の組み合わせを決めるぞー」


 数日後のホームルーム、ササッちが黒板に『騎馬戦チーム』と書いていった。


「騎馬戦か……」


 小中ではやったが、高校でやるのって珍しいよな。ウチだけじゃないか?


「騎馬戦って何でしたっけ? みやびさん」


 体育祭はありがたいことに、フェルデンが知らない事だらけらしい。だから、最近よく「教えて雅さん」のコーナーがやってくる。


 そして、振り向いたフェルデンに今日も雅さんは教える。


「騎馬戦は大体四人一組になり、一人を騎手三人が騎馬役なんだ。五人一組の時もあるけどな」


「そうでした」


 フェルデンは小さく頷いた。


「で、騎手役が騎馬から落ちたら負け。又は帽子や鉢巻とかすんなら、それを取られても負け」


「何かこう、危なそうな競技ですよね」


「まぁ、そうなんだが」


「ササッち! 騎手役は今年も女子でもいいよな!」


「そうだな、今年も男子女子どっちでもいいぞー」


「うおー! 女子に触れるー!」


 ま、男子はこうなるわけだ。


「ササッちー。ウチら雅だけは嫌でーす」


「さんせーい」


「……」


 ま、女子はこうなるわけだ。あれー? でも一、二年の時は俺の取り合いあったけどなー?


「ササッち先生っ」


 フェルデンがきれいに真っ直ぐ、しゅばっと右手を上げた。しかし、ササッち先生……、言い方が可愛いな。


「どうしたーフェルデン」


「私が雅さんの騎手やりますっ、それではダメでしょうか?」


 マジか。


「んー、まぁウチの高校は人数の決まりはないし、フェルデンは軽そうだから、雅一人でもいけるか。よし、いいぞー」


 マジか。


「じゃあ、雅とフェルデン以外はくじ引きな。決まったら各自練習しておけよー」


「雅さんっ、今日の特訓は騎馬戦にしましょう!」


「…………」


 マジか。






「……マジだわ」


 放課後、俺とフェルデンは体育館裏に来ていた。もちろんフェルデンは今日も何故かブルマだ。


「では、どうしましょうか」


 ブルマさんは準備運動をして、やる気満々だ。


「二人だからな、俺が肩車すればいいだろ」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫ー。俺筋玉、違った、汗臭筋肉豆だから」


「そういえば、そのお豆さん呼び」


 お豆さん……。何でフェルデンが言うとエロ可愛く聞こえるんだろうか。


「どうして、そういう風になったんでしょうか?」


「俺が聞きたい。まぁ、とりあえず乗ってくれ」


 俺は背を向けてしゃがんだ。


「では少し、失礼しますね」


 フェルデンの手が両肩に添えられ、右足が右肩に、左足が左肩に。

 ……いやいや、耐えろ耐えろ。


「落ちないように、頭の毛を引っ張る勢いで掴んでいいからな」


「え、そんなことはできませんよ。でも、少し怖いのでちょっとだけ失礼しますね」


 フェルデンは俺の頭を抱えるように押さえた。おお……、おお……! フェルデンパイが俺のヘッドにオンしてる!


 それに何だこの足! 白! 細っ! いい匂い! いかん、いかんぞ。下の直人すぐとくんが起っきする前に俺が立ち上がらねば!


「ふんぬ!」


「キャッ」


 フェルデンの両足首を掴み立ち上がった。


「雅、行きまーす!」


 そして、走り出した。体育館裏を上下に走り回る。


「ふふっ、雅さんっ」


「どうした!?」


「すごいです! 風を切っています! 気持ちいいです!」


「そうか!」


「騎馬戦っ、負ける気がしません!」


「——そうだな!」


 このまま空を飛んで逃げてぇー!


 そう思うくらい、上で楽しそうにはしゃぐフェルデンが可愛くて、幸せだった。

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