第24話 くそったれです!

「それで、その亀裂は酷くなると渦になるんです」


 みやびぐみ、豆くんへのお勉強は続く。


「渦?」


「豆先輩も見た事がありませんか? 空に現れた渦を」


「あー、あれ渦だったの。白いから変な形の雲だなーと思ってた」


「それが亀裂の渦、きょうです。異界同士が繋がってしまった、ワープゾーンとでも言えば、わかるでしょうか?」


 サージュは楽しそうにくいっと眼鏡を上げた。


「ワープゾーン、ね。お子ちゃ豆にもわかりやすくしてくれてどーも」


「それで、そのワープゾーンに、幼い頃の僕たちは、飛び込んだんです」


「……え? アホなの?」


「小さい時からボクたち好奇心旺盛だったからねー」


「…………」


 ヴィエルは顔ぐりしながら言った。


「境渦は、異界同士の道が繋がってしまったもの。どこに行くのかはわかりません。僕たちが飛び込んだ先は魔界でした」


 懐かしい思い出に浸るように、サージュは目を閉じた。


「幼いエルフ、それも双子。僕たちは悪魔にとって良い獲物でした。魔物に囲まれ、困っていた僕たちの前に、リール姉さんは颯爽と来てくれました」


 サージュは目を開けると、愛おしそうにフェルデンを見つめた。


「そして、一瞬で悪魔たちを追い払うと、泣き出しそうな僕たちの頭を優しく撫でてくれたんです」


「一瞬で追い払うって……。フェルデン、お前すげー強いのな」


「いえ、鉄仮面を外そうとしただけなんですが」


 フェルデンはヴィエルの頭を撫でながら振り向いた。


「え、ちょい待って。幼いお前らが会った時には、もう鉄仮面を被っていた、ってことは。フェルデンってめっちゃ年上なん!?」


「そうだよー。だから、ボクたちが好きなのはリールお姉ちゃんって、パパに話したら「ババ専だねー」って言うから」


 ヴィエルはフェルデンの胸から顔を離した。


「フルポーカーで見つめて、チビらせっちゃった」


 「てへっ」と、ヴィエルは舌を出した。


「……お前って、本当にフェルデン以外は容赦ねーな」


「だって! 僕たちよりめっさ年上なのに! 小さくて可愛くて柔らかくていい匂いでエロい! 存在している事が奇跡なんだよ! リールお姉ちゃんは!」


「あーはいはい」


「というわけで、リールお姉ちゃんについて色々と語れて、いい気分だから。豆先輩も招待してあげるよ、天使付きで、ボクたちのカフェに」


「そりゃどうも。って、こいつら付き!?」


 双子天使を見るとにっこり笑い、玉揉み揉み。


「ダブルデートと、いこうじゃないか」









 こうして、また来ましたハルバ。

 フェルデンはイケメン双子に挟まれ、俺は玉付き天使に挟まれ、歩いている。


「あの鉄仮面の子いいなー。イケメンに挟まれてー」


「あの筋肉男羨ましいー! 可愛い天使とデートなんて!」


「……」


 いやいや! 周りの皆さん、注目すべき所が逆ですよー。女はこっち、男はあっちですよー。玉があるかないか、よーく見てくださいねー。

 そんなあべこべな視線を感じながら、歩いていると。


「さ、着いたよ。ボクたちのカフェ」


 カフェに着いた。え、ここ『スタジオ・ツインズ』の隣じゃん!


「……」


 そして、カフェを見上げた。

 黒の煉瓦調の外観に鉄格子窓。……ここカフェなん? 牢獄じゃなくて?

 突き出しアイアン看板は、黒枠の中に鉄仮面の飾り。それに白字で『Cafeカフェ Reelリール』と書かれてある。

 ……愛で溢れたカフェですこと。


「これは……、さすがに恥ずかしいのですが……」


 看板を見たフェルデンが呟いた。


「大丈夫大丈夫ー。リールお姉ちゃんのことを知らなければ、可愛い名前だな、で済むからー」


「……」


 ここにいる全員、知っているがな!


「じゃあ、入ろうかー」


 鉄格子ドアを横に引いたヴィエルたちに続き、中に入った。






「いらっしゃいませー!」


「…………」


 両脇にずらりと並ぶ、黒い七分丈シャツにパンツのイケメンたちがかしずいた。


 ……どうやらここはホストのようだ。


「あ、お子ちゃ豆先輩に初めに言っておくけどー。スタッフ全員、んなの子だから」


「…………」


 こんなホストのようなカフェは、くそったれです!

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