第23話 とても可愛く過ごせていました

「だから私は、もう魔界から出てはいけない。……ううん、家から一歩も出てはいけないと、諦めていました」


「……」


「折角、日本が異界の道を開いたのに。私は誰とも関わってはいけない。今日が最後だと泣いていたら、べトゥラさんに出会ったんです」


「あー、あの女好き変態サキュバス」


 天界でも有名人だなヤンデレは!


「そして、この鉄仮面という素晴らしいアイデアをくれて、こうして逢坂ようさか高校こうこうに通う事ができました」


 フェルデンの声に、嬉しさが灯った。


「たくさんの種族、優しい先生方、楽しいクラスメイト。ヴィエルさんたちのような可愛い後輩。こんなたくさんのいい人たちに出会えました。私、今が生きていて一番幸せですっ」


「……」


 こんなに幸せそうな弾む声、初めて聞いたな。


「だから、たくさん優しくしていただいた分、お返しを。……ううん、いただいた分より何倍も優しさやありがとうを返すって決めたんですっ」


 フェルデンは小さくガッツポーズをした。


「……」


 フェルデン通知表。


 行動の記録。よい・がんばろう。


 可愛い仕草をする。よい。

 友達を思いやり、可愛く生活する。よい。

 可愛く、最後まで取り組む。よい。

 

「……だーかーらー! それが天使頭だって言ってんの! そんなことを言われたら、何も言い返せないし、リュゼたちが悪者みたいじゃない……」


 俺の玉を握ったままリュゼは落ち込んだ。


「リュゼさんたちは立派な天使ですっ。可愛いですし、そうやって反省する心をお持ちです」


「……可愛いのは当たり前だけどー」


「それに、人を見る目もちゃんとありますっ。みやびさんは大きなアソコは怖いですが、私を助けてくれる優しい方です」


 大きなコレはやっぱり怖いのね。


「でしょでしょー」


「はいっ。ですから、リュゼさんたちは可愛い所を含めて、素敵な男性ですっ」


「…………」「…………」


 おおっ、後光が! 聖母様に後光がぁー!


「そして、ヴィエルさんたちは、かっこよい所も含めて、素敵な女性ですっ」


「……」「……」


 後光がさらに強くぅー! 目が! 目がぁー!


「そしてっ、雅さんは、大きなアソコは含められませんが、大切なお友達ですっ」


 後光が弱まったな。でかいコレのせいかな。そして、やっぱりでかいコレは含まれないのね。


「たくさんの人に出会え、知らなかった事を、ワクワクする事を経験できて、この学校生活、とても楽しいですっ。だからっ、今を全力で楽しみたいんですっ」


「…………」


 フェルデンは大きくガッツポーズをした。


 フェルデン通知表、第一学期、所見しょけん


 とても可愛く過ごせていました。


「……あーもう! わかったわよ! そのピュアすぎる頭に勝てる気がしないわ! 先輩方すいませんでしたぁー」


 リュゼは顔をヴィエルに向けたまま、腰を曲げた。


「ボクも大人気なくて悪かったよ。すいませんでしたぁー」


 リュゼのマネをしたヴィエル。

 いやお前ら! その姿勢は謝る気がねーだろ! 顎がしゃくれてんぞ!


「よかったです」


 そして、そんな事は気づかずに嬉しそうな声のフェルデン。無知って幸せだなー……。


 俺は無知じゃないが、またしても気になる事があるなー。


「ヴィエル、そして、サージュよ」


「なーに?」「何でしょう」


「この間の撮影といい、さっきのセリフといい。お前らは、フェルデンの顔を見た事がないんだよな?」


「そうだよー」「そうです」


「なのに、どうしてそこまでフェルデンに惚れられる?」


「残念な頭だねー」「残念な頭ですね」


「……」


 ハモって言われるとダメージでかいな。


「いい機会だし、教えてあげるよ。リールお姉ちゃんの魅力を。サージュがね」


「……」


 お前じゃないんかーい!


「任せてくれ」


 サージュは右手でくいっと眼鏡を上げた。


「今の総理大臣が日本に異界への道を開いたのは、さすがに豆先輩でも、ご存知ですよね?」


「そりゃーさすがに豆でも知ってるわ」


「異界。リール姉さんがいた魔界、この二人がいた天界、僕たちがいた妖精界。色々な道が開かれました。が、その分、亀裂が生じてしまうんです」


「……亀裂?」


「それぞれで違うエネルギーや、時空があり、それがぶつかると、その界境かいきょうで亀裂が生じるんです」


「……」


 よくわからんが、こいつはやはりヲタだなということはよくわかった。いつもの落ち着いている声が生き生きとしている。


「サージュー、豆先輩がわかっていないみたいだからー、お子ちゃ豆にもわかるように言ってあげなよー」


「……」


 ヴィエルはまたフェルデンに抱きつき、胸に顔ぐりしていた。

 ってか、お子ちゃ豆って何だ! 新種の茶豆か!?


「では。お前こっち来んなー、お前こそこっち来んなー。わー! と異界同士がぶつかり、痛いよー、擦りむいちゃったよー。それが亀裂です」


「……」


 幼稚園児に紙芝居を聞かせるような話し方で、サージュは拳をぶつけ合った。


「わかったかなー? みやびぐみの豆くーん」


 そして、わざとらしい笑顔を貼り付けた。


「はーい、せんせー。って逆だろ! 豆組の雅だろ! いやっ、それもそもそも違ぇし! そしてよくわからんし!」


「なるほど。とてもわかりやすかったです。ありがとうございました、サージュさん」


「…………」


 えぇー……、フェルデンわかっちゃったのー? それも顔ぐりされているのにー? えぇー……。


「さすがリール姉さんだ。理解があり、それも速い、可愛い。たまらない」


「……」


 えぇー……、何でお前が頬を染めるのー? どんだけホの字なのー?


「では、これからが本題です。僕たちと姉さんの出会いを」


「えぇー……」


 まだ余談だったのー? えぇー……。

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