第18話 いいっ……

 放課後。


 ヤンデレ付きフェルデンを迎えに来た双子エルフ、を尾行している俺。


 フェルデンを双子が挟んで手を繋ぎ、後ろからヤンデレが覆い被さって歩いている。


「お姉ちゃんのコス、楽しみだなー」


「この日のために、張り切って作っていたもんね、兄さん」


 改めて説明しよう。鉄仮面の左にいる、見た目もイケメンで、兄さんと呼ばれているヤツは、女である。


「サージュだって、おもてなしのお菓子とか、いっぱい用意していたじゃんっ」


「まぁね」


 重ねて説明しよう。鉄仮面の右にいて、照れ臭そうにした瓜二つなイケメン、ヤツも女である。


 んなの子である。


「アタシなんか、毎日が楽しみよんっ。リールたんがいるだけで」


 説明……、しなくてもいいな。鉄仮面に後ろからひっついているヤツは、変態ヤンデレ玉潰しである。


「……私は、すごく緊張しています」


 一番、説明したい。ヤツらの中心にいる鉄仮面が、美少女らしい転校生である。

 ヤツらの中で一番、まともである。


「大丈夫大丈夫ー。お姉ちゃんにぴったりのキャラ、というか。まんまお姉ちゃんなキャラだからー。あ、ほら、もう着いたよー」


「いつ見ても、でっかいスタジオねー」


「そーかなー? これぐらいどこにでもあるよね? ね、サージュ」


「そうだね」


「……」


 いや、ここしかないと思うぞ。


 昔でいう秋葉原で、現在は春場原のハルバにある、でかいこのスタジオ。市役所みたいな外観のビル、コスプレイヤー専用スタジオ、『スタジオ・ツインズ』五階建てだ。


 一階、主に更衣室、貸衣装部屋、小道具部屋など。セッティング階。

 二階、白ホリ、黒ホリなど。シンプル階。

 三階、和室、遊郭部屋など。レトロ・モダン階。

 四階、ゴシック、廃墟など。ファンタジー階。

 五階、教室、体育館など。学校階。


 ……よくできているわ。


「ささっ、お姉ちゃんはボクたちと更衣室ー。ラビオスお姉様は待機室で待っていてねー」


「アタシもリールたんにお着替えさせたーい」


「後でリールお姉ちゃんが着ていたコス衣装をあげるからー」


「待ってるわ」


 やはり迷いなし!


 そして、俺は入ってすぐ右側の、受付カウンターの中に身を潜める!





 数十分後。

 少し奥にある、左の更衣室から出てきた三人。


「これは……、私がやって大丈夫なのでしょうか……」


 フェルデンが申し訳なさそうに言った。

 というのも、天使コスをしているからである。


「よきよきー。やっぱりボクの見る目に間違いはなかったねー。ピュールそっくりだよー」


 ピュールとは、18禁乙女ゲー『DoubleダブルEdenエデン〜双黒の闇〜』の主人公である。

 純粋、無垢でけがれを知らない。真っ白なザ・天使である。

 そのコスのフェルデンは、白で袖レースのミニ丈キャミソールネグリジェと、小さな白い翼を付けている。もちろん素足だ。


「いやーっ、ボクのセンス、採寸、最高だと思わない?」


「最高だよ、兄さん」


 その素足フェルデンを挟む、黒のウィッグと大きな黒い翼を付けた双子。

 そう、この二人は衣装や小道具を手作りするレイヤーなのである。


「でも、悪魔の私が天使をするのは……」


「大丈夫だってー、オレに任せれば、そんな事すぐに考えられなくなるからー」


「いや、そいつは危険だ。俺の所に来い」


 もう双子は、スイッチが入ったようである。


 そう、この双子がコスしているのが、メインの攻略キャラ、幼馴染で堕天使の双子である。


 二人共、天使だったのだが、人間に恋をしてしまった。そして、好きすぎるあまり、好きな人間の想い人をあやめた。それにより堕天使になった。事により、病む。


 そんな事はつゆらず、主人公は幼馴染二人を励ます。病み覚醒す。なら、体で慰めろとか訳わからんことかす。快楽堕ちす。という、とんでもないストーリーだ。


 何故、俺がここまで詳しいかというと。乙女ゲーには珍しく、百合エンドがあるらしい。それ目当てでプレイした霊島れいじまが顔を真っ赤にしてぴょんぴょん跳ね。


『ああいう百合もいいよねー! 病んでいてさらにダブル快楽堕ち!』


 と、語ってきたからである。


 そうなのだ、百合エンドもあり、攻略キャラもれなく全員病んでいる、とんでもない乙女ゲーだ。


 霊島氏は百合エンドだけ見たかったらしいが、主人公があまりにもタイプだったため、フルコンプしたらしい。だから、堕天使双子についても何故か熱く語ってきた。


 メインキャラ二人、左目に黒の眼帯、白ワイシャツに緩めた黒のネクタイ。黒のサスペンダーパンツなヴィエルがやっているのが、


「えーっ、恥ずかしさも忘れるぐらい気持ちよくさせてあげるんだからー、オレの方が優しいでしょー」


 堕天使双子、弟、リスティ。あざと可愛い、懐に入るのが上手い。好きな子の泣いている顔に欲情す。ドS狂愛病み。


 もう一人のキャラ、右目に黒の眼帯、白のワイシャツに黒のネクタイとジャケット。黒のパンツをきちっと着ている、サージュがやっているのが、


「……それが危険だと言っている。ゆっくり慣らしてやるべきだ」


 堕天使双子、兄、アレグ。堅物真面目。慎重派。慎重すぎて、いつも弟に先を越される。先を越されすぎて暴走す。むっつりスケベ病み。


「……えっと、お二人共、役になりきっているんですよね?」


 に、堕とされる主人公ピュールのフェルデン。

 霊島氏からスチルを見せてもらった事があるが、小柄、色白、黒い髪。フェルデンに似ているなと思った。しかも、名前までピュールときた。リールとピュール、一文字、いや二文字違い。

 ……もし顔もそっくりなら、確かに女子でも発狂する程の美少女だ。……よし、今度ヤンデレ玉潰しに見せて、確認してみよう。


 そして、この主人公、何がすごいって。快楽堕ちされても、双子を恨まず信じ、私で心が落ち着くならと、真っ白な心と体を差し出す所だ。


 これにより、双子崩壊す。泣きながらの3Pがあるとかないとか。


 ……絵がきれいなのと、キャラがみんなイケメンなのを抜かせば、エロゲーでもいけると思った。


 何より、一番のツッコミどころがタイトルだ。

 『DoubleEden』、エデンって、楽園って意味だよな? ……失楽園の間違いじゃね? と思った。


 そして、さらにすごいのが。霊島氏の情報によると、来月、『DoubleEden 2』が出るらしい。……だから、このコスをチョイスしたのか。


「あー、ごめんごめんっ。リールお姉ちゃんびっくりしたよねっ? 衣装を着るとボクたちすぐにスイッチ入っちゃうんだー」


「すみません、リール姉さん」


「……」


 お前ら素でも大して変わらんがな!


「でもでもー、そのコスー可愛いの暴力だよっ。ねー、ラビオスお姉様ー」


 振り返る三人。視線の先、廊下で腕組み仁王立ちでスタンバッていたヤンデレ。


「いいっ……」


 語彙力! そして、鼻血!


「じゃあ上に行こうーっ。あ、お姉ちゃん素足だから冷たいよねー。運んであげよっかー、もちろんっ、お姫様抱っこでー」


「それはダメだ兄さん。姉さんの下着が見えてしまう」


「そっかー。じゃあちょっと我慢してねー、リールお姉ちゃんっ」


「はいっ、頑張りますっ」


「……」


 何も知らない女子のために、何度でも説明しよう。

 ここにいる、俺以外、全員、女である! それもド変態の!


「そうよ、リールたんのパンツを見ていいのは、アタシだけよ」


「あー、ごめーん、お姉様ー。さっき着替えさせている時に見ちゃったー、リールお姉ちゃんのパンツー」


「けしからん!」


 後ろに同じく。


「そして、姉さんには、今のネグリジェに似合うパンツに着替えてもらったんだ」


「グッジョブ!」


 後ろに同じく。


「ちなみにー、リールお姉ちゃんは今ノーブラだよー」


「そこんとこ詳しく話しなさい」


 後ろに同じく!

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