第17話 助けて下さい!

「TSって、豆先輩はラビオスお姉様の言っていた通り、本当に頭も豆なんですねー」


「……」


 やはり、二学年も浸透済みだった。俺=豆。まぁ、いいさ。豆は美味いんだ。空豆にグリンピース。えんどう豆スナックに甘納豆。小豆なんてスイーツから何から大活躍だ!


「TSはー、性転換。ボクたちは産まれてからずーっと女。わかります? わからないかー、豆脳じゃ」


 フェルデンに抱きついたままクスクスと笑うヴィエル。そうだった、この双子もヲタだった。これらの用語はきっと俺より詳しい。

 だが、俺には最強の同士がいる!


霊島れいじま。こいつらみたいなの何て言うんだ? ボクっ娘とはまた違うよな?」


 後ろの席の霊島を見た。何だかわなわなと震えている。


「……その子たちみたいなのは、んなの子。おすのお、ね。外見がどう見ても男な女の子、男のの逆版……」


「さっすが霊島っ。詳しいなー」


「でも、違うんだ……」


「何が?」


「僕が見たいのはそうじゃないんだー!」


 椅子をガタン! と倒し、霊島は立ち上がった。


「僕が見たいのは! 雄の方じゃなくて! 女の子女の子している可愛い子たちが! イチャイチャしている所が見たいんだー!」


「……」


 そうだ、霊島は百合ヲタだった。


「黙れキショ童貞。お前にとやかく言う資格はない」


「……ん?」


 ヤンデレみたいなセリフが聞こえ、玉潰しを見た。フェルデンの両手をハスハスしている、幸せそうだ。ということは、こいつから発せられたものではない。と、するとー。


「何でお前みたいなキショ童貞に、ボクたちの見た目を否定されなきゃいけないんだ。どんな見た目でどんな相手を好きになろうが、自由だろうが」


「……」


 やっぱりこいつだったー! 双子兄、いや、姉ヴィエル! おぉっ!? おおぉお! 何か寒気が! こいつある意味、ヤンデレより最凶だぞ!


 ヤンデレは態度、声、全てに出る。

 が! こいつは何も出ない! 何も変わらない! 黒さも何もない普通の笑顔で! 普通の声色で! 毒、いや、猛毒を吐く!


 ……いかん、いかんぞ。ヤンデレがまともに見えてきた。しっかりしろ! 豆脳!


「違うよ、兄さん」


 兄、いや、姉を制するおと、妹。そうか! クールそうだもんな! お前は常識人。


「霊島先輩は生前からキショ童貞で、幽霊になってさらにキショさに拍車が掛かってしまった、残念なキショ童貞先輩なんだよ。だから、その言い方は失礼だよ」


 ……ではなかった! やっぱり双子! 両方、いや、お前の方が失礼だろ!


「そっかー、さっすがボクの弟ー、わかってるー」


「……」


 何もわかっていない! 何も! 特に霊島の心は!


「そうだ! 霊島!」


 後ろを向くと、霊島は涙を流しながら膝から崩れ落ちた。


「霊島ー!」


 俺は霊島に駆け寄り、抱き起した。


「助けて下さい!」


 口が勝手に動いた。


「助けて下さい! 助けて下さい!」


「そんなキショ童貞、助ける必要はない」


 クラスの中心で、


「誰か! 可愛い子同士の百合をください!」


 百合を叫んだ。


 そんな中。


「ヴィエルさん」


 フェルデンがヴィエルを見下ろした。


「なーに、リールお姉ちゃんっ」


「確かに霊島さんの発言は、差別しているように聞こえました。異種族、同性、愛の形は色々あっていいし、色々あるから美しいんだと思います」


「うんうんっ、だよねだよねー」


「ですが、霊島さんはヴィエルさんから見れば先輩ですし、私から見ればキショくもありません。なので、謝ってください」


「はーい、キ……、霊島先輩、ごめーんねっ」


 ヴィエルはぺろっと舌を出した。

 それを見た霊島は、一瞬、悔しそうな顔になったが、すぐに安らかな笑顔を見せた。


 霊島れいじま白太はくた。享年の享年、不明。

 永久とわに安らかに。南無。


「というか兄さん。本題を忘れているだろう」


「そーだったー。リールお姉ちゃんに会えた興奮ですっかり忘れていたよっ。実はねっ、お姉ちゃんにお願いがあって来たんだ」


 ヴィエルはキラキラした目でフェルデンを見上げた。


「何でしょう。私に出来る事なら何でもしますよ」


「わーいっ、お姉ちゃんならそう言ってくれると思ったっ。今日ね、ボクたち『COSコスLOVEラブ』の表紙を撮影するんだけどね」


 『COSコスLOVEラブ』とは、コスプレ雑誌のことである。

 そう、この双子は有名なレイヤーなのだ。


「プロデューサーさんにね、可愛い子を連れて来てねって言われていてー。なら、お姉ちゃんしかいない! と思ったんだー」


「でも、私、顔を出すのは……」


「大丈夫大丈夫ー。お姉ちゃんもコスしてー、ボクたちに挟まれるから。顔は見えないよっ」


「……お二人も、私の顔は見ないと約束してくれるなら」


「もーちろんっ」「もちろんです」


 息ぴったり一卵性たち。


「それなら……、わかりました」


「やったー! じゃあっ、放課後っ迎えに来るねっ」


「楽しみです、姉さん」


 二人共、嬉しそうだ。


「リールたんのコス……」


 フェルデンの左手の指を舐めていたヤンデレは、しっかり聞いていたようだ。


「あ、ラビオスお姉様も来るー? ボクたちが招待したって言えば、OKしてくれると思うよー。ね、サージュ」


「そうだね」


「行くわ」


 迷いなし!


「じゃあ、ラビオスお姉様も、放課後ここにいてねー。バイバーイ」


「また、後ほど」


 兄、じゃなかった。姉は嬉しそうに手を振り、おと……、ややこしいな! 妹は微笑んでお辞儀をして、去っていった。


「……」


 伝説の剣士『スグトラル』、亡くなった友のために、尾行第二弾を開始する!

 霊島は元から亡くなっているけどな!

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