第3章 フェルデンさん、百合ハーレムを築く

第16話 ……TS?

「では、黄田島きたじまさん。スノードロップのお世話、お願いしてもよいでしょうか?」


 俺の厨二病、花言葉を切る伝説の剣士『スグトラル』は、無事に魔王『オマエーノシヲノゾームン』を倒せたようだ。フェルデンが元の雰囲気に戻ったような気がする。


「うん、任せてー。僕は園芸サークル長だから」


「ダーリンは木々や草花が好きだもんなー。だーから、癒やしパワーがすげーのかもなー」


「えへへー」


「……」


 説明しよう! 伝説の剣士『スグトラル』は、花言葉しか斬れない! 大怪人ムキゴリカップルーザーは倒せないのだ!


 世界の平和は守られなかった……。愛するみんな! すまない!


 だが、鉄仮面の平和は守った! だからっ、許してくれ! みんな!


 あっ、豆星へ帰る時間だ。

 みんな! 困った時はいつでも、どんな種類でもいいからっ、豆を食べながら呼んでくれ!


 スグトラルー! 助けてー!


 ってな!


 ……無駄にデカいムキゴリカップルーザーのせいで、本格的に頭がイカれそうだ。






 翌日の昼休み。


「……」


『いいえ、事実です。私は……、死ぬべきなんです』


 フェルデンの言葉が脳内で無限ループしていた。

 多分、いや、絶対に、あの言葉は鉄仮面を被った理由に繋がる糸口だ。そして、触れてはいけない部分だ。


 だが、しかし! 気にしていては顔は見れぬ! だからっ、俺は敢えて死地に赴く!


「なぁ、フェルデン。何でお前が死なないと」


 ガラガラッと、勢いよく教室の戸が開かれた。

 デジャーヴ! 俺は覚えているぞ! また来たな! ヤンデレ玉潰し!


「……あれ?」


 教室の入り口を見ると、色黒ヤンデレ玉潰しはいなかった。いたのは。


「キャー! ヴィエルくーん! こっち向いてー!」


「お姉ちゃんたちー、今日もきれいだねー」


 制服を着た二年のイケメンエルフだった。


「キャー!」


「キャー!」


「キャー!」


 イケメンエルフに群がった女子たちが、次々に「キャー!」と後ろへ失神していく。これが、人間ドミノか。


 人間ドミノを起こしたこいつは、双子イケメンエルフ兄、ヴィエル・グロース。


 高身長、長く尖った耳、少し黄身色の肌、凛とした青い瞳。淡い栗色の髪は肩より少し長く、後ろで縛っている。


 そんな美男子が、教室をキョロキョロと見渡し、フェルデンを見つけるとぱあっと顔を輝かせた。どっかのヤンデレを見ているようだ。


「リールお姉ちゃーん!」


 フェルデンの所へ嬉しそうに向かってくる。

 そうか、そうだよな! ヤンデレが発狂する程の美少女! らしい! から、そりゃ男子はもっと発狂もんだよなっ。


 いや、同性愛は否定派じゃないが、ヤンデレ玉潰しを見ていると、何が正常かわからなくなるだけ。


「もーっ、転校して来るなら教えてねって言ったじゃーん。ボク、すっごく寂しかったんだからー」


 椅子に座っているフェルデンに抱きつき、涙目で見上げるヴィエル。ないはずの尻尾が見える、それくらい何故か尻を振っている。男なのにヤケにプリプリしている! けしからん尻だ!


「すみません、バダバタしていたもので」


「ううんー、いいのー、こうして会えたからー。はい、再会のぎゅー」


「ぎゅー」


「……」


 淡々と相手をし、抱きしめ返すフェルデン。やはり、仙人の域だ。


「兄さん」


 ツカツカとフェルデンに向かって来る、またしてもイケメンエルフ。


「キャー! 今度はサージュくんよー!」


「サージュくーん!」


「こんにちは、お姉さん方」


 倒れていた人間ドミノが、「キャー!」「キャー!」と逆再生みたく順に起き上っていく。これが、逆人間ドミノか。


「リール姉さんに会いに行くなら、僕にも声をかけてくれ」


「えーっ、だってー、一人で来なきゃお姉ちゃんを独り占めできないじゃーん」


「そうだけど」


 やれやれという感じのもう一人のイケメンは、双子イケメンエルフ弟、サージュ・グロース。


 一卵性双生児のため、顔の区別はつかない。だが、弟の方が短髪、黒のスクエア眼鏡で、落ち着いた喋り方だ。


 そうだ、こいつらは俺のライバルだった。入学当初からモテていた俺。二年になり少しではあるが、俺に寄ってきた女子が離れていった。不思議に思い、後をつけた先にいたのがこの双子だ。


 成績は常に学年一位二位を独走。運動神経抜群。そして、学業の傍ら、双子モデルとして活躍中。さらに、兄はアイドル、弟は俳優もしている。


 ……確かにイケメンだとは思うが、こいつらの何がいいんだ。筋肉だってないし、玉だってないんじゃないかと思うくらい、小さそうだぞ。


 まぁ、でも。何故か安心するこの光景。ライバルではあるが、仕方ない、暖かく見守ってやろうではないか。


 と思ったら、またガラガラッと勢いよく教室の戸が開かれた。今度はどんなイケメンだー? と入り口の方を見た。


「リールちゅわんっ。ランチしーましょっ」


「……出た」


 悪の総本山。ヤンデレ玉潰し。……玉、潰し。はっ! いかん! これはヤバいぞ!

 フェルデン狂で、大の男嫌いなヤンデレ! その男が! フェルデンにくっついている!


 小さいけど、俺より形はきれいであろう玉が! 潰される!


「お前ら! 逃げろ!」


「は?」「え?」


 同時に俺を見る双子。さすが双子、シンクロしていますね! って感心している場合じゃねー!

 あー! 時既に遅し! こちらを見ていた玉潰しの顔が、笑顔から一気に般若に! そして、すごい勢いで飛んできたー!


「なーんだ、アンタたちか。紛らわしいからその格好はやめれって、前から言っているでしょーっ」


 ……ん? 般若の顔が、すっと一緒でヤンデレに戻った。


「ラビオスお姉様ー、お久ー」


「ご無沙汰しております」


 フェルデンから離れず手を振る兄と、丁寧にお辞儀をする弟。……んんー?


「ピンポンパンポーン。三年愛組、べトゥラ・ラビオスくん、べトゥラ・ラビオスくん。後ろの豆まで来て下さい。ピンポンパンポーン」


 俺をギロリと睨み、後ろの席まで来たヤンデレ。睨まれてもいいっ、気になりすぎる事がある!


「何だ豆、玉を潰していい時以外、アタシを呼ぶな。秒で済ませろ」


「サーセン。でも! おかしいだろうがよ!」


「何が」


「お前の! 大嫌いな男が! お前の! 大好きなフェルデンに! くっついてんだぞ!? 玉を潰さなくていいのかよ!?」


「……テメェはやっぱり、脳みそも豆なんだな。玉なんか付いてないわよ、この子たち」


「……はい?」


「だーかーら! この子たちは女だっつってんの!」


「……TS?」

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