第15話 お前の顔を望みます

「だ、だけどよ。ただの花言葉だろ!? 真に受けんなってっ」


「いいえ、事実です。私は……、死ぬべきなんです」


「……何でよ」


「それは……、言えません」


「……」


 重たく暗い空気が漂った。こんな時に、慰められる言葉を、俺は持っていない。ならば、バカになろう!


 そうだ! バカでいこう!


「よーし! わかった! たった今! 俺は花言葉を変える能力を得た! うおぉー!」


 胸を張り雄叫びを上げた。


「え……?」


「スノードロップのもう一つの花言葉! あなたの死を望みますは! たった今! 消滅したぁ! ボシュン!」


 エアーソードを持って、横に振った。


「そしてぇ! 今! この瞬間から! スノードロップの花言葉はぁ! お前の顔を望みます! になったぁ! シャキーン!」


 そして、エアーソードを高々と上げた。

 周りからの視線が痛い。あいつは痛い奴だ、いや、厨二病なんじゃね? 的な。

 はずい、顔が熱い。でも、動揺してはならぬ! 

 

「ふふっ、何ですか、それ」


 柔らかなフェルデンの声が、そして、鉄仮面の中にあるであろう笑顔が、俺の心を救ったー!


「というわけで! お前の顔を望みます!」


「それは……、困ります」


「リールちゃんを、困らせる人はー……」


「ん?」


 遙か上から声。


「成敗!」


「うおぉ!?」


 後ろから巨大な両刃ののこぎりを振り下ろされ、振り向いて飛び退くと同時に地面に刺さった。

 あっぶね! 真っ二つにされるとこだった! 


「あんたですか、黄田島きたじまさん。まだあんた、守り隊じゃないだろーが!」


「いんや、隊員第一号だぜ?」


 ムキパーさんの後ろからムキゴリがやって来た。


「さっき隊長に電話してな。そうしたら、『野郎が隊に入んのは、気に食わねーが。彼女持ちで相手がお前だからな、リールたんが狙われる心配ねぇ、か。よし、入隊を許可する!』って、OKもらったぜ」


 うん、すぐ行動に移す事は良い事よー。でも、それは、全然後回しでもよかった事よー。それに。


「何で武器が鋸なんだよ! 金棒よりおっかねーだろ!」


「リールなら知っているんじゃねーか?」


「はい。ダーリンさんは黄鬼ききさんだからです。黄鬼の武器は両刃鋸なんです」


「うおぉあぁん!」


「……へ?」


 ムキパーさん大号泣。


「そうなんだよぉおぉ! 鬼は金棒っていうイメージが強いからあぁあぁ! 鋸を持っていると笑われてぇえぇえぇ!」


「黄鬼さんは、心の動揺、後悔、甘え、を表し、武器は両刃鋸なんです」


「やっと理解してくれる人が現れたぁあぁー! ありがとぉおぉうぅ! リールちゅあぁん!」


「……」


 心の動揺……、ムキパーさんにぴったりじゃねーか!


「な? わかってくれる奴もいるんだって、ダーリン」


「うんっ、うんっ」


「……」


 どっちが彼氏だか、わかんねーな。


「でも、すげーだろ!? 博識だろ!? リールは!?」


「うん!」


 全力で頷いたムキパーさん。あのー、涙と鼻水が降ってきて、頭と顔に掛かったんですが。


「それでいて可愛い! 優しい! 助平にも慈悲深い! アタシもダーリンがいなきゃ惚れていたなー」


「ダメだよ! 晴那ちゃんは僕の未来のお嫁さんなんだから!」


「だーからっ、ダーリンがいなきゃ、つったろ?」


「あ、そっかー」


「もー、ダーリンは慌てん坊なんだからー、このこのー」


「えへへー」


「…………」


 ムキパーさんのでかい体をツンツンするムキゴリ。照れるムキパーさん。

 だから! 他所よそでやれ! 二人共、図体がでかいから、イチャコラパワーが強いんじゃ!


「でも、本当にリールちゃんは賢くて可愛いよねー。僕も晴那ちゃんがいなかったら、好きになっていたかもー」


「やめとけダーリン。玉を潰されるぜ?」


「えっ?」


 両手でアソコを押さえたムキパーさん。


「この間、リールを守っていく方針を決めるって隊長に呼び出されて、隣のクラスに行ったらな」


「う、うん……」


「『これー? 握力を鍛えているのー、潰すためにー。何って? もちろん、ヤローのぉ、た・ま』って、楽しそうに、黒い笑顔でハンドグリップを握っていたからな」


「た、隊長さん怖ーい!」


「ちなみに、リンゴはもう片手で潰せるらしいぜ」


「ひえぇ!」


「……」


 俺が一番ひえぇ!

 ムキパーさんと同じように、アソコを両手で押さえ、ムキゴリに笑われた。

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