第14話 あなたの死を望みます

 というわけで、やってきました逢坂ようさか大学だいがく


 エスカレーター式なので、幼稚園から大学まで近くにある。もちろん、みんな異種族交流。


 高校の右隣にあるこの建物が、大学なんだが。


「シャレオツー」


 いつ見てもシャレオツ、は、死語か。お洒落だ。そして、それ以上に近未来的だ。


 逆三角形の建物で、基本はコンクリートなんだが、壁がガラス張りなんだ。で、屋上に伸び伸び過ごせる芝生庭園がある。


 相変わらず、すげーなーと、見惚れていると遠目でもわかる巨体が見えた。

 え、ちょ、待て。あいつ身長10メートルくらいありそーだぞ!?



『んー、聞いた事ねーけど。あたしの五倍はあると思うぜ』



「ああ……、なーる」


 全てを察知。あいつがムキゴリの彼氏か。


 ムキゴ……、赤町せきまち、フェルデン、俺、の順でそいつに近づく。


「ダーリンッ、お待たせー」


 ムキゴリが気色悪い甘ったるい声を出した。


「ううん、全然待ってないよー」


 遙か上から降ってくる声は、図体に似合わず穏やかで優しげだ。

 その声を主を見上げてみる。……首が痛い。そして、あの、すいやせん。めっさ怖いんですけどぉ!?

 黄色い体に額から角が二本シャキーン! 首にはでっかい鎖のようなアクセをジャキーン! トドメが、右手に持っているデカのこぎり! もれなく両刃付きよんっ。って、いらんわ!


 何!? 殺す気満々ですか!? え、俺、飛んで火に入る夏のなんちゃらですか!? まだ春ですがー!?


「連れてきたぜー、ダーリンが会いたがっていたリール」


 俺の不安は他所よそに、話は進んでいく。紹介されたフェルデンが前に出ると、お辞儀をした。

 それに合わせムキゴリハイパーなダーリン鬼は、しゃがみ膝を突き、うつ伏せになった。顔がはっきり見える、こっわ!


「初めましてー、春那ちゃんとお付き合いさせてもらっているー、黄田島きたじま豪太ごうたです。よろしくねー」


 ダーリン鬼こと、黄田島氏は微笑んだ。笑顔、柔らかっ。


「初めまして。晴那さんのクラスメイトのリール・シャンテ・フェルデンです。リールで構いません」


「うんうん、リールちゃん。晴那ちゃんが言っていた通り、雰囲気と声だけで可愛さがわかるねー」


「だろ!?」


「僕も守り隊に入っていいかなー?」


 やめてください。


「隊長、男嫌いだけど、あたしのダーリンなら許してくれると思うぜ。後で話してみるなっ」


 マジで、やめてください。


 想像して、みてください。


 フェルデンを守り隊。

 隊長、玉潰しのヤンデレイケメン。

 副隊長、レスラー技得意なムキゴリ。

 隊員、両刃鋸でざっくざくドデカムキゴリハイパー。


 四面楚歌! いや、死面楚歌だ!


「そうそう、遠泳大会の優勝賞品な、思われ花の種。ダーリン、手ぇ出して」


「手?」


 ムキゴリハイパー、略して、ムキパーさんが、大きな左手を前に出すと、ムキゴリは黒い朝顔のような種を着物の胸元から取り出した。そして、ムキパーさんの手に載せた。


「そして、水ーっと」


 腰に提げていた、木製のひょうたんの蓋をキュポンッと取ると、ムキゴリは種に水をかけた。すると、


「おお? おー! すげー!」


 種はあっという間に黄色い百合っぽい花に成長した。


「黄色いダーリンにぴったりの花だな!」


「えへへー、そうかなー」


「……」


 でかい図体でデレデレするな! なんか迫力があるから!


「ちなみにリール、これの花言葉は?」


「百合に似ていますが、キスゲ亜科の多年草、ニッコウキスゲです。花言葉は、『日々新たに』、『心安らぐ人』」


「ますますダーリンにぴったりじゃねーか! ダーリンといると、日々新しい発見ばかりだし、心は安らぐ!」


「晴那ちゃん褒めすぎだよー」


「……」


 ええーい! イチャつくなら大学内でせい! ガラス張りで丸見えの中で!


「じゃ、次、リールな!」


「え、私は……」


 戸惑うフェルデンの右手を掴み、さっさと種を載せ水をかけたムキゴリ。

 咲いたのは。


「これまたリールにぴったりじゃねーか!」


「……」


 可愛らしい白い小花。


「リール、これは何て花だ?」


「……スノードロップです。花言葉は……、『希望』、『慰め』、です」


「やっぱりリールにぴったりだな! アタシのクラスの希望だし! みやびみたいな助平にも慰めを与える!」


「どうせ俺は助平だよ……」


「……」


 可愛い花と良い花言葉のはずなのに、フェルデンは俯いた。


「フェルデン? どうし」


「せっかくなのでこのお花、植えてきますね」


「おー、そーしてやれっ」


 フェルデンは顔を上げると、花壇の所に向かった。何か気になり、俺もついていった。







 赤煉瓦の花壇に来たフェルデンは、花を持ったまま立ち尽くしていた。

 声をかけようか迷ったが、思いきって話しかけた。


「……フェルデン、どうしたんだ?」


「……雅さん」


「お、おう」


「スノードロップには、もう一つ花言葉があるんです」


「へぇー、どんなのだ?」


「……『あなたの死を望みます』」


「えっ……」


「つまり、私は……、皆さんからそう思われているって事です」


 フェルデンは、振り向いて明るく言ったが、声と体は震えていた。

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