第12話 死んではダメです、死なないで下さい。

「ていうか、さっき冥土の土産って言った? 豆」


 まだ痺れて動けない俺を、ヤンデレがフェルデンを抱き締めながら見下ろした。


「いや、まだ生きて」


「やっと死んでくれるのねーん! はぁースッキリー」


「え……」


 フェルデンは両手でヤンデレから体を押し離した。


「リールたん?」


 そして、俺の顔をそっと覗き込んだ。


みやびさん、死んじゃうんですか? 死んではダメです、死なないでください」


「え、でも、フェルデンは俺が嫌いなんじゃ」


「雅さんは嫌いではありません。ただ、大きいアソコが怖いだけなんです。だから……、反射的に大きいアソコの人は、避けてしまうんです」


「俺が怖いんじゃなかったのかー……」


「……そうなんです。でも、つい避けてしまうから。どこの学校に行っても、フェルデンに嫌われたーって、男の方がよく泣かれるんです」


 しょんぼり、そんな文字が見えそうな程、フェルデンは落ち込んだ。


「ふん! 男なんざ泣け! わめけ! そして苦しめ!」


「……」


 うん、なんか、フェルデンの後ろで魔王みたいなことを言っているヤンデレがいるが、無視しよう。


「誤解ですって、言おうとしても、逃げられてしまって……」


「リールたんから逃げろ逃げろ! そして滅びろ! 二度と近づくな!」


「……」


 後ろのヤンデレ魔王が、偉大な某アニメ映画の、グラサン大佐王のような顔をしている。そして、ゴミを見るような目で俺を見ているが、気にしない気にしない。


「そうか、なら、これからはクラスメイトとしてもっと仲良くしようぜ!」


「はい」


 鉄仮面の中で、フェルデンが笑ったような気がした。

 この流れは! いける!


「ならば! クラスメイトとして! もっと親しくなるために! 鉄仮面を外してく」


「それはできません」


「即答! 顔が見れなきゃ仲良くできねーだろ!?」


「顔が見れなくても仲良くできます」


「お前の顔が見れないと死んじまうよー! 死んじゃダメなんだろ? なら顔を見せてくれよー」


 両手で顔を覆って泣いた振りをした。


「ううっ……」


 よし! 効いてる効いてる! やっぱりいい流れ、


「リールたんを困らす豆なんざ、玉を潰すなんて温いな。やっぱり本体を潰さにゃあ」


 ……ではなかった。フェルデンの後ろにいる魔王が、手を組みパキパキと鳴らしている。

 この話は終わり! 何か別の話題を!


「そうだ! お前がそこまでトラウマになるってことは、爺さんのアソコって、俺よりでかいのか?」


「……」


 フェルデンは俺のアソコをチラッと見て、


「……はい」


 大きく頷いた。


「ホントにとんでもねー爺さんだな……」


「とんでもねーけどね、仕方ないのよ。子宝に恵まれなかったフェルデン家に、ようやく授かったのが、天使のような可愛かわゆ可愛かわゆいおんにゃの子。アソコも出しちゃうわよ」


「いや、意味不明だが。つーか、天使のようなって、赤ん坊のフェルデンを見た事あんのか? あー……、種族によってタメのような見た目でも、年齢は違うからなー」


「そういうこと。アタシはねリールたんより、千歳せんさい以上いじょう年上としうえ


「それってもうヨボヨボババ」


 ヤンデレは目をカッと開き、俺のアソコを指差すと、手を丸め握り潰す仕草をした。俺は咄嗟に無言で手を合わせた。


「で? 赤ん坊のフェルデンを見た事あんのか?」


「あるわよーん。もちろん見に行ったわよー。フェルデン家の一人娘、どんな可愛いベビたんかと思ったら」


「思ったら?」


 俯いて震え出したヤンデレ。段々わかってきたぞ、これはフェルデンの可愛さを伝える時の発作だ。


「まーあ! 白い肌の可愛い可愛いおんにゃの子! 悪魔なのに天使を産んじゃったの!? と思ったわね!」


 口の両端から涎が垂れてますよー。


「でも、何故かその後。アタシはホスピタルを出禁になったの。何でかしらーん」


「そりゃお前、今みたいに食いかかりそうな顔をしていたからだろ」


「それからずーっとリールたんに会えなくて。会えなくて会えなくて会えなくて。久しぶりに再会した時には、すぐにあのベビたんだってわかったわ!」


「途中の会えなくて三連発に、素が出てましたよー」


「そして、心臓をギュッグシャッズビシャ! ギャギャベシャガシュザシュー! って、改めてやられたの!」


「お前の表現はえげつないな相変わらず」


「ベビたんのリールたんも可愛かったけど、アタシは今のリールたんの方が美味しそ、……好きよー」


「美味しそうって言いかけたよな!? やっぱり食う気満々だったろ!?」


「そりゃー、ねー? でも、リールたんを食べるんじゃなくてぇー。リールたんの敏感な所をー、ねぇ。でも、そんな事をしたらぁー、アタシの方が昇天しちゃうからー。しないのぉ」


「全男のために、どーぞ昇天してくれ。つーか、フェルデンのアレをアレした事ないなら、この前に言っていた味は何なん?」


「あれー? 精気の味よ、精気のあ・じ」


「……へぇー」


「だから、リールたんのアレをアレする時は、アタシが死ぬ時ぃん。それまではー、リールたんの小さな唇やー、可愛いお手てやあんよをー、ペロペロできれば幸せー」


「ヤンデ、じゃない、ラビオス。その辺にしておけ、過激な下ネタにフェルデンはパンクしたようだぞ」


 俺を見下げたまま、鉄仮面からまた煙が出ている。


「リールたんたらっ、ウブで可愛いんだからんっ。でもね、リールたん。こういう話に慣れていかないとー、悪い豆に付け狙われるのよ?」


「大丈夫。豆は俺だけだから」


「雅さんは大丈夫ですよ、いい人です。ただアソコが大きいだけなんです」


 うん、何のフォローにもなってませんよ?


「それに、虐められている私を、助けてくれました」


「は? イジメ?」


 ポチッとな。あぁよいよい、ヤンデレの地雷ポチッとな。

 それは言っちゃあいかんぜよっ、とな。


「おい、豆。ツラ貸せや。同じクラスなんだからぁ、もちろんー? 事前に防いだんだろうなぁー?」


「あれー? 耳糞がたまってんのかなー? よく聞こえな」


「いえ、事前ではなく、水をかけられた後ですが」


 フェ、フェルデンさん!? もうそのくらいに……。


「みぃーずぅー!? リールたんのすべすべ肌にみぃーずぅー!?」


「あ、でも。雅さんが服を着せてくれたので、大丈夫でしたよ?」


「服ぅ!? 豆の!? あんな臭い服ぅ!?」


「臭くはなかったですよ? ちゃんと洗剤の」


「豆臭がっ……。リールたんに、豆臭がぁあぁ!」


 みんな! 地震だ! ヤンデレの怒りの震えで地面が割れそうだ! 逃げろ! 俺のことは気にするな! どうせまだ動けん!


「だから、洗剤と少し汗の臭」


「汗ぇえぇうぅえぇ!?」


 フェルデンさーん! もうフォローいらないでーす! お口チャーック!

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