第2章 フェルデンさんはアソコが苦手

第11話 ホントにとんでもねーな!

「とうとう……、とうとう来たぜー! この時がぁ!」


「うっせーわ!」


 顎にムキゴリの回し蹴りがクリーンヒット! ゴキャッ! と、恐ろしい音がしたが、気にならない! そして! この間、血を吸われた事も気にならない! 何故ならば!


「今日は遠泳大会だからだー!」


 両拳を高く上げ叫んだ。


「……とうとう来てしまったのですか」


 前から俺とは真逆の小さな声が聞こえた。


「そうか、リールは金槌だって隊長が言っていたもんな」


「はい……」


「気にすんなよ。ここの遠泳大会は完泳が目的じゃない。参加する事に意味があるんだ。途中棄権したって失格じゃねーんだぜ?」


「はい……」


「そうだ! 参加する事に意味がある! さぁ! 俺とレッツスイミン」


「お前はうっせーから海の藻屑もくずになっとけ」


 ムキゴリのラリアーット! 顔面直撃ー! 鼻がゴビャッと、聞いた事もない音がしたけど、問題なし!


 全てはこの日のために! そう! 全てはこの日のために! 俺はムキゴリとヤンデレから耐えていたんだ!


 そして、この日を境に! 立場は逆転する!








「……はずだったのに、何でかなー」


 俺は学校の近くにある南桃なんとう海水かいすい浴場よくじょうの桃色の砂浜に立ち尽くし、とある方向を見ていた。

 そこは、波模様で水色のレジャーシートに白と青のパラソルが立てられた見学者コーナー。そこに。


「なーんでいるのかなー……」


 フェルデンが体育座りをしていた。


 え? ちょ、待って。金槌なのは聞いたよ? 鉄仮面も被っているから泳ぎづらいと思うよ? 参加する事に意味があるとも言ったよ? でもさ、それはさ。


「泳いでなんぼじゃろーがー!」


 プッチン、プリンプリン。俺の中の何かが、プッチンプリンプリン。


 金槌のフェルデン×溺れる×助ける俺×人工呼吸×鉄仮面を外す=俺に惚れる!

 の方程式はー! どうしてくれんだぁー!


「うおおぉぉがあぁぁあー!」


 フェルデン目掛けて猛ダッシュ! 俺の雄叫びを聞き、近づいてくるのがわかると、立ち上がり逃げるフェルデン!


「なぁーぜー! 逃ぃーげぇーるー!」


「いやー! 来ないでくださーい!」


「なら! 鉄仮面を外せー!」


「そんな猥褻物わいせつぶつをぶら下げて来ないでくださーい!」


「猥褻物とは何だ! これは男の象ちょ」


「悪いはいねぇーかー?」


「ん?」


 砂を巻き上げながら急ブレーキ。今、上から何か聞こえたような?

 空を見上げると。


「悪いはいねぇーがぁー?」


「うー……わー……」


 ヤンデレ鬼婆、いや、違うな。もっと顔が怖い。


「リールたんを困らす、悪い豆はいねぇーがぁー!?」


「……」


 ヤンデレ般若と進化したー! 顔、怖っ! え、ちょ、下の歯というか牙、顔に刺さりそうですよ!?


「……よし、逃げよう」


 きびすを返し、回れ右! でも、あーれー? デジャヴー? また、ゆーっくり、動くよー? 真上からバッサバッサと聞こえるよー? 見上げると、水着からはみ出そうな胸を揺らして来る、ヤンデレ般若が、いたよー。


「リールたんを泣かす奴は、潰す! 乙女リールラブァーゲオシス!」


「うぎゃー!」


 昔、流行った何とかモンスターの百万ボルトのような電撃が俺の体を貫いた。そして、砂浜に埋まるように後ろから倒れた。


「怖かったわねんっ、リールたんっ、もう大丈夫よんっ」


 バッサバッサと降りてきたヤンデレ般若は、フェルデンを抱き締めた。抱き締めた事により水着がずれ、あれがポロリ。本来なら鼻血ブーもんだが、こいつらのせいで俺はもう正常ではない。だから、何とも思わない。

 あぁ、でも、普通の男子は反応しているな。周りは鼻血噴射でリタイア続出している。


 が、それもどうでもいい話だ。


 フェルデンに何故ここまで避けられるのかが、問題だ。すごい勢いで追いかけたのは確かに悪かった。けれど、問題はそこではなく。


『そんな猥褻物をぶら下げて来ないでくださーい!』


「……」


 ここにありそうだ。俺は自分のアソコを見下げた。


「なぁ、フェルデンよ。冥土の土産に教えてくれ。何で、アソコがでかい奴が苦手なんだ」


「……物心ついた時に、寝ていたらお爺様に呼ばれたんです」


 フェルデンは振り向き、ゆっくり語る。


「うん」


「目を開けたら、目の前にお爺様の大きなアソコがっ……」


 フェルデンは顔を両手で覆った。


「…………」


 うおぉぉい! なんて事をしてくれんだ爺さんよー!


「お前ん家の爺さん、ホントにとんでもねーな!」


「まぁ、わからなくもないわ。今のリールたんでさえ、メロキュンかわなのよーん? 小さいリールたんなんて、もう殺人的可愛さっ、いけねっ、涎が出た」


 ラビオスは口の右端から垂れていた涎を、左手の甲で拭った。


「だから……、その、形がくっきりわかるその水着は、怖いのです」


「ブーメランは、怖いか」


「はい……」


「そうか! アタシ間違っていたわ!」


「どうしたヤンデレ。俺に謝る気が出たか」


「はぁ!? 何でテメェに謝らなきゃなんねーんだ! 寧ろテメェがリールたんに謝るべきだろーが!」


「はい、テメェ豆、謝ります。すいませんでした。で、何を間違えていたって?」


「全男を滅ぼす前に!」


「ああ」


「全男の玉を潰せばよかったのよー!」


「……」


 痛たっ、なんかアソコに痛みがっ……。


「そうすればリールたんを怖がらすものがさくっと減るわーん。うっかりうっかりー」


「いや……、もっとやめてください」

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