第6話 お前かぁー!

「……ラビオス、お前に聞きたい事があるんだが」


「んー? リールたんの事以外ならー、答えてあげるー」


 ……いや、そのリールたんの事なんだが。


「フェルデンとどうやって知り合ったんだ?」


「リールたんとの馴れ初めを聞きたいのー? アタシだけの大切な思い出として、閉まっておきたいけどぉ。今はリールたん満喫中だからー、話してあげるー」


 満喫というか、匂い擦り付け中な。


「まだ、日本に来る前、魔界にいた頃なんだけどぉー、いつものように夜な夜な可愛い子を探していたのぉ」


「……お前、昔から女好きだったんだな」


「そうよー。でも、ちょっと違うわねー。アタシは可愛い子が好きなの。アタシみたいなイケイケ系は、好みじゃないの」


「はぁ……」


「それでー、下界に降りようとしたらー、可愛い子の泣き声が聞こえたから、飛んでいったの。そしたらぁー」


 ラビオスの体が震え始めた。フェルデンにひっつきすぎて、ある種の禁断症状か?


「リールたんが泣いていたのー! 肩を叩いて振り向いたそのお顔にぃ! 心臓ドカーン! ってやられたのぉ!」


 ラビオスは胸を両手で押さえ、仰け反った。


「よく運命の恋に落ちると、電撃が走るようだとか言うけど、あれ嘘ね。アタシー、心臓を串刺しにされ、一億トンハンマーでぶん殴られたようだったものぉ」


 ……いや、そっちの方がヤバいだろ! 即死の上に追い討ちをかけられてんぞ!


「それでぇー。どうしたのぉ? って聞いたら、その可愛かわゆいお顔が原因で、悲しい思いをしてるって言うじゃなーい。だからぁ、鉄仮面を被ったらって言ったの」


 そうかそうか、お前がな。……って、ん?


「お前かぁー!」


 ベンチから立ち上がった。腹もぐぅーっと鳴ったが、それどころではない!


「何よ急に」


「お前が鉄仮面を被らせた犯人かー!」


「そうよー? だってー、アタシはもう可愛かわゆいお顔は見たからぁ。攻撃も悪い男からも守れる鉄仮面が最適だと思ったのー」


「お前が勧めなければ! フェルデンの顔を拝めたのにー!」


「全男は、自分の玉でも見てろや」


「……」


 ほーんとこの人、いや、この悪魔、地が出ると怖ぇなー。声がめっちゃ低くなって、どこからあの「リールちゅわーん」な、でろ甘ボイスが出るのか不思議だわ。


「でもね、これで下界に行かなくても、リールたんの精気をもらえれば、生きていける! と思ったのにぃ。親にまともになるために遙坂ようさか高校こうこうに行けって言われてー」


 淫魔一家だから、ラビオスの両親も淫魔、だよな。でも、そのまともな考え、本当にこいつの親とは思えないな。


「異種族と交流して、普通のサキュバスに戻るまで帰ってくんなと言われたのー。リールたんと離れ離れにされてぇ、マジふざけんなと思ったぁー」


 ふざけてないですよ? あなたの両親は立派です!


「でも、まぁ、色んな種族の可愛い子から精気をもらえるなら、いいかなと思ったのに、よぉ……」


 最後の「よぉ」が怖いYO! 俺を睨まないでYO!


「入学早々モテモテな豆がいてよぉ、可愛い子みーんなそっちにいてよぉ」


 モテてごめんYO! 悪気はないんだYO!


「夜に行ってもみんな豆の夢を見てる。リールたんには会えない。はぁー、地獄だったわ」


 よし! やっぱり煮豆にしましょう! 素朴な味で美味しいですよ!


「耐えて耐えての二年間、もう限界で退学してやろうと思った夜。幼馴染のインキュバスがなんかそわそわしていたから」


 捻り吐き上げさせたのね。


「捻り叩き落とし吐き上げさせたら」


 ……ん? 何か、一つ、いや、二つ増えてません? 捻り、叩き落とした? ……そのインキュバス大丈夫か? 生きてる?


「リールたんが転校して来るって言うからー! もー速攻で退学届を破って、飲み込んだわよ!」


 飲んだんかーい!


「クラスが違うのは残念だったけどー、隣だからまぁ勘弁してやる事にしたのー。すーはー、あぁー……、匂いだけで昇天しそー」


 だから、どうぞ昇天してくれ。


「リールたーん、このお弁当箱ぉ、もらっていーい?」


「いいえ、返してください」


「えぇー、じゃーあ、舐め回して涎だらけにして返すわねーん」


 だから、やる事がド変態なんだって。


「ふぉふぉふぉ、もう転校生と打ち解けているとは。仲良き事はいい事じゃのう」


 上から声がして見上げた。木にナマケモノがぶら下がっていた。……いや、違う。これは校長だ。ナマケモノの獣人なんだ。

 薄茶の毛がもっさもさで、目とその周り、鼻が黒い。顔は色白。体長70センチくらい。


「校長センセー、ちょうどいいところにー。アタシとーリールたんをー、同じにクラスにしてくださらなーい?」


「クラス替えは行わん」


「チッ」


 お前、校長に舌打ちはまずいだろー!


「ふぉふぉ。クラスが違う分、会えた時の嬉しさが一入ひとしおだから、良かろうて」


「確かにー! 離れている分、愛は募るわー!」


「いや、そんな離れていないだろ。クラス隣じゃん」


「あぁ!? リールたんの後ろの席で、こっそり匂い嗅いで興奮しているお前に、言われなくねぇなぁ!」


「そんな事してねーし……」


「そうなのか? 転校生の匂いを嗅いどるのか?」


「校長も信じないでください……」


 段々、話が逸れていくし。でも、まぁ、


「ふふっ」


 フェルデンが楽しそうだから、いっか。

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