第5話 釜茹でにしときゃあよかったなぁ!
数日後の昼休み。
「……フェルデンよ」
「はい、何ですか、
「あの時は、助けてくれてありがとうございましたー! そして、水着姿を見て、すいませんでしたー!」
机に額擦り付け謝罪。
「……いえ、止めないと、べトゥラさん、雅さんを殺しそうだったので」
確かにな。振り返って
「水着姿は……、遠泳大会の時に、皆さんに見られるので。減るものではないですし」
「……顔は見られると減んの?」
「減ります」
そこまで断言されると、めっちゃ気になるのだが。そーだ! いい事を思いついた!
「なぁ、お前とラビオスって、幼馴染み? すんげー仲良いけど」
「いえ、日本がこうなる前の、魔界からの付き合いですが、お友達なだけです」
「幼馴染みじゃないのに、あの溺愛、いや、狂愛ぶり……。いと恐ろしや」
「恐ろしくなんかありません。ベトゥラさんはとても優しいですし、私を大切に想ってくれています」
フェルデンの声が何だか嬉しそうだ。え、あの執拗な愛、受け止めんの?
「……何よりも」
「ん?」
「私の顔を見て、好きでいてくれたのは、ベトゥラさんが初めてですので」
「……」
やはり、顔がポイントなんだな。見られたくない何かがある。そして、あのヤンデレは見た。なーらーばー。
「よし! ラビオスの所へ行くぞ! お前も来てくれ!」
「私も? どうしてですか?」
「お前がいてくれた方があいつ喜ぶから。そしたらポロッとお前の顔、……げふんげふんっ。お前の魔界時代の事を聞けるかもしれないだろっ?」
「……別にいいですが。ちょうどお昼にべトゥラさんを誘おうと思っていたので」
フェルデンは机の脇に掛けていた、淡いピンク色の保冷バッグを持った。
「よし! 行くか!」
三年愛組。
ラビオスはーっと、いたいた。真ん中ら辺の席で男子に声をかけられ、一睨みで追い返している。お前、どんだけ男嫌いなん。
「フェルデン、お前が声をかけてくれ」
「はい。べトゥラさーん!」
ラビオスの高速振り向き! 反応早っ!
そして、フェルデンを見てぱぁーっと、顔が明るくなった。やっぱり俺の選択肢は間違っていな……、くなかった。俺を見るとあの時のような顔をして、そして、フェルデンと俺を交互に見ると、俯いて拳を握って震え始めたぞ!?
あれ? 俺、目が疲れているのかなー? ラビオスってサキュバスだよなー? 鬼婆が見えるんだけどー。
うーわー、鬼婆が飛んできたー!
「おい、てめー、何のつもりだ」
今日は素で全開だー。俺と同じくらいの身長だから、間近でガンつけられると迫力あるー。
「アタシのリールたんと一緒に来るなんざ、あぁ!? 俺の方が仲良しだアピールのつもりかぁ!? やっぱりあん時、釜茹でにしときゃあよかったなぁ!」
あー、リールたん水着事件の時、俺は釜茹でになる予定だったんですか。
でも、煮豆は美味しいですよ?
「べトゥラさん」
「なぁーにぃー?」
その変わり身。二重人格ですか?
「お昼一緒に食べませんか?」
「食べる食べるぅー! けーどー、この豆も一緒にか?」
豆は、あなた様へのお
「はい、三人で」
「えぇー! リールたんとランチデートがいーい! それに、アタシお昼を買ってくるの忘れたから、購買に行かなきゃだしー」
そういう時は豆を転がしましょう! 喜んでパシります!
「ご心配には及びません」
「何でー?」
「べトゥラさんの分も、お弁当を作ってきましたので」
「おげふぁー!」
ラビオスは口を右手で押さえた。大丈夫か? 血を吐きそうな声だったぞ。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫ー。嬉しさのあまり、リールたんからもらった精気が、口から出そうになっただけだからー」
……色んな意味で大丈夫じゃないだろ。
「はぁ、はぁ。ふーっ。リールたんの愛情弁当に免じて、豆付きでも許してやらぁ」
ははーっ、ありがたき幸せー。
「リールたん、どこで食べるー?」
「天気がいいので、外で食べましょう」
「カフェ風ランチデートねんっ。早く行きましょー。豆は数十メートル離れてついてこい」
サー、イエッサー! 豆は地球の裏側まででも離れまーす!
中庭。
ここは、
ああ、今日も女子がいっぱいでいい匂いだなー。そして、あの子もあの子も元カノ。
なーのにー、今、俺の近くにいるこいつらは、俺に興味が一ミリもない。
俺より女子からモテるんじゃないかと思う、鉄仮面転校生。女、いや、鉄仮面ラブなヤンデレ全開なサキュバス。
俺のラノベ以上の体験は何処へ? と思いつつ、俺たちは中庭の真ん中にあり、木を囲むように置いてある、木製のベンチに座った。
「さぁ、食べましょーん。まぁんっ、可愛いお弁当箱ー」
赤い巾着袋から出てきたのは、同じ色のシリコン製らしき二段のラウンド型ランチボックス。それと箸ケースとフォークケース。
「可愛くて、レンジも食洗機もOKなので、私も気に入ってます」
フェルデンのは一回り小さいピンクの同じランチボックスだ。
俺は、豆なので、昼飯を買う事を許されませんでした。
「いただきまーす。うーん、この卵焼き美味しー」
「べトゥラさん、手掴みなんてお行儀悪いですよ。箸を使ってください」
「はぁーい」
そこも注意すべきだが、もっとあるだろう!
お前、今、ラビオスの足の間に座らせられて、後ろから足で腰をホールドされているぞ! ラビオスパンツ丸見え! だが、ド変態フェルデン狂だからか、下着を見ても興奮しない!
「……うーん、でも、この卵焼き、ちょっと甘すぎでしたね」
箸でお上品に食べるフェルデン。腰をホールドされているのに、平然としている。もう、猛者じゃないな、仙人の域だ。
「べトゥラさん、足をウネウネしないでください」
「えー、だってー、リールたんから豆臭を消して、アタシの匂いを擦り付けないとでしょー?」
「……」
だから、やる事が変態なんだってば!
はぁー、俺、こいつからフェルデンの事を聞き出せんのかなー……。
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