第4話 トップオブザ面積!

 というわけで、翌日。午前十時。絶賛尾行中。


 何故あいつらの待ち合わせ場所がわかったかって? 実は俺もテレパシーを受け取る事ができるのさ! ……嘘です。昨日あの後、ハイテンションラビオスが。


『十時っ、十時っ。寮の前ー、おめかししなくちゃっ』


 と、ルンルンでかい独り言を言っていたのを、聞いただけだ。


 そう、我が校には寮がある。だが全寮制ではない、家が遠い奴とか身寄りのない奴とかが暮らしている。無論、家が近くても入れる。男子、女子、寮は別棟だ。……つまらん。


 しかも、建物は隣同士で、女子寮は男子禁制なのに、男子寮は女子入室OK。これこそ差別だろ! そう、フェルデン風に言うなら、こんな寮はくそったれです! ……俺が言うとキモいな。


 その分、ラビオスはラッキーだったろーなー。家は近いのに寮で生活していて、フェルデンも入ってきたらしいから。


『今日からアタシ、リールたんの枕と布団になるわー! 髪の匂いを嗅いでっ、抱き締めて舐め回すの! はぁー、昇天しそーう』


 と、言っていたからな。


 ラビオスが、あいつの言う正統派サキュバスなら、それこそ全男子発狂ものだっただろう。Iカップ(らしい)枕、ムッチリボディ布団。俺たちが昇天できたな? 

 だが、よく思い出してくれ諸君。あいつはド変態女好き、いや、ド変態フェルデン狂だ。フェルデン命、フェルデンが全て、フェルデンに近づく奴は豆。いや、豆は俺だけか。ま、それは置いといて、何よりも! 全男の敵!

 

 そういえば、何気にあいつも女子に人気あるな。ボンキュッボンなくせに、赤町せきまちとは違った男らしさがあるからか。

 ……あれ? 俺がモテモテだったのって、まさか幻?

 そんなことを電柱の陰で考えていると、フェルデンが寮から出てきた。


「すみません、お待たせして」


「ううんー、大丈夫ー。アタシもさっき来たばかりよーん」


 嘘こけ、六時からスタンバってたろ! そういう俺は四時からいるけどな!


「さぁ、いきましょー。はいっ」


 ラビオスは右腕を差し出した。


「えっと……」


「逸れちゃやだしぃ、攫われちゃやだしぃ。ずっと触れていたいから、腕組みましょー」


「恥ずかしいのですが……」


「大丈夫よー。精気は自然に摂るからっ」


 自然に、摂る。……何が大丈夫なんだろうか。


「……わかりました」


 ラビオスの右腕と自分の左腕を絡めたフェルデン。自然に精気を摂られるんだぞ!? いいのか!? お前は天使か!?


「ふふふーん、最後の最後には、アタシに甘いのよねーん、リールたんは。ホントッ悪魔だけど天使よねー」


 ……俺、このド変態と思考が同じ!? いやいや、たまたまだな、たまたま。


「さぁ、いきましょー。ふんふふーんっ」


 さぁ、俺も本格的に尾行だ! ふんふふーんっ。







「ところで、今日はどこへ行くのですか?」


「んー? ウチの高校はね、春に遠泳大会があるの。だから、水着を買いに行こうと思って」


 そう、ウチの学校は変わっていて、春に遠泳をする。少しでも涼しい内にという配慮らしいが、俺からすれば、あの照りつける太陽の下でやるのが最高なんだが。


「遠泳、ですか……。金槌の私には、嬉しくないお知らせですね」


 ビッグニュース! 神は俺の味方だった! 


 金槌のフェルデン×溺れる×助ける俺×人工呼吸×鉄仮面を外す=俺に惚れる!

 という方程式が完成する! フェルデンの顔も見れて、キスもでき、好かれる。一石二鳥どころじゃない! 三鳥以上だ!

 何で恋愛をしないかわからんが、助けてキスされ、俺にときめかない奴はいないだろう!


「そうねー、リールたんには嬉しくない事ねー。でも、水着は着てみたくない!?」


「……そうですね」


「でしょでしょー! だからー、買いに行きましょー。あー、リールたんの白い肌を目に焼き付けてー」


「……」


 だから、いつも最後に素が出ていますよ!?





 そんなこんなで、やって来ました、水着ショップ。最大級の取り揃えの店『スイムラビューン』

 レディース、メンズ、子供用。水着関連の小物、ビーチサンダルなども豊富だ。夏になれば全種族がここに集まる。


 だが、今は春。そんなに客はいない。

 一階がレディースだ。ふっふっふー、こんな事もあろうかと、ウイッグを用意しておいた! これで俺も立派な女子! 

 が、念のために一応隠れよう。俺は奴らから数メートル離れた所にある、マネキンの後ろに隠れた。


「リールたんに似合いそうな水着はー」


 スク水だろ!


「スク水ね!」


 だよなー! って、はっ! やっぱり俺の頭、ド変態と同じ……。


「でもでもぉ、スク水もいーけどぉー、折角ウチの学校は水着フリーなんだからー」


 そう! 水着もフリー! ビバ遙坂ようさか


「今リールたんが着ているー、白のニットとレーススカートのようなー、このフレアスカートのワンピースよね!」


 天才が現れた。清楚&セクシーな水着を選んだ、水着の魔術師が。


「私には、大人すぎないでしょうか……」


「大丈夫よー。可愛い! 大人! セクシー! このトリプル要素が入っているこの水着! リールたんが着ないで誰が着るの!?」


 確かに。


「ほらほらー、ものは試しよー。試着試着ぅ」


 ラビオスはフェルデンに水着を渡し、背中を押して試着室の中に入れ、靴を脱いだのを確認すると、カーテンを閉めた。


「着替えたら言ってねーん。着替えないと出さないからー」


「……わかりました」


 カーテンの下の隙間から、フェルデンが脱いだ服がチラ見えした。……ごくり。





 数分後。


「……着替えました」


「じゃあ、開けるわねー」


 ラビオスはシャッと勢いよくカーテンを開けた。


「どう、でしょうか……」


 フェルデンは恥ずかしそうに俯いていた。


「——……」


 ラビオスはびくともしない。どうした、もう精気切れか?


 しかし、ラビオスは実は男じゃないかと思うくらい、水着のチョイスがパーフェクトだな。

 男受け間違いなしの、白いビキニをレースが覆っているようなフェミニン&セクシー。セットになっているフレアスカートが可愛い。そして、レースから見える腹がエロい。

 と、眺めていたら、ラビオスがフェルデンの顔を挟むように壁に手を突いた。これが壁ドンか。


「はぁーあ、アタシ、天才かも。エロかわだわー。あーっ……、ふわもこの手錠を掛けて監禁してー」


 はい、また最後、本音がだだ漏れですよー!? いや、違うな、こいつは隠していない、いやむしろ、隠すつもりはないんだ。


 兎にも角にも、お巡りさーん、ここでーす、こいつでーす。監禁魔になろうとしているヤンデレがいまーす。でも、ふわもこって部分に、愛がありまーす。あ、ふわもこだからダメ? 愛がある? 無罪? そうですか……。


「えっと……、学校に行く時とか、お手洗いに行く時には、解放してくださいね?」


 ……真面目か!


「うんうん、大丈夫ー。ちゃーんと、アタシがお着替えしてあげるからんっ」


  ……違う意味で真面目か!


「ところで、ベトゥラさんはどの水着にするんですか?」


「アタシ? アタシはもう決まってるのー。こーれっ」


 ラビオスは壁から手を離し、持ってきていた水着をフェルデンに見せた。定番といえば定番の、黒いマイクロビキニだ。しかし、それは……。


「トップオブザ面積!」


「え……?」「ん?」


 しまった! 口に出すつもりはなかったのに、つい叫んでしまった! しかも間違えて! 面積少な! って言ったつもりだった!


「——……」


 フェルデンはカーテンを閉めて隠れてしまった。


「見たな? リールたんの水着姿を……。リールたんの素肌をー!」


 ラビオスの紫色の瞳が赤くなっていく。お怒り全開だ。

 すいません! リールたんの水着姿を見て! だーが!


「逃げるが勝ち!」


 マネキンを押し倒して、全力疾走! でーもー、あーれー? ゆーっくり、無重力みたいにー、動く俺ー。

 振り返るとー、すごい形相のラビオスー。

 あー、もうバッドエンドかー。早すぎねー?


 そこから先はよく覚えていないんだが、どうやら、フェルデンがラビオスを止めてくれたらしい。後日。


『リールたんに感謝しなさいよね! 水着姿を見ても、許してあげるって! ホーント、悪魔なのに天使、いや、女神よねー』


 と、ラビオスが怒りながらうっとりして、俺に言ってきた。


 ああ、フェルデン様、女神様。助けてくださりありがとうございます。


 が! 顔は絶対に見てやるからな!

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