買い出しにお昼ごはん



ーーーーーーそれからは、めまぐるしく時がぎた。

というのも、疾風の行動がとにかく迅速じんそくだったからである。

金塊を持って出かけた疾風は、愛枝花の指定したとある店で金塊きんかいを現代の紙幣紙幣換金かんきんした。

そしてすぐさまホームセンターに向かい、チェーンソーやおのや専門の大工道具を購入こうにゅう

そしてホームセンターで評判ひょうばんの良い工務店こうむてんのことを聞いたので、その足で店に向かった。


着いて早々そうそう、評判が良いという話は本当だったと疾風はすぐに実感することになる。

年配の男性が、疾風を見るなりすぐに声をかけてきて奥へと通してくれたのだ。

話してみればとても気さくないい人だった。


というのも、疾風が失業中しつぎょうちゅうでつぶれかけた神社に世話になっていてそれを建て直す仕事をけおったことを話すと。

考える間もなく、この工務店で建て直しの仕事を引き受けると言ってくれた。(ちなみにこの人は社長だった)


それに、疾風の腕次第ではこの工務店で働くことも出来ると社長自らが言ってくれたので。

疾風の方こそ、一石二鳥どころの話ではなかった。



「それじゃ、明後日の午後に下見ってことで」

「よろしくお願いします」

「いや~、久しぶりの大工事の仕事だ、腕が鳴る!」

廃屋はいおくに近いですからね。一度更地にして新しく建てた方がいいと思います」

「実際に建物を見て、すぐに材木の手配をするからな。明後日が楽しみだ!」



握手を交わし、今度は酒を飲もうと誘われるほど社長と親しくなった疾風は。

荷物を持って、工務店を後にした。



「疾風」

「愛枝花!?なんでここにっ・・・」



工務店の帰り道。

神社にいると思っていた愛枝花が、町の商店街で買い物をしていたのだ。

ちょうど愛枝花が買い物していた、肉屋の備えつけの時計を見ればもうお昼に近い時間だったので。

食事の買い出しかと合点がいった。



「どこぞの食欲魔神が食糧を食いつくしてくれたからな。買い出しだ」

「そっか。俺の為にわざわざ買い出しを・・・」

「一言もそんなことは言っていない!!」

「おっ、ひき肉が安いな。愛枝花、ハンバーグ作ってくれよ」

「無視するなバカ者っ」

「手羽先も安い!なぁ愛枝花~!昼はハンバーグで、夜は手羽先が食いたいな~」

「肉ばかりではないか!!野菜もたべろ、偏食へんしょくは許さない」



そう言いつつも、疾風が安いと言ったひき肉と手羽先を大量に購入する。

肉屋の次は、八百屋に来て愛枝花の畑ではまだ収穫出来ない野菜を購入。

そして、魚屋に到着して魚も大量に購入。

おろすのが手間なので、全ておろしてもらっている間に米屋で米も購入。


荷物が大量になったところで、見かねた商店街の人がリアカーを貸してくれるという荒業あらわざを繰り広げてくれたので。

愛枝花が答えるよりも早く、疾風が笑顔でそれを借り。

大量の荷物を積みこんでいく。


ついでに愛枝花も積みこもうとしたところで、かなりえげつないするどりが疾風の脇腹わきばらに入った。



「そういう冗談じょうだんかぬ!!」

「っ………いや、わりとマジだったんですけどっ……」

「なお悪いわ!」



愛枝花はぷりぷりと怒りながら、ちょうどおろし終わった魚を受け取りリアカーに乗せる。

そして疾風の回復を待たず、さっさと歩きだしてしまった。


その後を慌てて追いかけながらリアカーを引き、人々の注目を集める二人。

そんな二人のことは、しばらく商店街の人々の間で噂になった。


男前の大柄おおがらな男と、小さく可愛らしい女の子の二人組が信じられない量の食料を買い込み山の彼方かなたへ消えていったーーーーと。後の祭りである。




山のふもとに着いた二人は、リアカーから全ての荷物を降ろした。

愛枝花は少量の荷物を手に持ち、疾風は大量の荷物をかかくずれかけた石段いしだんを登る。


 さすがの大荷物で、疾風も愛枝花をさらに抱えることは出来なかったが。

普通の人間では、おおよそ持ち上げることすらかなわない荷物を運べただけでも凄い。


疾風だけ何回か往復おうふくし、やっと荷物を全て運び終える。

息は上がってはいないものの、荷物を下ろしたとたんに軽くストレッチをする疾風を見て。

やはり少しなりとも疲れたのかと、愛枝花が様子をうかがっていれば。

買ってきた道具を持って、山の中の林に向かっていった。


その間に、疾風に運んでもらった食材を使い昼御飯の支度に取りかかる。

本性が狼なのだから、やはり肉食なのだろうかと考えながら。

今日買った豆腐とひき肉を大量に取り出した。


 豆腐は水切りをしなければ、うまくハンバーグのタネを作れない。

だからキッチンペーパーでくるみ、少々置いておく。

量が量なのでくるむ作業が大変だが、力仕事をしている疾風の腹を満足させる料理を提供するのは一種の義務のようなものなので。

愛枝花は嫌な顔一つせず、黙々と手を動かす。


水切りしている間に、玉ねぎをみじん切りにする。

定番の涙が止まらなくなる現象げんしょうは、愛枝花においては目にも止まらぬ速さで切ったので問題はなかった。


豆腐を泡だて器で滑らかになるまで混ぜ、パン粉も混ぜ合わせる。ひき肉、卵、玉ねぎ、コンソメ、塩コショウを入れ、ねばりが出るまでこねる。


ハンバーグの形に整えたら、フライパンで焼き目がつくまで中火で焼く。

焼き目がついたらひっくり返す。

裏面も焼き目がついたら水を入れ、ふたをして弱火で蒸し焼きにする。

水がなくなり、竹串たけぐしして透明な汁が出てきたら完成だ。


冷めないうちにハンバーグにかけるあんを作る。

隠し味にショウガを入れ、キノコを混ぜ合わせたキノコあんかけ豆腐ハンバーグだ。


味噌汁の具は揚げとネギと薄切うすぎり玉ねぎと人参。

よく漬かった大根の漬物つけものも一本丸々取り出す。

切って皿に盛りつけ、先ほどの部屋まで料理を運び終えたら外に出て疾風を呼んだ。



昼餉ひるげだぞ」

「待ってました!!」



いつの間に来たんだとツッコミをいれたくなるほどの素早さで、疾風は社まで帰ってきた。

この男の身体能力を持ってすれば、山の中からここまでの結構な距離も一瞬でやって来れると思い直し。

愛枝花は部屋の中に戻った。



「うおっ!すげ、肉の山盛り!!」

「自分で要求した料理名も言えないのか」

「ハンバーグ!!!」

「 キノコあんかけ豆腐ハンバーグだ」

「なんでもいい!我慢できねーから食うぞ、いただきます!!」



よほど肉にえていたのか。

ハンバーグを取り皿に置くことなく、疾風の口の中に消えていく。

味噌汁も飲み、漬物もかじり、米を平らげまたハンバーグに箸を伸ばす。

その勢いは止まらない。


見ている方はその動きを追うことができず、ただ成り行きを見守るしかないが。

無言で差し出される茶碗ちゃわんを見て、フッと笑みがこぼれた。


茶碗を受けとると、やはり黙ってご飯を大盛りに入れ疾風に渡す。

だがそれもすぐに消費するので、もっと味わって食べろとかゆっくり噛んで食べろとか言うひまもなく。

ただただ、こんなに夢中になって食べてもらえるなら頑張って作った甲斐があったと、愛枝花は思うのだった。



「…信じられぬ。机の上にところ狭しと並べられていた大量の料理が全て消えた…!!」

「うまかった!!大満足だ!!!」

「お粗末様そまつさまだが…その体のどこに入った?」

「胃だろ?」

「あきらかに容積ようせきをこえている」



空いた皿を片付けながら、男というものはこんなに食べるものなのか。

疾風が特別なのか?などと考えた。

考えても意味はないが、あまりの衝撃しょうげきに考えがぐるぐると頭の中でめぐっている。


しまいには、次はどんな料理で腹を満たしてやろうかと考えたところで。

神だというのに男の食事の世話のことで、頭の中が占められている事実にまたもや憤慨ふんがいしそうになった。



「お前がよく食べるせいで!!」

「…自慢じゃないが、俺は住んでた町という町で時間制限大食い勝負の記録をりかえてきた男だ!!」

「出入り禁止になっただろう」

「フッ、それどころか顔写真付きの要注意人物のポスターが町中の至るところにられてたな。しかもそのポスターが、下は子供から上はばあさんまでうばいあってた」

「そんなはじさらしのポスターを…よくもまぁ欲しがられたものだ」

「いい男だからな~」

「笑える男の間違いではないか?」



いくら見た目が良くても、よくよく考えれば腹をかかえて笑ってもおかしくない内容のポスターだ。

大食漢たいしょくかんでブラックリスト入りした男のポスターを、よくもまぁ我先われさきにと奪いあったものだと愛枝花はあきれるが。

本当に見た目だけは上等なので、他の文字などは目に入らなかったんだろう。

愛枝花はそう思うことにした。



「よっし!充電じゅうでんしたから作業に戻る。ちなみにオヤツはなんだ?」

「これだけ平らげてオヤツまで要求ようきゅうするのか…!!一体お前の胃はどうなっている!?…まさか、四つや五つもあるのでは、」

「俺は反芻はんすう動物か!牛じゃなくて狼だっつーの」



子供のようにふてくされる疾風を見て、そういえばこいつの方が遥かに年下だったのだと考えを改める。見た目は大人でも、人間の子供と変わらない精神年齢なのだと考え直し。愛枝花は頭が傷む思いだった。



「…まさか甘味かんみまで作ることになるとは…今ある材料で何が作れるか」



 困ったようにまゆを寄せる愛枝花に、疾風はまたも頭を強くでる。

髪が乱れる上に、子供扱いされている気しかしないので愛枝花にしてみれば非常に腹立たしいことこの上ないのだが。

それよりなにより、疾風の眩しすぎる笑顔に不安がよぎる。



「まさかとは思うが、やはりたくさん……食べるなお前は」

「当然!山盛りで頼むな?」

「私は料理人ではないのだぞ…」



 自分は女神であるはずなのに…。そんな呟きは、強いすきま風がさらっていった。  



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る