おやつ
「おからに、薄力粉…卵に豆乳もあるか。ならば、あれを作ろう」
愛枝花は変な使命感に燃えていた。
なぜなら今からまた商店街に行って材料を買ってくるのは
その上、大量に作れるお菓子だ。
普通なら頭を悩ませるところだが、愛枝花は材料に一通り視線を巡らせると作る物を決めたのか早速調理にとりかかった。
ボウルに卵と豆乳を入れよく混ぜる。
生おから、薄力粉、砂糖を入れさらに混ぜ
サラダ油を生地に混ぜ、熱した油の中にスプーンですくって落としていく。
くるくる油の中で返して、きつね色になるまで揚げる。
「『おからドーナツ』をこんなに大量に作る日がこようとは…」
油で
通常、一人では決して食べきることが出来ない量のオヤツが完成した。
「オヤツだぞー」
きっちり3時になってから、山の中にいる疾風に声をかける。
どれだけ声が小さくても、食事に関することならどんな
現に、遥か遠くから
「オヤツはなんだ!?」
ちぎれんばかりにしっぽを振り、キラキラと目を輝かせる疾風を見て。
狼ではなく犬だろう、どう見てもと。
愛枝花は心の中で人知れずツッコミを入れた。
「…おからドーナツだ、冷めないうちに食べよ。熱い茶も入れてある」
「いいな!腹にたまるオヤツは大歓迎だっ」
「それは良かった。
「生まれてこのかた、腹を壊したことはない!腹減り過ぎてヤバかったことはあるけどな!」
まるで真夏の太陽のように
だが思えば、この男が来てから良い方向に進みうまく回るようになった。
全てのことが
全てはうまくいく、そんな予感がした。
「作業は…
「まぁな!というか驚いたぜ。この山の木全部、ヒノキじゃねぇか!!しかも国産ヒノキだよな?」
愛枝花がこの山に社を建てると決めたのは、山の主がいない上に発展途上の
ヒノキは神が好む香りと性質を持っているのもあって、この場所は女神としては最上の土地だったのだ。
「わざわざ外国から輸入して
「うわー…あれだけ良質なヒノキを斧でスパスパ切り倒したのかよ、俺は」
「ハゲ山にする訳でなし、道を作る程度なら構わぬ。それにある程度木々を整えなければ山の
「なるほど!木材費がかなり浮くな。しかも余れば売れる」
「ああ、ならば打ってつけの相手がいる。社が完成次第、取りに来させよう」
疾風もドーナツを食べ終え、愛枝花が
本日も雪が降るほどの寒さなので、熱いお茶がとても美味しい。
のどかな時間に、疾風は一気に老人になったような気になったが。
隣に座る愛枝花に視線を送れば、そんな考えは一気に吹き飛んだ。
「……」
元々は女神であるがゆえに、
熱い茶を飲んだことで、湯気で白い肌が紅くなった頬。
そのパーツひとつひとつが
まるで光を
最初の頃と比べ、ずいぶん柔らかくなった
それに居心地の良さを感じた疾風は、一言も話さないまま愛枝花の側に近づいた。
「どうした?」
ひどく穏やかに声をかけてくるので。
今までの言葉や口調にすっかり慣れたつもりでいた疾風は、調子が狂いそうになっていた。
「いや…なんか、愛枝花の側が居心地いいなー…と」
そう言って
かつてないほどの満ち足りた時間が流れているのを、心身共に感じているのだ。
やはり最低限の衣食住が揃っていないと、心は満たされない。
廃屋に近い建物で、すきま風が
女神がおわす神聖な社は、たとえオンボロでも空気が居心地がいいものなのだとしみじみ思うのだった。
「…冷たいことばかり言う生意気な女の側が居心地いいのか?」
「全部相手のことを考えての言葉だろ?本気で傷つけようとした言葉は一つもない」
「私は女神として、
気高く
神としては底辺にいることは間違いないというのに、この誇り高さはなんなのか。
「かっこいー」
「なんなんださっきからお前は」
「いや、これで俺とお似合いの外見年齢だったら
「…馬鹿らしい」
いつの間にか横になり、疾風が愛枝花に
少しの間を置いて、ようやく愛枝花が気がついた。
この穏やかな空気に
地の底から響くようなうめき声を上げながら、頭を押さえてうめいているのを見て。
畳で頭を打ったぐらいで大げさな、と冷めた目で光景を見ていた。
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