輪っかをほどいて

春菊 甘藍

蓑虫

ずーっと、頭から離れない。


冷蔵庫の奥の卵みたいな匂いが充満する部屋。カーテンは閉め切られて漏れる陽光はここじゃない世界を教えてくれる。


ギシギシとカーテンレールが軋む。カーテンじゃ無い異物がぶら下がってる。うつむいたお人形みたいに。


ギシギシ。ギシギシ。


隣の部屋はうるさい。隣の部屋のゴミの中には、風船の中に無駄打ちされた命があって。ときどきトイレに朱い痕。余りにも赤黒く、聞こえた泣き声うるさくて。


乳母車から聞こえてきたのと似ていたな。


工場。パチンコ店。新興宗教施設。

これらだけがきらびやか。


塾も増えた。頭の良い子供は、こんな街には残らない。


臭い部屋に。蓑虫と二人。

いつから、彼女は蓑虫になってしまったのだろう?


蓑虫が蛾の幼虫なら、彼女は飛び立ってしまったのか。もしも天国があるのなら、ここより良い場所であってくれ。もしも地獄があるのなら、ここよりきっとマシだろう。


あんまりにも一人は寂しいから、僕も蓑虫になってしまおう。部屋の隅の写真立て、あの日の笑っている君と僕はこんな未来を願ったか?


あまりにも寸詰まり。進むも退くもできはしない。金は無く、ただただ生きるには僕らはの心は脆すぎた。


だからどうか誰か、この首に掛かってる。


輪っかをほどいてくれないか。




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輪っかをほどいて 春菊 甘藍 @Yasaino21sann

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